表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

六話:シナリオ通りに

 ファリスは理解した。彼は魔法の事など知らない、あるいは覚えていない。そして、それではこちら側が困ると言う事を。魔法は一般的ではないが、子供でも青は恐れない。それでは誰も怪我などしないからだ。しかし、彼は恐れた。何が原因か分からないが、本当に記憶が無いらしい。

 正直、溜息をつきたくなった。緊急事態の上に、さらに災難。しかも原因は不明。しかし、皆が居る前、とりわけ彼が居る前ではつくわけには行かなかった。見限られるのは一番やってはいけない事である。少なくとも今は。

「先に進みましょう。王が待っています」

 彼に目を向けたまま腕を上げ、中指と親指を合わせ、弾いた。

 オレンジの光が視界をおおう。音は無い。彼は驚きもせずに立っている。だれでも一度はきもを冷やすのにと、さすが神だと感心した。光が消え粉を残すころには、無数の兵と白い柱が立つ、装飾のほどこされた大広間へと移動していた。階段の上に居る王は立ち上がり、一言。

「かしこまらなくてよろしいか? 神よ」

 聞き慣れた低い声が広間に通る。神官達はすでに体を伏せ、頭を下げていた。彼はたっぷり時間を使って。

「好きな方で」

 それだけ答えて、話す気配が無くなった。この場の進行を、ファリスに任せると言いたいのだろう。ファリスは王に振り返った。

「発言よろしいでしょうか? 王」

 ひげを綺麗に整えた美丈夫びじょうぶは頷く。

「神様は記憶がありません」

 二人の間に緊張が走る。それはそうだろう、王からすれば失敗以外のなにものでもない。しかし、ファリスからすれば、成功以外のなにものでもないのだ。あの儀式で失敗であれば、何回やったとしても、失敗以外ありえないであろう。神の記憶が無いのは、恐らく別の要因であるはずだ。あるいは、それも含めての儀式か。魔法を作る者は失敗作を放ってはおかないし、あの魔法自体、構造がとても美しかった。芸術の域でさえあった。失敗作とは考えられない。

 王もファリスの態度で察する事が有ったらしい。彼に視線を移し、即興交じりの展開をなぞった。

「記憶に関しては国最高の魔術師に任そう。それよりもだ、神よ。貴方は契約を結んで力を貸すと伝わっている。そして今、国は危機にひんしている。力を貸してもらえないだろうか?」

 彼は黙ったままだ。王は続ける。

「記憶が無くても問題は無い。隣国から兵を借りるのに、貴方の存在がいるのだ。我慢をしてもらう事も有るだろうが、どんな物事でもそれは同じだ。もちろん、終わった後には元の世界へお返しするし、望むものを契約終了の証として渡そう」

 こちらが持っているもので有ればな、と王は笑顔を見せた。人の心を捉える渾身こんしんの笑顔。ファリスは、

 その笑顔に吐き気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ