第5話「妹尋問 vol.2」
朝のホームルーム。
栞との放課後をどう凌ぐかばかり考えていたのだが、
担任でもある氷室先生からこんなセリフが飛び出した。
「突然だけど、進路希望調査を行なうわ。
記入用紙を配るから、今週中に提出すること」
「はあ!?」
「早くない!?」
「まだ何も決めてないって...」
クラスメートのどよめきをくぐり抜けて、記入用紙が回ってくる。
進路希望を第3希望まで書くという、よくあるやつ。
これって高校2年生のうちから書かされるのか。
睡眠学習し放題な俺にとって、受験というのはそこまで構えるイベントじゃない。
夢の中で過去問を解きまくっておけば、十中八九なんとかなる。
行きたい大学はまだ決めてないんだが...適当な大学を書いて提出しておけばいいか。
ふと前方の桐谷が目に入ったが、どうやら頭を抱えている様子。
勉強の得意不得意以前に、バイトで勉強時間が確保できなそうだもんな...
そもそも進路の希望を、全く知らないけど。
などと考えていたら、また先生が話し始めた。
「今のうちから進路を考えることはとても重要よ。
大学選びなんて、そのまま人生決まっちゃったりするんだから」
まあ、それはそうなのだろうけど。
だからこそ、そんな簡単に10代で決められるものじゃないと思う。
こんな能力を持っている俺ですら、就きたい仕事をパッとは決められない。
例えば"睡眠家庭教師"、なんて銘打ってみても、誰も雇ってくれないだろう。
「ちなみに先生は、教育学部に進んで先生になるという目標は達成できたけど、
お嫁さんになるという目標が達成できていないわ…」
そうなんだ。
「できて、いないわ」
生徒に圧をかけるな。
「人生って、難しいのよ…」
先生は遠い目をした後、急に我に帰り、こう続けた。
「あと、来月には進路希望調査の内容をもとに三者面談をするから!
ちゃんと親御さんに話しておいてね。それじゃあ、ホームルーム終わり!」
キーンコーンカーンコーン。
先生が教室から去っていく。
俺の両親はアメリカでとある研究をしているらしく、普段はずーっとアメリカにいる。
外せない用事がある場合は母親が帰ってくることが多いのだが...
ちゃんと三者面談には帰ってきてくれるんだろうか。連絡しておかないと。
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淡々と授業を消化し、あっという間に帰りのホームルームが終わってしまった。
放課後の始まりだ。このままでは予定通り、栞に桐谷の件で詰められてしまう。
なんかこう、適当な理由つけて逃...
「はーい兄貴。迎えに来たよ」
教室の入り口に栞が立っている。
なんで放課後開始0.3秒で俺の教室にいるんだ。
お前の教室は1階で、俺の教室は2階なんだが?
「お前...ちゃんと自分のクラスのホームルーム出たのか?」
「人生には優先順位ってものがあんのよ」
出てないやんけ。
「こうでもしないと兄貴逃げるでしょ」
「まあね」
「まあね、じゃないのよ。ホラ、さっさと行くわよ」
「え、どこにだよ?」
「屋上」
放課後になった直後の屋上、確かに誰もいなさそうだ。
秘密の話をするのにうってつけってワケね。
教室を出る時、誰かに見られているような気がしたが...
ホームルームが終わるやいなや栞が突撃してきたんだ、見られもするか。
屋上にやってきたが、案の定誰もいなかった。
というか本来、屋上に出ることは禁止されていた気がする。
ただ、誰でも鍵を開けられるので、ちょくちょく生徒にこっそり使用されているのだ。
「今朝は私の華麗なフォローで助けてあげたけど。
兄貴さあ...桐谷先輩の夢の中に入ったワケ?」
「ああ。この間、数学の小テストがあってさ。
解き終わった後に居眠りしてたら、入っちゃったんだよ」
「ふーん、それで?」
「それだけだけど」
「だったら能力のことバレそうにならないでしょうが」
さすが栞。能力のことをよくわかっていらっしゃる。
確かに、ただ夢に侵入しただけで能力がバレることはない。
「小テストの答えを、桐谷に全部教えたんだよ」
「はあ?」
「で、俺と桐谷だけ満点を取っちゃったから疑われてる」
「なんでそんなことしたのよ」
「ただの気まぐれだよ」
「どうせ桐谷先輩が可愛いからでしょ。カッコつけちゃってさ」
そういうワケではない...こともないかもしれないが、それが一番の理由ではない。
俺は、高校生活をしながら日々バイトせざるを得ない桐谷を助けたかっただけ。
かといって、それを言い出す気にもなれなかった。
「俺は桐谷がめっちゃタイプなんだよ」
「は〜ほんとドスケベ。やだやだ」
ガタン。
突如、何かが倒れる音がした。
「っ…!誰かいるのか!」
そう呼びかけると、屋上の入り口から見慣れた人影が現れた。
桐谷だ。
こいつ、教室出た時からずっと後を付けてきたのか?
待ち伏せの次は、尾行までしてきやがった...!
あとめっちゃ恥ずかしいセリフを聞かれてしまった気がする。
「お前…盗み聞きしてたのか?」
「やっぱり…あの夢での出来事、偶然じゃなかったんだ」
流石に、ここまで来たらごまかせない。
「ああ、そうだよ」
「ちょっと兄貴!?」
「この際だからもう話すけど...俺は、他人の夢に入れるんだ」
「…」
「だから、小テストの答えも教えられたし、桐谷がコンビニで
バイトしてるんだろうなってことも夢の内容で察しがついた」
「ふぅん…」
「別に信じなくてもいい。ただ、このことは栞しか知らないんだ。
秘密にしてもらえると嬉しいんだが」
言いふらされたところで信じるヤツもいないだろうけど。
桐谷も、あまり口数は多くないし、誰かとつるんでいるという感じでもないので、
まあ大丈夫だろうとタカを括って秘密を明かした。
「わかった。誰にも言わない。
けどその代わり…夢の中で勉強教えてくれない?」
まさかの交渉を持ちかけてきやがった。そうきたか。
「ええーーーー!!!!」
放課後の屋上に、栞の叫び声が響き渡ったのだった。




