↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/16

第8話「無限の睡眠、不変の過去」

桐谷に続き、栞と俺も風呂に入り終えた。

時刻にして23:30。ぼちぼち就寝の時間か。


「それじゃあ、居間に3人で寝ようと思う。

で、桐谷にひとつ断っておかなきゃいけないことがある」


さっきの一件があったせいで、いまいち桐谷を直視できない。

適当にシーツを整えるフリをして、目を合わせないようしながら話し始めた。


「なに?」

「俺たち3人が同室で寝た場合、

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ」

「あー、自由に選べるわけじゃないんだ」

「そう。もし夢を見ても俺がいなかったら、

目を覚まして俺のこと起こしてくれ。できたらでいいから」

「わかった」

「あの、だったら私は自分の部屋で寝ましょうか…?」


口を挟む栞。桐谷の裸を俺に覗かせてしまったからか、なんだかしおらしい。


「栞ちゃんを仲間外れにするのもヤだから。このままでいい。

それに、今だと神城にムラつかれて襲われちゃうかもだから」

「襲わないって」


安心してください。童貞ですよ。


「なんなら俺が自分の部屋で寝てもいいぞ」

「それだといよいよ意味ないから。私の魅力に負けないで」

「お前なあ…」


まあ桐谷が良いならいい。決行の時だ。

元から桐谷を思い浮かべて寝るつもりだったが、

あんなものを見せられてしまっては勝手に思い浮かんでしまう。

俺たち3人は、仲良く並んで眠りに落ちたのだった——



////



気が付くと、マンションの一室にいた。

そして、俺の知らない部屋だ。

ということは、この夢はおそらく——



「あ、神城。無事に入ってこれたんだね」


部屋のど真ん中に、桐谷が立っていた。


「おう。成功したみたいだ。ここ、桐谷の家か?」

「そうだよ。自分の家の夢を見るなんて、全然面白くなかったね」


俺が桐谷の家に行くのは危険だからって理由でウチに呼んだのに、

結局夢の中で来ちゃったらあんまり意味ないな…

けどそんなことを言って不安にさせるのも良くないので、黙っておく。


「いやでも、勉強を教えるにはちょうど良かったんじゃないか?

教科書・ノート・筆記用具は一通り全部あるだろ?」

「うん、揃ってるよ」

「そんじゃあ、早速勉強やりますか…と言っても、一体何を教えて欲しいんだ?」

「全部…かな。全教科、中間を乗り切りたい。もっと言うと…大学受験も合格したい」

「一晩じゃ終わらなそうだな…まあわかった、できるところまでやろう」

「ありがと、よろしく」

「中間はわかるとして...桐谷って行きたい大学があるのか?」


少しでも早く稼ごうと思うなら、高卒で働くという選択肢もありそうだが。


「どうしても行かなきゃならない大学があるの」


桐谷の表情は、これまでに見たどんな表情よりも真剣で、そして切実だった。

氷室先生、あなたは正しかった。

確かに大学選びというのは、誰かにとっては、この上なく重要な選択みたいです。


「…わかった。桐谷が赤点を取ることは金輪際ない。大学も合格させてみせる」

「事情とか聞かないの…?」

「別に、桐谷が話したくなったら話してくれればいい。

何か大事な理由があるんだなってことは、顔見ればわかる」

「神城…」


夢の時間を利用できる前提であれば、割ける時間は無限大。

桐谷ひとり合格させられないようでは、こんな能力あっても仕方ない。


「さしあたりは目前の中間だな。範囲になってるとこ片っ端からやろう。

この夢の長さがどれくらいかは運次第だけど」

「運次第?」

「夢の長さって、必ずしも睡眠時間と一致しないだろ?

同じように一晩寝た時であっても、短い夢の時もあれば長い夢の時もあるんだ」

「なるほどね…長い夢だといいんだけど」

「じゃ、早速やるぞ」



////



数学から手をつけ、とりあえず中間の範囲は一通り教えきった。


「氷室先生に疑われ続けるのもイヤだし(自業自得)、

とりあえず数学から教えたけど。どうだ、手応えはあるか?」

「めちゃくちゃわかりやすかった。神城、教えるの上手すぎ」

「そう?昔からよく栞に教えてたのが役に立ったかな」

「…本当に栞ちゃんと仲良いんだね」

「両親ともアメリカに行って長いし、栞は昔、身体が弱くて寝込みがちだったんだ。

結果的にいつも俺が面倒を見てた。現実でも、夢の世界でもね」

「へぇ。栞ちゃん、今では元気いっぱいなのに」

「ああ。なんならちょっと元気になりすぎた。

けどアイツ、寝込んでた時期が長いせいか友達は少ないんだ」

「あんなに人懐こいのに」

「いや、あれは清楚モードを解除した状態だからだ。桐谷相手には、

なし崩し的に素を見せることになったのが良かったのかもな。

いや〜俺の能力が桐谷にバレて良かった良かった」

「それはちょっと違くない」


違うか。

でも、俺の能力がバレたから桐谷に勉強を教えることになったんだし、

結果的にはみんな幸せになってるんじゃないかな。うん。きっとそう。


「…私の両親は、数年前に離婚しちゃったの。で、ママと二人暮らしすることになったんだけど、

再婚するって言い出して。納得できなくて、家を飛び出してここに一人暮らししてるってワケ」

「だから自分で家賃払ってるんだな。で、補習なんて受けてたらバイト時間足りなくなるから

赤点を取るワケにはいかない…と」

「そ。で、パパが教授として在籍してる大学に入りたいの」

「親父さんのことが好きなのか?」

「うん。大好き。だから離婚も再婚も、受け入れられなかった。

私はパパとの繋がりをずっと持っていたい。パパの近くにいたいの」

「……」


両親に会いたいのになかなか会えなくて悲しんでいた過去の栞と、

自分の過去について語る桐谷の姿が、どこか重なって見えた。


「なおさら、桐谷を合格させないワケにはいかなくなったな」

「神城…」

「じゃあ、続きをやろうか。次は英語だ」

「Hi.」

「うわダル」


数学に続けて、英語を教えていく。

桐谷は数学より英語の方が得意らしく、さらにテンポよく進んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。