第4話「代行兄貴」
どうしたものかと考えていると、
前方から栞がゆっくりと歩いてきた。
「ごめん兄貴…体育館の夢見れなかったわ」
「よりにもよって白くて何もない部屋かよ!
精神状態大丈夫か栞」
「兄貴に見られたくないものが出ませんように〜…
って思ってたらこうなっちゃった」
「何ひとつ見られたくないのかお前…
部屋にまで招き入れておいて」
「だって〜」
「まあいいや。こうなってしまったからには…
”虚無の鬼ごっこ”に付き合ってもらう」
「何それ!?聞いてないんだけど!?」
「だってバドミントンの道具なんもないし。
栞がラケット役になってくれるのか?」
「私がラケットになってどうすんのよ!?
その場合、兄貴は何役をやるわけ…?」
「人間役、ですかね…」
「兄貴が私を振り回して何になるのよ〜〜!!
フィジカルは持ち帰れないんでしょ!!」
「まあ確かに」
「じゃあいいよ…”虚無の鬼ごっこ”、しよ?」
「”虚無の鬼ごっこ”って、何?」
「知らないわよ〜〜〜〜!!!!」
栞で遊ぶのはこれくらいにして。
バドミントンができるかわからないけど、
仮にもお願いを聞くと約束したのだから、ベストは尽くそう。
「ハアハア…なんでいきなりボケ倒してんの」
「ごめんごめん。対策を考えよう」
「対策?」
「俺に夢の内容を好き勝手いじる力はない。
解決方法は2つだ」
「2つ?どうすればいいの?」
「栞に一度起きてもらって夢を見直してもらうか、
栞に夢の中で自然な感じで移動してもらうかだな」
栞は「むーっ」と力んでみたようだが、何も起こらない。
「…起きようとしてみたけど、ムリだった。
私、一度寝ちゃうと全然起きられないからさ...
自然な感じで移動するって、どうすればいいの?」
「夢って、ストーリー次第では場所が移動するものだろ?
この部屋からどこかへ移動するようなストーリーがあればいけるってこと」
「なるほどね」
「とりあえず出口の場所だけでも見つけたいが…」
四方を見渡してみると、一箇所だけ立派な扉があるのを見つけた。
栞とそこまで歩いていき、扉を押したり引いたりしてみたが、ビクともしない。
「これ、扉が開くのに条件があるタイプだな。
栞、なにか思い当たるものあるか?」
「……ここたぶん、◯◯しないと出られない部屋だ…」
「お前さあ〜」
「だって前にネットで流行ったじゃん!!
別に私がドスケベな訳じゃないから!!」
「実質詰んだじゃないか…頑張って起きろ栞」
「そんなこと言ったって〜」
「……夢の中で殴られたりすると、目覚める時あるよな」
「まさか兄貴、可愛い妹に暴力振るうつもり!?」
ドスケベと暴力、究極の二択を迫られている。
こんなはずでは。
…何か他に手はないだろうか。
桐谷の時は「客が全然来ないコンビニでバイトをしている夢」で、
桐谷の認識がコンビニ店内で完結してしまっていたから、
俺も外に出られなかった…と考えられる。
今回は「◯◯しないと出られない部屋に閉じ込められる夢」のようだが、
これは元々栞が一人でみた夢だ。しかも栞しかいない夢。
俺は後からイレギュラーとして侵入したに過ぎない。
俺が侵入しない限り、脱出する手段が無かったなんてこと…あるだろうか?
栞が一人で脱出できる手段が用意されている気がする。
無理だったら”虚無の鬼ごっこ”のルールを頑張って考えよう。
めっちゃつまんなそう。
「栞がネットで見た”◯◯しないと出られない部屋”の中で、
一人きりで閉じ込められるパターンってあったか?」
「まあ、あったけど」
「これ栞の夢だから、栞が自力で脱出できる方法があると思うんだ」
「……」
間。
「ちょっと試してみてくれないか?」
「はあ!?無理に決まってんでしょ」
「どんな方法なんだよ…」
人前でできるようなものではないんだろうか。
やはりどこまでいってもドスケベということか...?
「そんな…スクワット200回なんて」
「言うほど無理じゃないだろ!!」
「無理だって!私のか細〜い足でそんなことできる訳ないでしょ」
「か細い...?」
「…ここで兄貴をぶん殴って起こして、現実世界で私を起こしてもらうってことでいいのね?」
「わかったわかった、じゃあ俺がスクワットするよ」
「最初からそうしなさいよ…」
そして始まるスクワット。
夢の中だが普通に疲れる。そしてこの筋トレの成果は現実には持ち帰れない。
ああ、鬼ごっこをしなくたって結局虚無に変わりはなかったか...
198。
199。
200。
ギィー。
扉が開いた。少しだけ達成感。
「このままじゃただのスクワット代行兄貴なんだが…
扉の先はどこに繋がってるんだ?」
栞と一緒に扉の先を覗いてみると、そこは俺たちが通う高校の1階廊下だった。
場所的に、この”スクワットしないと出られない部屋”は用務員室に位置しているようだ。
「お前、用務員室のことこんな風に思ってたの?」
「違うって!夢なんだからそういうこともあるでしょ」
「あるか…?まあいいや、学校だったのはラッキーだ。
体育館に行けるぞ」
「そうじゃん!早くバドミントンやろーよ。疲れたよ」
「お前は疲れてないだろ!」
取りとめのないやりとりをしつつ、体育館に移動。
栞に手取り足取りバドミントンを教えてやったのだった。
普通に足がきつかった。
////
翌朝。
栞とともに登校。栞の機嫌は上々。
バドミントンの技術をお披露目するのが、そんなに楽しみなのか。
そんな栞の機嫌が、みるみる悪くなっていく。
なぜか。
校門横に桐谷が仁王立ちしていて、俺を睨んでいたから。
おいまた待ち伏せかよ。しかも朝イチだよ。勘弁してくれ。
「おはよう、神城」
「ああ、おはよう…何か用か?」
「アンタやっぱり…私の夢のこと覚えてるよね?」
「(兄貴、桐谷さんの夢の中入ったワケ!?)」
栞に背中をつねられる。普通に痛い。
この展開は昨日回避できたと思ったのに。
「なんでそう思うんだよ?そんなことできるワケが」
「なんで私がコンビニでバイトしてるって知ってたのよ」
「...」
しまった。そうだった。
夢の中で知ったことを現実で話すのはリスクだっていうのに、
昨日つい焦って話してしまったような気がする。
「おはようございます、桐谷先輩。私、蒼の妹の神城栞といいます。
昨日は挨拶もせずにごめんなさい」
栞が割って入ってきた。
清楚モードだ。猫被りがすごい。
「ん?ああ…昨日の妹さんか。私は桐谷麗奈、よろしく」
「すみません、兄に桐谷先輩のバイトのこと教えたのは私なんです…!
コンビニでバイトしている所をお見かけしたことがあって」
礼儀正しいが、息をするように嘘をついている。
そんな話を聞いたことはない。
「あ、そうなんだ?」
「兄に『あのコンビニに行けば桐谷先輩にレジしてもらえるよ』って話したことがあって。ね、兄さん?」
「あ、ああ…」
「では、私たち失礼します」
栞に手を引かれて、校舎内へと連れていかれる俺。
栞が上手いことごまかしてくれた。やるなマイシスター。
「それじゃ兄貴、また放課後にね...逃げんじゃないわよ」
「はい」
結局、詰められる相手が桐谷から栞に変わっただけで、
平和は手に入らなかった。人生ってままならない。




