第35話「暴走女子高生麗奈」
翌朝。目を覚ます。
麗奈は既に起きていて、
泣きながら俺に抱き着いていた。
待て待て待て待て。
「蒼…蒼…」
「どうしたんだ麗奈。もう夢は終わったぞ」
何もしないのも違和感があったので、
麗奈の頭を慣れない手つきでポンポンと叩く。
「蒼がいる限り、私にとっての夢は覚めそうもないよ」
詩人みたいなこと言うんだな、麗奈。
「俺が麗奈のことを忘れるわけないってわかっただろ?
夢で言ったことは本当だ。約束は絶対に果たす。
俺を信じてくれ」
「うん…じゃあ、お礼、してあげる」
「お礼?」
麗奈は俺の身体の上に跨った。
そのまま、顔を俺に近付けてくる。
「…ううん。お礼なんて嘘。私が我慢できないだけ。
自分を大切に、していいんだもんね?」
麗奈は両手で、俺の顔を包み込んだ。
まだ涙ぐんだ顔で、際限なく顔を近付けてくる。
このままでは、唇が唇に触れる——
「蒼が、悪いんだから——」
バーン。
俺の部屋のドアが勢いよく開いた。
「兄貴ー!素行調査に来た…よ…」
俺の部屋に入ってきた栞。
涙ぐみながら俺に跨って密着している麗奈。
何もできず固まっている俺。
「栞ちゃん、おはよう。ドア、閉めといてね」
栞をチラッと見て、言葉を投げかける麗奈。
「いやいや待ってください麗奈さん!何をしてるんですかー!!」
「私がしたくてしてるの。蒼に襲われてるワケじゃないから」
「それは見ればわかりますけど!この一晩で何があったんですか…」
「それはもう色々と。最高だよ、栞ちゃんの兄貴」
誤解しか生まないって、それ。
(一体何をしたのよ兄貴…!麗奈さん、
完全にタガが外れちゃってんじゃん)
(いや、麗奈を大学に合格させるって話をしただけなんだけど…
このままだと俺の貞操がマズい。助けてくれ栞)
栞と、兄妹秘伝のアイコンタクトによって意思疎通を図る。
「私は麗奈さんを信頼してるんです。
兄貴とくっつくならそれでもいい。
でも、本当にこれでいいんですか」
「…」
麗奈は気だるげな目で栞の話を聞いている。
「これが本当に麗奈さんの望む形なんですか!
もっと踏みたい順序とかあるんじゃないですか!!
麗奈さんは、そこらへんの軽率なギャルとは違うでしょ!?」
麗奈の目付きが、徐々に普段通りのものへと戻る。
そして元々赤かった顔が、さらに赤くなっていく。
「…っごめん!シャワー浴びてくるから…」
麗奈は、フラフラと風呂場へ向かっていった。
一件落着、だろうか。少しもったいないことをしたかもしれない。
でもきっと、あのまま進んでいたら麗奈は後悔していただろうから。
「兄貴、この借りは高くつくよ」
「そうだな…なんでも欲しいもの買ってやるよ」
それくらい、今回の栞には助けられた。
麗奈も思わず正気に戻る、迫真の名演説だったよ。
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母さんはすでに家を出発したようだった。
あんなところ見られていたら終わっていたので助かった。
麗奈はシャワーを終えると、首にタオルをかけたまま
俺・栞・イヴのいる居間へとやってきた。
「ごめん蒼…私どうかしてた」
「いや、いいんだ。大丈夫」
麗奈にあんな小悪魔で肉食な一面があるなんて知らなかった。
家庭を一度失った麗奈にとって、居場所が消えることへの
不安は尋常ではないということなんだろうか。
もっと気を配ってあげるべきだった。
「でも、オープンキャンパスの件、忘れないでね。
それこそ忘れられたら、私もう止まれないと思うから」
「ああ…絶対忘れないよ」
絶対忘れないようにしよう。俺の貞操のためにも。
「そろそろ学校行くか」
「私は…もう少し後から行く」
麗奈は少し恥ずかしそうに言う。
俺と一緒に行くのは気まずいか。
「じゃあ私は兄貴と一緒に行こうかな。イヴ、悪いんだけど
後から麗奈さんと一緒に登校してもらっていい?」
「わかった、シオリ」
おそらく栞は、自分も一緒だと気まずいだろうと考えつつ、
かといって麗奈を一人きりにするのも抵抗があったんだろう。
コイツ、わがままに見えて気配り上手だからな。
「ほら行こ、兄貴」
「ああ」
俺は栞に手を取られ、家を後にしたのだった。




