五話:魔法の理由
「すみません」
ファリスは、弱々しく呟くと「さあ、行きましょう。後に続いて頂けますか?」と、はっきり言い放ち、すっと先に行ってしまった。智は、態度の違いに違和感を感じたが、仕方なく後ろ姿を追う、他の神官たちもそれに続いた。
廊下の先には、壁一面の大きな絵があった。渦巻く水柱と、支えられて大空に浮く大地。中央には覆うように、大きな木が立っている。穏やかな雲は外を囲み、遙か上には炎の輪っか。その中央から光が差し込んで、水柱の根本には黒が漂っている。水柱の荒々しさや、大地に生える大木の様子、黒の禍々しさなど、細かい所まで描かれていて、まるで生きている様であった。
(美しい)
智は見ず知らぬ作者に賛辞を送った。その後、目だけを左右に動かす。出口が見あたらなかったからだ。ファリスは絵の前で動かない。この廊下は他に道は無い様で、薄暗い一本道だけに思われた。
「この絵は、神様が住むと言われる、別世界の大地を描いた物です」
ファリスが突然話し出した。振り向く事無く、智に向かって。
「神様は六つ。火の嗜虐師、水の癒しの海、地の聖騎士、風の自由なる羽、光の偏在者、闇の殺戮姫。この六つ。でしたら貴方様は、この中のどなたなのでしょうね?」
智に答えられる訳が無かった。神では無いのだから。ファリスも答えを期待した訳では無さそうで「こちらへどうぞ」と、開いた手で自身の隣を指した。智は無言でゆっくりと歩き、侵し難い雰囲気のファリスに並ぶ。ファリスは、指していた白い手で、自然に智の手を握りだした。それだけで、智の意識は繋いだ手に飛ばされ、体が強ばって動かなくなった。智は、まさか魔法を使われたのかと思った。騙そうとしているのが分かって、動かなくしてから殺してやろうと。でなければ、この自由のきかない体が説明できない。内心焦る。握ってくるファリスの手から、青い光が漏れた。智は頭が理解するよりも早く。
ファリスの手を振り払っていた。ファリスはその事について何も言わなかった。代わりに智の目をまっすぐ見て、
「魔法には神様と同じく六つあります。火、水、風、土、光、闇。全ての魔法はこのどれかに属します。現れる現象も違います。今、私は水の魔法を使おうとしました。水は青で現されるので、青い光が出ました。火なら赤、風は黄、土は茶、光は白、闇は黒。そして」
ファリスは間を置いて。
「火は、強い意志がなければ使えません。水で、生き物を害する事は出来ません。風は制御が利きません。土は使う者を選びます。光を狙って発動させたと言う話は、この国では確認されてません。闇は発動自体、歴史上ほとんどありません」
智は明らかな説明から、魔法を知っているか試されたのに気がついた。




