第7話「バチバチオムライス」
「お邪魔しま〜す…」
薬局での買い出しも終わり、桐谷を連れて我が家に帰ってきた。
桐谷は、異性のクラスメイトの家に来て、若干萎縮している様子だ。
栞とは短時間で随分と仲良しになったみたいだが。
「それじゃ、私の部屋で麗奈さんにメイク教わってくるから」
「ああ」
「メイク終わったら見せに行くから、期待して待ってて」
「すぐ風呂入んのに、なんかもったいないな」
「いいのよ、その分いろいろ試せるんだから」
「そういうもんか」
「そういうもんよ、それじゃね」
栞は桐谷を連れて自室に入っていった。
化粧をしない俺にとってはあまりわからないが、
プラモ組み立てた瞬間に壊すみたいな感じで、もったいない気がするけど。
さて、今のうちに夕飯でも作っておきますか。
桐谷に好物なんて知らないが、オムライスでも作ろう。
そういえば栞って、いつから化粧してたっけ。
高校入学して1ヶ月くらい経ってからだったかな。
同級生がよってたかって化粧し始めたから、化粧せざるを得なくなったとか。
まもなくオムライスも完成か、というところで。
栞と桐谷が部屋から出てきた。
「どーよ、兄貴。ここ10年で最高の出来」
「お前1年も化粧してないだろ」
軽口こそ叩いたが、そこにはいつもの130%くらい可愛い栞が立っていた。
栞はなぜか清楚路線を目指しているため、普段からナチュラルメイク寄り。
今回も方向性は同じなのに、いつもと全然違う。こんなに変わるか。
「すごいな桐谷…お前の技術、もはや職人の域だ」
「まず私を褒めなさいよ!!!!」
「悪かったよ…めちゃくちゃ可愛いぞ、栞」
「えへへ〜〜兄貴が可愛いって言ってくれたの久しぶりかも〜〜」
普段から可愛いとは思っているが、あんまり言うと調子に乗るからな。
「栞ちゃん、素材が良すぎ。こんなの可愛くならない方がおかしい」
ふんす、と桐谷がやり遂げた職人の顔をしている。お疲れさまです。
「ありがとう桐谷。栞、めちゃくちゃ嬉しそうだ」
「どういたしまして。もっとも、嬉しそうなのはアンタが褒めたからだと思うけど」
「そうか?…あ、そういや桐谷、オムライス食える?」
「うん、大好物」
「良かった。ちょうどできたところだから、食べてくれ」
テーブルにオムライスを並べ、3人で囲む。
冷めないうちに食べてしまおう。
「それじゃ…いただきます」
「「いただきます」」
オムライスを食べ始める。
栞以外に料理を振る舞うなんて何年ぶりだろう…ちょっと緊張する。
「え…めっちゃ美味しいじゃん」
「そうか?良かった」
「なんでこんな料理上手いの…ちょっと敗北感」
まさかの裏目に出た。何かフォローをしなければ。
「俺には化粧の技術なんてないし、バイトもしてないし、
学園一のギャルでもない。桐谷の方がよっぽど凄いよ」
フォローといいつつ、これは本音だ。
俺は桐谷を尊敬しているからこそ、つい助けてしまう。
「ん…ありがと」
「それに、その言いぶりだと普通に料理できるんだろ?
俺が桐谷に敵うのなんて、それこそ勉強くらいだよ」
「私は自分のぶんを作るだけだから、よっぽどズボラだけど…
アンタの料理は、栞ちゃんのことを想って作ってるのが伝わってくる」
「今日は桐谷のことも考えて作ったけどな」
「ふぅん…」
「兄貴がすごい勢いで麗奈さんを口説いてるんですけどー」
栞が口を挟んできた。
バッチバチのメイクでオムライス食うの面白いからやめろ。
「いや違うって!実際、桐谷の技術は凄かっただろ」
「そりゃあもう。本当に今日教われて良かった!!
来週、クラスで無双するのが楽しみ」
「お前クラスで無双するの好きだな…」
「それは兄貴もでしょ」
「ホント仲良いんだねアンタら…羨ましい」
桐谷は、どこか寂しそうな笑顔を浮かべて俺たちを見守っていた。
////
「ぼちぼち風呂入るか。桐谷、お客さんだし最初に入ってくれ。
入浴剤買っといたから、良かったら使って」
薬局で買っておいた入浴剤を桐谷に手渡す。
無限の眠りへと誘ってくれるらしいですよ。
「ありがと…気が利くね」
「別に、こんなの普通だろ」
「普通じゃないです〜〜普段私に入浴剤なんて買ってくれません〜〜」
口を尖らせる栞。すいません、盛りました。
「桐谷が安眠してくれないと、俺も夢で勉強の教えようがないだろ」
「ん〜〜」
「それに、栞も入浴剤の恩恵受けられるだろ。良いじゃんか」
「んん〜〜〜〜」
いまいちご納得いただけていない様子。
「風呂の使い方とか、タオルだの着替えだのは、栞が教えてあげてくれ」
「言われなくてもちゃんとやるわよ。さあ麗奈さん、洗面所に行きましょ〜」
栞は桐谷を連れて洗面所へと消えていった。
さてと…それじゃあ俺は寝床の用意をするか。
3人同室に寝るとなると、俺や栞の部屋では厳しい。
居間に、俺・栞のマットレスと来客用の布団を置くのがいいかな。
ということで、1人でせかせかと寝床大移動を開始。
どれも大きいので大変だったが、なんとか運び終えた。
そして今さら気付いてしまったのだが、3人同室で寝た場合、
俺は栞と桐谷、どちらの夢に入ってしまうんだろう?
桐谷に安心してもらうため、栞も一緒に寝てもらうことにしたのはいいが...そこまで考えていなかった。
これまで、誰かの夢に狙いうちで侵入しなければいけない状況なんてなかったから。
今夜はとにかく桐谷を思い浮かべながら寝てみるしかない。
確率は50%だ。いや、50%なのかすらわからないが。
そんなことを考えていたら、洗面所から栞に呼びかけられた。
「兄貴〜〜今日買ったシャンプー持ってきて〜〜」
「わかった〜」
そういえば、ちょうどシャンプーが切れそうだったっけ。
桐谷は入浴中だろうから、洗面所にいる栞にシャンプーを渡す分には大丈夫だろう。
俺はそんな軽率なラッキースケベは起こさないぞ。
シャンプーを持って、洗面所のドアを開ける。
そして同時に、風呂場から全裸の桐谷が出てきた。
栞を挟んでいるのですべては見えないが、
見えてはいけないものがたくさん見えている。
「えっうわごめん!!」
急いで背を向けた。
「栞に呼ばれてシャンプー持ってきただけなんだ!わざとじゃない!
これ置いて出ていくから!」
背を向けたままシャンプーを床に置き、そのまま静かに洗面所を立ち去った。
銃を突きつけられた人質みたいな気分だ。突きつけられたのは裸体だけど。
「……栞ちゃ〜〜ん??」
「違うんです麗奈さん...まさかこんな早く出てくるなんて思わなくて!
私が兄貴を呼んだ声、聞こえませんでしたか…?」
「シャワー浴びてて全然聞こえなかった」
「本当ごめんなさい…どうしたら許してもらえますか…」
「うーん…じゃあ栞ちゃんの裸でも見せてもらおうかな」
「ええ〜〜〜〜!!」
栞と桐谷のやり取りは途中までしか聞こえなかったが、俺は急いで居間に戻ってきた。
なんということだ、軽率にラッキースケベを起こしてしまった。
もっと慎重にならなきゃいけなかったんだ。
それはそれとして、さっき見た桐谷の姿が脳裏から離れない。
こんな精神状態で夢にお邪魔するワケにはいかない。早く忘れないと...




