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七話:しばしお待ちよ

「記憶が無い俺より、違う者が良いと思うのだが?」 

 単純な疑問だった。答えは見えているが、確認する意味で聞く。

「それには私からご説明します」

 ファリスが横から入った。ちらりと王を見ると、王は頷いている。

「召喚は、行うと一年ほど使えません。使う為の条件を満たすのが、一年後なのです」

 一年。嫌な予感がした。

「もしかするが、兵を借りられなければ?」

 ファリスは頷く。

「この国は崩壊し、貴方様を返す者すら存在しなくなります」

 想像より、ずっと追い詰められていた。つまり、他の神では無く。自身で行かなければ帰ることさえ出来なくなる。こう言っているのだ。選択肢など、初めから無いのだと。

「どうやって……兵を借りるんだ?」

 考えていた。兵を借りる為だけなら、神なんていらないはずなのだ。まさか、戦いに使う気なのか。

「神様の権威で兵を借りる。こう言う事です」

 思考中にファリスの声がかかる。疑問は尽きない。納得できなかった。それが声に出る。

「それだとおかしい。神に力を借りなくても、兵くらい……、一度断られている? しかし、それだと……」

 言おうと思っていた事を、ファリスが引き継いだ。

「なぜ神を戦いに連れて行かないのか? ですね。確かに、出来ればお願いしたいのですが。その、神様にも色んな方が居られるようで、伝説を聞く限りでは、お怒りになってしまわれた話も。召喚はこちらの望みを叶える訳では無いので」

 言いたい事は分かった。神の中には戦いに行かないばかりか、話を聞いただけで下手すると、戦う前から国を崩壊させてしまう者が居ると。伝説になるくらいだから、よほどの事が有ったのだろう。召喚はルーレットみたいなものの様だ。

 しかし、後が無かった。これでは一連托生いちれんたくしょうではないか。恐らく問答をしている場合では無いのだろう。ファリスにさっきまでの余裕が見えない。それとも、神とは変な奴ばかりで、何をされるか分からないのかもしれない。伝説上で何をしたのか分からないが、言いよどむくらいだ、ひどく理不尽な事をしたのだろう。この話だけでは、理知的な存在とは思えない。

 これは使えるのではないか。全員を一年騙す方法。変な奴は何するか分からない、誰もがそう考える。よそおえば良いのだ。この国が召喚したのは、まさに伝説上の変な神で、何をするか分からない。だったら、最低限機嫌を取って早く帰って貰おう。証拠を見せろともし言われても、記憶が無いで押し通す。ただ何かしたら、記憶が戻り次第報復するよと言えば、恐れて大丈夫なのではないか。他の神を使っても良い。自分に何か有ったら、他の神が復讐しに来るぞ。これで一年間持たせれば、何事も無く帰れる。その後はご勝手にである。

 考えはまとまった。怖気づく足を何とか押さえ、一歩踏み出した。恥ずかしさと不安を押さえ付けて声を張る。そうでなければならない気がした。

「分かった、行こう。だが一つだけ条件が有る。報酬とは別の、受ける為の条件だ」

 ファリスはひかえ、王が首肯しゅこうする。

「俺には記憶が無い、それに対する全ての便宜べんぎをお願いしたい」

 王は即断そくだんする。

「分かった。貴方がこの世界に居る間の便宜をはかろう。して報酬はどうする?」

 報酬。打てる手は残しておいた方が良い。少し溜めて口を開く。

「時間は大丈夫か?」

 王は厳しい顔をすると、そうなのだと言って続けた。

「東のカブルラウムスから侵略が始まってな。確かに時間はあまり無い。報酬は思いついた時で構わんので、考えておいてくれ。それで良いか?」

 智は、それで良いと一つ頷いた。

「それでは、後はそちらの者に聞いてくれ。私は別件の用事があるので失礼する」

 周りの兵達が、退出する王に付き添って出て行った。魔法使い達も無言で出て行く。残されたのはファリスと智だけだった。

「私達も行きましょう」

 ファリスからうながす声がかかる。ゆっくり歩き始めたファリスを追って、智も後ろから続いた。

「これからどうするんだ?」

 しばらく歩いて、一番心配な所を聞く。

「夜を待って、城から出ます。貴方様のお世話は信頼できる者に任せますので」

 そんな悠長ゆうちょうで良いのかと思ったが、分からない何かが有るのだろう。黙って付いて行く事にした。

 二人の兵が、敬礼した後扉を開ける。向こうには金の広間が有って、二人の男女が立っていた。

「私が貴方様のお世話をさせて頂く、カルチャ・デバードです」

 一人は十六から十八位に見える女の子で、赤色の髪を一つにまとめている。髪をおおった茶色い布と、質素な同色のドレスが印象的な人物だ。

「私が貴方様の警護をさせて頂く、ゴーン・ダルタだ。出発の準備が有る為、出来るまで部屋でくつろがれると良い」

 こちらはシンプルな鎧を装備した、まさに兵士だった。腰にはやはり剣。金髪の鍛え上げられた美男子と言った所だ。

「それでは二人にお任せして、私は準備が有りますので失礼」

 ファリスは智に礼をとると、足音も立てず歩き出す。

 一瞬浮かんだものが、何なのかは分からない。

「どうしました?」

 ただその結果として、ファリスの肩をつかんでしまっただけだ。

「いや、何でも無い。これから宜しく頼む」

 ファリスは微笑みかけて、智から離れて行った。

「それでは神様、こちらに」

 兵士のゴーンが呼びかける。智はファリスの後姿を見ていたが、いずれ視線を外しゴーンの後ろを追った。

 二人は別々の道を歩いて行く。

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