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一話:そこから出るのは

ファリスは城の地下。儀式に使う大広間で、その時を待っていた。中央には魔法陣がえがかれ、数人の神官がこれから行う事の準備を進めている。ファリスは緊張をほぐすため、緑の目をつぶり、軽く魔力を起こしてみた。すると心臓が有ると思われる場所に、体温とは別種の熱が生まれる。熱は不安定にその圧力を高低させ、その事がさらに緊張を呼び寄せた。

(こんな状態で儀式が成功するのかしら?)

 ファリスは、薄桃うすももの唇の奥からため息をこぼした。緊張していようとなんだろうと、儀式は成功させなければならない。でなければ、この国は滅びてしまうのだから。

 ファリスは長いまつげを持ち上げた。視界の中に居る神官たちは、まだ準備をしている。魔法陣の中央に、三人がかりで大きなつぼを置く者。その周囲、魔法陣の線に沿って聖水をかける者。魔法陣よりも、参加者達よりも外にある、結界の柱の確認をしている者。皆はもう少しかかる様だ。

 それならと、ファリスはもう一度目を瞑り、魔法の発動を続けることにした。体の内部に感じられるかすかな熱を、心臓から、余り大きくない胸まで広げる。そこから肩、腕を通り抜け、手のひらへと集めた。ファリスは呪文を唱えてみる。

すると手のひらに赤い光が現れ、急激に強まって、瞬時に火の玉へと変わった。

「姫様、準備が出来ました」

 神官の一人から声をかけられる。ファリスは、はっとして目を開けると、神官に向かって一つうなずいた。腰まである金髪がさらりと動く。髪に燃え移るまでに火を消さなければ、ふと思った。次に17歳にしては幼い顔をくずす。そんな事を考えた自分が可笑しかったのだ。同時に、幾分いくぶん緊張が和らいでいる事に気づいた。これなら大丈夫だろう。ファリスは手を閉じて火を消すと、先を歩く神官に続いた。



 魔法陣の周囲には6人の神官とファリスが居た。

 神官達は呪文を唱え続けている。手順通り、自分の番が来たファリスは、鈴の鳴る様な。しかし厳しい声を、大広間へ響かせた。

「大いなる大地、聖騎士よ。我は外を区切る事を、切に願う」

 参加者達よりも外にある柱が、淡い光を放つ。これで、何かあっても外に被害は無いだろう。ファリスは続ける。

「浄化する炎、嗜虐しぎゃく師よ。我は内に魔力を集める事を、切に願う」

 魔法陣の線に沿って炎が走り、つぼを中心に膨大な魔力が集まる。あまりの濃度に少し当てられ、気分が悪くなったが、どうにか耐える。

「包む水、癒しの海よ。我は門を作る事を、切に願う」

 壺の中にある大量の聖水が、尾を引いて空中に飛び出した。次に円形へと広がり、端だけが凍りつく。ファリスは大きな、馬車が何台も通れそうな、透明な門へと、小顔を上げた。

「知る風、自由なる羽よ。我は彼方かなたを探す事を、切に願う」

 凍った聖水の内、液状の部分が大きく波打つ。ファリスは意識を集中させ、世界を探す。しばらくすると何かを感じた。腕を前へ突き出し、何かをつかむ様に手を閉じる。

「現れる光、偏在へんざい者よ。我は道を作る事を、切に願う」

 門とファリスの腕が光を放ち始めた。ファリスは最後に、今までで一番大きな声を響かせる。

おおう闇、殺戮姫さつりくきよ。我は願う。この手に掴みし者を隠し、こちらへ引き込みたまえ!」

 腕を大きく引く。次の瞬間、門の聖水が暴れる様に噴出ふきだし、一つの存在が飛び出る。しかし、ファリスは門から目を離さなかった。ここで、飛び出したものを確認したら、暴走した門は、儀式場を吹き飛ばすかもしれない。ファリスは、襲い掛かる聖水の流れを前に、一歩も引かず。親指を軽く曲げた手のひらを、素早く流れへと向けた。

 すると、空中を走る流れは速度を落とし、とうとう手のひらから、腕一本分くらいの場所で止まった。ファリスは恐怖のため、震えそうになる手を、さらに突き出す。すると、波打つ聖水は徐々に門へ戻り始めた。白い首筋に汗が伝う。ここが一番危険な所だからだ。聖水の流れは門に戻ると、その量を減らしていき、開けた道をふさぎ始めた。

 聖水は、道へと流れ込みながら小さくなり。最後に凍った端が、口を閉じる様に合わさると、床へと落ちて粉々になった。

 ファリスは大きく息を吸って、吐く。

 これで儀式は終了した。神官達も安堵の息を吐き、ファリスへ視線をやる。ファリスは頷くと、飛び出たものを確認するため、く気持ちを抑え、動いた。

「そんな……」

 ファリスはそれがある場所へ行くと、手を口に当て、呟く。伝承では、全て女性だったはずだ。だが、目の前で倒れているのは、明らかに彼。

 年はファリスと同じくらいだろうか? 黒く短い髪と、白と黒で分かれた謎の衣服に身を包んでいる。長身だが細身で、何の能力があるのか、一見しては分からない。ただ、戦うものではなさそうだ。と、ここまで考えた時、彼が呻いて、そのまぶたにしわを寄せた。どうやら目を覚ますらしい。ファリスは失礼が無い様に、白い儀式用の衣服と髪を整えた。

 彼は目を開けたが、焦点が合ってない。ファリスは緊張しつつも、姿勢よく伸ばされた体を動かさず、彼の言葉を待った。そして、視線をファリスへと向けた彼は一言放つ。

「あんた誰?」

 ファリスは面食らった。

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