エルフの復活 前
光と共に現地の転送門に空間転移してくると、急激に高温多湿! 木々の精油と土の発酵臭も濃厚でした。
赤道にある黄土大陸の熱帯雨林に来ました。
「うっはっ、落差っ!」
「即、着替えたいっっ」
「現地の野伏が近くの野営地に来て・・ん?」
野晒しながら、補修の跡がたる円形の転送門の近く水溜まりに水のマナの気配を感じました。
「魔物? 魔除けの範囲内だよなっ」
転送門周辺の魔除けは念入りに補修済みのようです。
「・・水霊馬じゃないかな?」
「ぽいねぇ」
僕とマイサの見立ての通り水溜まりから浮き上がって実体化した水の身体の馬のような魚のような存在はケルピーでした。
一応魔物ですが、使役されることも多いので幻獣と定義付けられることも多いです。
「ブルル・・」
馬のように嘶いて、付いてくるように促してきました。
僕らは注意は怠らず、付いてゆくことにしました。
僕らは暑過ぎて白兎シリーズの防具を脱いだだらしない格好で、砂漠で使った氷の武器を取り出して自分を冷やしながらケルピーに続きます。
ケルピーは几帳面に、最近補修されたばかりな様子の魔除けの細道に従って進みます。
「わっ、蚊が多い! 最悪賞っっ」
「虫除けの精油使お」
「蛭も多いだろうから多めに振っとこうぜ?」
そんな調子で魔物以外にも色々いて、鳥や獣の鳴き声のちょっとうるさいくらいの密林をフワフワ飛び回るケルピーを追って進み続け、
魔除けの細道沿いに元からあった簡単な野営地というか、探索用の緊急安全地帯を無理から拡張した風の野営地に到着しました。
待っていたのは案内のケルピーに懐かれてる様子の13歳くらい? の野伏です。この辺りの頭目には見えませんね。
香草詰めの豚の丸焼きらしい物を作っている途中のようでした。ですが、
「あっはっはっ、何で下着なのぉ??」
僕らの姿に爆笑する野伏の少女。いや、袖無しと半裾の寝巻きのような服は上から着てるんですけどね。
「ここ暑くて」
「さっきまで極寒の乾燥したとこいたからよ」
「いい装備ない?」
「あるあるっ、使徒の戦い方は結構詳しく伝わってるから。お金あるよね? タダではあげないから」
売ってくれたのは防具にしては軽装なパイソンシリーズでした。毒蛇をモチーフとした物で、毒耐性、麻痺耐性、病気耐性、高温多湿耐性、虫除け蛭除け効果のある身軽な装備です。
「武器はね、森では大体炎の属性が有効だけど火事になり易いからウチらはあんまり使わないんだ。それにあちこち寄りはするけど、神殿まではケルピー達を使って川に沿って移動するし」
達、ということは複数使役してるんだろうな。
「川? なら、雷属性? あ、ケルピー感電しちゃうか。何かケルピー用の電気耐性の装飾品あるか?」
「あるにはあるけど、ケルピー達、雷嫌いだからちょっと無理だよ。武器は単純にマナを乗せ易い銀合金の物を用意したよ」
出された武器は、両断のブーメランとシルバーキャッチグローブ、一撃の手槍、収束のワンド、あとは魔除けの効果の強いクリスナイフを全員分でした。
「通る川の岸には強い魔物は近寄れない魔除け柱を立ててあるんだ。弱い魔物もケルピーの群れに手を出さない。ただ寄る予定の郷までにいくつか魔除けの甘い場所もあるから、そこは頑張るしかないよ」
「よく1人でここまで来れたね」
草と木で簡単な小屋を作って数日は滞在していたようです。
「遠回りすれば安全な道もあるんだ」
「なるほどな、というかお前、何者だ? 俺はオリィ・サンダーロック!」
「あ、ごめんごめん。ウチはユシャ・エメラルドレイク。お父さんがこのヤポン地方の野伏の頭目をしてるんだけど、ケルピー達と一番相性がいいのがウチだったから、案内を担当することになったんだよ」
たぶんオトヒメさんと同じタイプですね。性格はだいぶ違う感じですが。
「ほほう」
「僕はロッカ・グラスクラウン」
「私はマイサ・ルナポート」
「よろしく。オリィ、ロッカ、マイサ! そろそろ来るって話だったから仔豚ちゃんを焼いてたんだ、食べよ!!」
というワケで、僕らはユシャ特製の仔豚の丸焼きと蒸かしたタロ芋の一種と森のフルーツ、のヤポン地方的な歓待料理を御馳走になりました。
・・エルフ族は孤立した種族ではあったそうですが、知性が高く私欲は薄く高潔な種族だったとも様々な資料から読み取れます。
2000年前、種族間戦争が激化する中、エルフ達は世界を救おうと考えて凶行に走ったのかもしれません。
ノームもオーシャンピープルもドワーフ族も、当時の穏健派で、感触に違いはあっても概ね毒気の抜けた様子で目覚めていました。
危ういバランスでもすっかり凡庸になってしまった今の世界に、目覚めたエルフ達はどう思うのかな?
もう世界は救われている? それともその場しのぎを繰り返して、ただ偶然に僕らの世代が生きているだけなのでしょうか。
ケルピーに乗った僕らは水面を走るようにして、川を遡上していました。ユシャが4体のケルピーを召喚してくれています。
「これ最高だ!」
「犬橇より好き賞!」
「だよねーっ。でもウチ、犬も好き!」
かなり軽快ですね。岸の魔除けというのはしっかりした作りの物でしたが魔除けと魔除けの間隔はかなり開いていて、確かに『弱い魔物は素通り』という妥協でどうにか成立させてあるものでした。
増水時の侵食を繰り返しがちな上に川という流動する物の通り道に効果を定着させるのはやっぱり難しいんでしょうね。
それなりに潜む川の低級な魔物達は、勢いよく走り抜けるケルピーの群れにはやはり手を出せないようです。
先頭のケルピーを駆るユシャが結構力の強い魔除けを身に付けていることも利いてるようですね。
進み続け、日が暮れる頃に川の近くの高台にある魔除けの野営地で泊まり、翌朝また出発して昼を過ぎる頃になると、川幅が広くなり流れが穏やかになって、岸の魔除けの柱の間隔も少し短くなってきて、川の近くに街道もチラホラと見えるようになってきました。
さらに進むと川辺に柵や作業小屋等も目立ち始め、魔物の気配が薄まり、川でも漕ぎ手は6人くらいの魔除けの利いた小舟と擦れ違うようになってきます。
遡上する舟はそれこそ必死ですが、下る舟は悠々としていました。
この川から見て、支流がここまでにいくつもありましたからね。
「ロッカ、あっちに曲がると都会だよ? でも人が多くなるとケルピーで乗り付けると自警団とか衛兵がうるさくなるんだぁ」
不満そうにユシャがそんなことを言ったりもしました。
夕方、どうにか目指していた郷に到着しました。ケルピー達はユシャの指輪の中に戻ってゆきました。
川辺に桟橋と作業小屋があって、そこから少し上がってタロ芋何かの水に強い作物の簡単な畑、さらに上がっておそらく山羊や豚を昼間離す牧場、さらに上がって奥に進むと本格的な農地があって、その向こうに郷がありました。
郷の規模に対して農地が広いのは多くを自給自足で生活を支えているからでしょう。
その郷、マイジカ郷は野伏やその関係者を主体とした僕らの基準からするとちょっと珍しい郷でした。
野伏の宿営地の人達と同じで、事情を知っていても遠巻きに控え目な反応でした。
「密林だと、簡素な宿営地を転々とする、って難しいんだ。植物の力が強くてすぐ森に帰っちゃうから」
「野伏が簡単に郷を組んでいい物なのかな?」
「難しいけど、僻地は税を納めれば。都会は仕方無いから街の中に小さな拠点を組んでるよ? たぶん皆が思う流離い人みたいな野伏と、ヤポン地方の職業集団として動いてる野伏は違ってるのかもしれないね」
「へぇ」
「所変わればね」
「それより、頭目だ! ユシャ、お前の親父のとこに案内しろ」
「はいはい、昨日の野営地から水晶通信で連絡したから話早いと思う。あれ、便利だよね」
僕らはマイジカ郷の里長でもあるらしい、ユシャのお父さんの所に向かいました。
「うおっ? ドワーフ!」
オリィがギョッとしましたが、僕とマイサもです。ユシャの実家でもある頭目の家にはドワーフが1人来ていました。
フェザーフット族なら中年くらいの方ですが、筋骨隆々の男性でした。
「使徒かっ! 子供だなっ。まぁフェザーフット族は全員子供に見えるがなっ、ハッ」
反応に困りますね。ユシャに似ている頭目も困り顔でした。
「こちらは復活したドワーフ族の特使で、フガク・スティールパン氏だ。同行したいそうだ」
「したいではない。する、のだ!」
手強そう。
「今朝開通した近場の転送門からノームの特使の方達と共に来られたのだがな。来て早々、何というか、齟齬、があって、ノームの方々は帰られてしまったよ」
「宗教問答がしつこいからだっ、鼻を折ってやった。ふん!」
物理的にも手強そう。でも、言っておかないと。
「特に問答するつもりはないですが、一緒に行動するなら乱暴は困ります」
「んん? 我々ドワーフは別に野蛮人ではない。そちらに瑕疵が無ければ道理は守ろう」
握手を求めて来たのでキャッチグローブを取って応えました。
「!」
岩その物のような手で、かなりの力で握り返してニッと笑ってきました。
工学文明を発達させても山賊的、ドワーフ流何でしょうねっ。




