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三話:何が無くなったのか?

 智は、自身が神などではないと告げるため。ファリスに向かって口を開きかけたが、とどまった。疑問に思ったのだ。彼女、あるいはその背後は。智が単なる一般人だと分かると、どうするだろうか? もと居た世界へ送り返すのだろうか? それとも、簡単で単純な解決方法。智を殺すのだろうか? どんなものかも知れない魔法で?

 身の安全がかかっている為か、思考が広がるのを智は感じた。

 王国と言う言葉と、布製の服装、石造りの材質などから察すると。魔法がどの位のものかにもよるが、槍や弓矢が武器として主流の時代である可能性が高い。だとすると、人権なんて言葉が通用するとは限らない。最悪、分かった瞬間に切り捨てられる可能性が在る。そうならない為にはどうすれば良いか? 危険だが、神であると言う幻を見せつつ、それに触らせなければ良い。たとえばれてしまったとしても、言い訳は簡単だ。殺されると思ったから。これで済む。神などと言う、強大なものが召喚された理由が一番気がかりだが。どうにか辻褄つじつまを合わせなければ。

 智は考えをまとめると、ファリスに向かって口を開いた。

「召喚者は誰だ?」

 ファリスは優しげな微笑を浮かべながらも、恐らく先ほどとは意味合いが違うであろう。智の発言を探るような間を挟んで答えた。

「ここに居る七人全員ですが、儀式の魔法発動者、および責任者は私です」

 智は無表情を保ちながらも、責める様に次の言葉を吐き出した。

「魔法は、失敗している」

 ファリスの微笑が消えた。智は少し時間を置いたが、ファリスは何も答えない。仕方なく、考えていた事を智は続けた。

「俺には記憶が無い。自分が神か人なのかも分からない。これは失敗以外の何なんだ?」

 確かに智の記憶は無かった。だがそれは、何もかもと言うわけではない。体の動かし方は覚えているし、数少ない友人の事、親代わりの親戚、たった一人の妹。近所に新しく出来た、カンガラプスーアイスの味だって舌によみがえるほどだ。しかもそこで働いていた女の子が、元気だった事すら覚えている。もちろん、喋る事も問題ない。覚えていないのは、夜、最後に家で眠ってから、ここで起きるまでの間。一体失った記憶から、どれだけ時間が経っているのか。

 智は、眠ってから起きるまでの記憶が無くても、恐怖や混乱が起きる事は無かった。それは不要なものだと、元から存在しなかったとでも言うかの様に。

 

 

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