ドワーフの復活 後
翌日、ドワーフ神殿はモイズン地方の中でも極北。氷のマナが非常に強く、猛烈な吹雪でした。
訓練されていても普通の犬では耐えられないので、寒冷種のワーグに代わりに橇を引かせています。
僕達の橇はワーグ4体。御付き2人の小型の橇は2体のワーグが牽いています。ペスは特注のダイアーウルフ用の防寒胴着を着込んでワーグ達を先導していました。
僕らは雪避け眼鏡だけだと呼吸し辛いので雪避けマスクもしていました。
ズーレアさんはもう姿を隠す必要はないですが、オーシャンピープルの姿では橇に乗り難く、人型の脚を出す姿だと疲れるらしく、魚の姿で結局常温水槽の中にいます。水槽が破損しないように厚手の布でくるんで、ワーグは犬より速いのとこの吹雪です。落とさないように紐でマイサの胴と結んでしまっています。
僕ではなくマイサなのは「何かヤラシイ」と言われたせいです。別に何も考えてないんですが・・
吹雪の中の橇の操縦は、犬程従順でないワーグの扱いを含めて難度が高いので改めてラチャさんが行っていました。
オリィと僕は宿営地で借りた腕力だけで装填するのが大変なへビィクロスボウを装填済みの状態で抱えています。
もう演習してる場合じゃないですし、魔物に遭遇しても避けるか、牽制して逃げると決めています。槍やブーメランじゃ武器を失くすだけですからね。
道筋を1つに限定しても、この地域にたくさんの魔除けの杭を打って維持するのは大変なので、間隔が広いです。
ペスとワーグ達の探知に頼って避けながら進んでいたのですが、これ以上避けると少ない杭の道筋から外れ過ぎて返って危なくなり、仕方なく元の動線に戻った所でとうとう魔物に遭遇してしまいました。
「ゼェウウゥゥッッ!!!」
寒冷種の鼬竜ですっ。それも3体。獣毛を持つ四つ足の下位竜の一種。体長10,5ベル(7メートル)ですが、尾が長いのでそこまで巨体でもないです。
普通の環境と状況なら今の装備で問題無く倒せますが、今はマズ過ぎました。
「ペス! 構うなっ、避けるぞぉ?! ワーグ達を誘導しろぉっ」
「がぁぅっ」
「オリィ!」
「わかってる!」
蛇行するように避けるペスとワーグ橇。後ろの橇のこともありますっ。僕とオリィは追ってこれないように四つ足の内の1本を狙って打って2体を絶叫させてその場に釘付けにしました。
しかし、このへビィボウガンを橇の上で再装填するのは大変ですっ。
1体猛烈な速度で万年雪の上を泳ぐように追ってきます!
「任せてっ、必殺・・臭い賞っ!」
マイサはウワバミのポーチから、小箱に入った丸い球を取り出しドラゴフェレットに投げ付けます。球は直撃して砕け、煙を上げましたっ。
「ゼェウゥッ?!」
慌てふためいて悶絶するドラゴフェレット。臭い球です。撃退できましたね。
「今日も百発百中・・」
何やら黄昏た感じでポーズを決めるマイサでした。
そうしてどうにかドワーフ神殿側の、ここも仮設の小さな魔除けの野営地に着くことができました。
神殿は円形の巨大な氷の谷の底にありました。吹雪は周囲だけ止まっています。
「どうなってるんですか?」
「温めるんじゃなくて吹雪避けの結界が張られてんだぁ。その方がマナの効率がいいのと、環境や設備の影響が少ないんだろうなぁ。と言っても、ドワーフ達も2000年放置されたらどうかるか? 何て考えてなかったろうけどよぉ」
なるほど。避けた吹雪が氷の谷を作ってしまったんですね。
「よいしょ」
布から出されていた常温水槽から魚化を解いたズーレアさんが出てきました。
「休憩が済んだら、わたくしが降下魔法を使いましょう。得意です」
僕らは休憩を済ますと、ワーグ達はラチャさんの御付きの2人に任せ、合わせて氷の上の仮設野営地に緊急用の水晶通信機も取り付けてもらい、ズーレアさんのフォールの魔法で氷の谷の底のドワーフ神殿へと降りてゆきました。
「オーシャンピープル神殿のように不可侵だったワケでもないがよぉ、ノーム神殿と違って毎年のように調査や調整ができてたワケじゃない。10年から15年に1度ってとこだぜぇ。ここに来るのも大変だし」
内部に入るとマナ灯の灯った、思ったより整った設備でした。かなり機械化されています。
眼鏡とマスクを取った僕らは周囲を伺いながら進みます。
「使役されてた機械化巨人達は時間が経ち過ぎてもうほとんど死んでるか動けなくなってるんだが、機械蟲どもが厄介なんだよぉ。ほら、アイツら! 隠れろぉっ」
僕らは急いで物陰に隠れました。蟹とカミキリムシの中間のような機械の魔物が7体、通路の向こうを通り過ぎてゆきました。
「全種じゃないんだが、一部に設備や他の機械蟲を『修理』する性質のヤツらがいてよぉ。お陰でノームのゴーレム達よりよっぽど状態がいいのさぁ」
「道理で中が整ってるワケだ」
「これってドワーフの人達、復活したらすぐ有利だよね?」
「そうなんだよなぁ。正直、もう1種か2種後でもよかった気がするんだよぉ」
「ここまで来たらやりましょう。それに、残っているのはエルフ、バルタン、ワードラゴン、ロングフットです。わたくし達が言うのもなんですが、どれもドワーフより厄介ですので・・」
「まぁ、そうかもしれないけどよぉ」
「取り敢えず、機械蟲は陽動しましょう。ノーム神殿のゴーレムのり遥かに多そうです。あと、火属性より雷属性の方が有効ですよね?」
僕達は武器はモストリーテ地方で使っていた雷属性の物に持ち変え、ラチャさんは牽制特化の手回し式の連射ボウガンに持ち変えました。
陽動はマイサがブリキの鳥で行いました。結構マナを消費するので魔法石の欠片をガンガン消費してゆきます。
「マイサ、ちゃんと視界共有は切ってね」
「もっと右だって!」
「ペスに手伝わせるかぁ?」
「がぁぅっ」
「白兎シリーズの帽子って可愛いですよね~? フェザーフット族って小っちゃいから余計に可愛い。わたくしのいた社にも地上に分社があって、そこには」
「もっと左だって! 予備動作でわかんだろ? ヘッタクソだなぁっ」
「視界共有は切ってるよね? 危ないよ」
「がぁぅっ」
「ペスは」
「で、分社がですね」
「うるさぁああーーーいっっ!!!」
マイサが混乱しつつ、僕らは殆んど戦闘を避けつつ、深部までたどり着くことができました。
そうしてジェミニクレストで祭壇の間前の機械まみれの広間に入ると・・
「ま、管理破綻してないとこはいるよね。眼鏡とマスクをしよう!」
守護者として配置され、眠っていたのは機械化された上位巨人族、霜降る巨人でした。永い年月で身体は半ば結晶化していますっ。
「生きてんのか? コレ??」
「武器は火属性の方がいいよね?」
「俺とペスは陽動に専念するぜぇ」
「酷い改造・・永過ぎる役目を終えさせましょう。竜の鱗!」
ズーレアさんが全員にレジストの魔法を掛けると、フロストジャイアントは反応して目覚めました。
「ボォオオッッッ!!!」
あっという間に広間は吹雪に覆われました。
「盾よ!」
マナが足りないので魔法石の欠片を1つ使って全員にディフェンドを掛けるオリィ。
僕はペスとズーレアさん以外にエアフットの魔法を掛けますっ。ラチャさんは戸惑いましたが、遠距離威嚇だけなら自足より安全なはず!
当たれば即死の巨大な氷の拳を振るうフロストジャイアントっ。もう一手入らないと攻撃できそうにないですっ。ラチャさんとペスが連携して目を狙って陽動してくれています。マイサは例によって鬼火のワンドに火のマナを溜めています。
「枷よ!」
魔法石の欠片を2つ対価にして、特大のバインドの光の輪でフロストジャイアントの両腕を押さえるズーレアさんっ。
フロストジャイアントはスノーファンガスとは比べ物にならない出力の冷たい息を吐こうと構えましたが、
「うらぁっ」
オリィが喉に燃える槍を打ち込んで阻止! 僕も続けて飛び退いたオリィが空けた裂け目から冷気が漏れる喉の傷口に、燃えるブーメランを投げ付けて穴を拡大させますっ。
「マイサ!」
「爆ぜてぇーっ!!」
ファイアボムを炸裂させて、フロストジャイアントの首を切断させるマイサ。地響きを上げて落下した頭部は半ば左右に割れかけていました。
身体は凍結と結晶化で機械化部分だけ残し砕け散ってゆきました。
「ボォオ・・」
虚ろな顔のフロストジャイアント。
「巨人よ、貴方の魂に掛けられ縛りは外れました。北の大地に御還り下さいね」
ズーレアさんに祈られながら、巨人の頭部も砕け散ってゆきました。
僕は祭壇のオーブにジェミニクレストを掲げ、7人のドワーフを目覚めさせました。
「うおっ?」
「滅びの時をやり過ごせたか、ふふっ」
「使徒か! ホントにフェザーフットが生き残っているぞっ」
「オーシャンピープル?」
「北海の巫女、なるほど。我らは警戒されたな」
・・何か、これまでとまた違う感じですね。
「ドワーフの最後の王達よ」
マイサにレイミーアズス神様が宿りました。
「星の神、か」
「フェザーフット等にも降りるのだな」
案外平然としているドワーフの王達。
「神の御前です」
横座りするオーシャンピープルの平伏で嗜めるズーレアさん。僕とオリィとラチャさんも慌てて続きます。ペスは取り敢えずお座りしました。
王達も渋々といった調子で平伏しました。
「2000年の年月の事はこの地の者達に聞くとよいでしょう。貴方達の罪が忘れ去られた訳でもありません。しかし、それでも時は過ぎました。贖罪はその意志と行動を持って為しなさい」
「帝国主義にはうんざりです」
「共和制でしょうな」
「選挙は当分よそう。最初からやりだすと人気取りのバカしか当選せず、何も進まん」
「・・全ては奪いません。が、貴方達から大地と工学の真理を遠ざけます。その上で、各地で打ち捨てられた荒ぶる上位巨人達の再封印と機械の虫達の廃棄を課します」
「何とっ」
「今の我らには酷なことです」
「信仰を問題視されているのであれば改めて貴女への信仰を国教としましょう。ですからせめて巨人どもの管理はこの時代で人口の多い種族が」
「なりません。成すことです。今度こそ、善き人類足りなさい・・」
いつもより厳しい顔の神様の気配は去り、気絶したマイサをいつも通り僕とオリィで受け止めました。
僕達はワーグの橇で仮設宿営地まで戻ってきていました。
戻って早々、ノームの2人に質問攻めにされて参ったけど、聞くだけ聞くと2人は箱型の乗り物に変形するゴーレムに乗って押さえているらしい、近くの転送拠点にいそいそと去っていってしまいました。
「ちょっと不穏な感じになってきたな」
「あの人達にしたらつい昨日まで戦争してた、って感覚何だと思う。不毛賞」
「ドワーフ達にもノーム達にも、わたくし達オーシャンピープルにも、かつての魔法の奥義や勢力はもうありませんから。未だ策謀する方達も遠からず気付きますよ? わたくし達はただの人、だって・・」
「何にせよ、ドワーフ達はあの調子だと必ず地域の有力者達と揉めるだろなぁ。ノームより根回しに気を付けてやんないとよぉ。ペスも頑張ろうなぁ」
「がぁぅっ」
「ドワーフの人達が飛行船を造るのを待ってバルタンの神殿に行こうと思ってたけど、あまり優先してくれなさそうだし、陸でドワーフに対応する復活種族がノームだけっていうのもやっぱり危い気がしてきた。次は」
僕は温かいココアのカップをテーブルに置きました。
「エルフの神殿に行こうと思う。どうかな?」
ペス以外の皆の顔に、それなりの緊張が走ります。宿営地で待つ方が正解なのかもしれませんが、根拠無く好転することを期待するよりも僕は動きたかったんです。




