第37話「お披露目」
時々、俺に意見を求められながらも、
栞・麗奈・イヴの3人は試着する水着を決めたらしい。
それぞれ試着室に入っていった。
いよいよガチで気まずいタイミングがやってきた。
女物の水着コーナーで一人きり。
この少しの時間にコーナーを出るのも手間だし、
かといって男一人で突っ立っているのも違和感がある。
こういう時、世の男性はどう凌いでいるのだろう。
などと挙動不審にコーナーをウロウロしていると、
馴染みの声で呼び掛けられた。
「あら?蒼さまではありませんか」
月華だ。なぜここに。
「月華!?いや違うんだこれは」
「何がでしょう?」
「別に男一人で女物の水着を
物色しているワケではなくてだな」
「わかっていますわよ?大方、いつもの
皆さんと水着を買いに来たのでしょう?」
俺がビビりすぎていただけらしい。
「そうなんだよ。男の意見が欲しいとか言われて」
「欲しいのはあなたの意見なのではなくて?」
「そうなのか…?俺にだけウケても仕方ないだろ」
「仕方なくは…ないと思いますけど」
シャッ。
その時、3つの試着ブースのカーテンが一斉に開いた。
月華を見た瞬間、イヴの目付きが変わった。
「九条院月華!また性懲りもなく…!
こんな無防備な時に、卑怯な」
「たまたま通りがかっただけですわ。
隣のコーナーが寝具コーナーだから視察していたの」
確かに、よく見ると隣は寝具コーナーだ。
そういえばアニムスは、元々寝具メーカーだったな。
月華の言っていることは本当なのだろう。
「そんなことより、蒼さまに水着を見てもらうのでしょう?
ほら蒼さま、いかがですか」
改めて3人の水着姿を眺めてみる。
まず栞。
エメラルドグリーンのビキニ。
胸元にはフリルがあしらわれている。
ボリュームをごまかすためなんだと思うが、
デザインとして可愛らしい。
次に麗奈。
黒のクロスワイヤービキニに、
透けたパレオを巻いている。
トップオブギャルの名に恥じない、圧倒的強者感。
なんだか同級生には見えない。
最後にイヴ。
シンプルな白いビキニ。
元々のビジュアルがあまりに整っているので
小細工は一切不要!という力強い意思を感じる。
たぶん麗奈あたりが選んだんだろうな。
絵面が強すぎて脳がフリーズしてしまった。
が、麗奈の一言で我に帰った。
「なんとか言いなよ、蒼」
「いや…みんなめっちゃ綺麗だ。俺はとんでもなく
恵まれた家に住んでいるんだと再認識した」
「そうだよ〜?兄貴は本当に贅沢者なんだよ」
「こんなの初めて着ました…恥ずかしいです…」
イヴはもじもじしている。
そして月華が口を挟んできた。
「蒼さま、胸元ばかり見過ぎではなくて?
やっぱり男の子ですわね」
「そんなことないって!ちゃんと下も見て…
いやそうじゃなくて!」
気が動転して最悪の返しをしてしまった。
違う、ビキニのデザインを見てるから
結果としてその2箇所を見ちゃうよねって話で。
俺は悪くないんだ…
「兄貴がそんなに慌てるってことは、
本当に良かったみたいだね」
「そうだね。みんなで今着てるやつ買おっか」
「これ以上試着したら身がもたないです…」
今試着してるやつを買うらしい。
栞の分は買ってやらないとな。
「みなさんが着ているものはもう買っておきましたから、
そのまま持って帰っていいですわよ」
月華の右手には、ブラックカードがキラリと輝いていた。
「九条院からの施しなど受けま…モゴゴ」
栞がイヴの口を塞いでいた。
お前、どのみち俺に買ってもらえるやんけ。
「そのかわり、我が屋敷のプールに
遊びに来てくださいませ」
「そんな敵の懐に飛び込むような真似…モゴゴ」
栞がふたたびイヴの口を塞いでいた。
コイツ、九条院の屋敷気に入ったんだろうな…
それにプールまで無料で入れるチャンスだし。
どのみち俺も、月華のことを
もっと知りたいと思っていた。
イヴも、その気になれば栞の手なんて
簡単に振り払えるはずだから、
本当に危険とまでは思ってないんじゃないかな。
「ありがとう月華。じゃあまたお邪魔するよ。
もう夜中にこっそり脳波とか計測するなよ?」
「しませんわ。もっと大切なことができましたから。
では、後日連絡しますから連絡先を教えてくださいませ」
月華と連絡先を交換。
大切なことって...なんだろう。
こうして月華は去っていった。
嵐のようだったな…
「良かったなみんな。水着買ってもらえて」
「はい、ということでね。
兄貴には別のものを買ってもらおうと思います」
「あれ!?免除されないのか!?」
水着手に入ったじゃん。
「されません〜。九条院のお屋敷のプールって
確か野外だったよね。ラッシュガードと
日焼け止めはマストでしょ。あと防水ポーチと」
何を言っているのかよくわからないが、
結局俺が出費するということだけはわかった。
そのまま買い物を続け、気付けば夜になり。
俺達は帰宅したのだった。




