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第34話「届かぬ声、届いた光」

麗奈の夢へと侵入。

閑静な住宅街に、戸建ての住居がそびえ立っていた。


豪邸一歩手前、といったところだろうか。

大きめかつ高級な雰囲気を醸し出している。

築10年ほど、駐車場付き、中庭付き。

一般人の手の届く戸建てとして

一級品という印象だ。ガキなのでよくわからんが。


どちら様のお宅なんだろうか…

ダメ元で玄関のドアを引くと、

鍵はかかっていなかった。

どうせ夢の中だ、入ってしまおう。


玄関をくぐり廊下を抜けると、リビングに出た。

誰も見当たらない。物音一つしない。


リビングにはテレビ、ソファ、テーブルが並んでいたが…

テーブルの上にタブレット端末が置かれており、

ビデオ通話中の状態だった。


ビデオ通話の相手は、40歳くらいの男性。

顔に見覚えはない。そして声も聞こえない。

ただ、必(・)死(・)に(・)こ(・)ち(・)ら(・)に(・)話(・)し(・)か(・)け(・)て(・)き(・)て(・)い(・)る(・)よ(・)う(・)だ(・)っ(・)た(・)。


タブレットのインカメラに俺の顔を映してみても良いが、

絶対に不審者だと思われるだろう。

どうしたものかと悩んでいると…


2階へ続く階段から、麗奈が降りてきた。


「麗奈」

「いらっしゃい、蒼。

ここが夢の舞台になっちゃったか…」

「ここは、どこなんだ…?」

「両親が離婚する前に、3人で住んでた家。

今はもう、パパが1人で住んでるはず」


ということは麗奈は母親と一緒にこの家から出て行って、

別の家に引っ越したのか。そして、そこからさらに麗奈だけ

飛び出してマンションで一人暮らしをしていたんだ。


「私、パパが大好きなんだ。

日本でも有数の大学教授だってことは

子供ながらに知ってたし。自慢のパパだった。

いつも帰りが遅かったから、

直接話せることはあんまりなかったけど」


親が研究詰めで、なかなか子供と会えないという境遇は、

ウチと似ていたのかもしれない。


「なかなか会えない代わりに、ビデオ通話をしてたのか?」

「そうだけど…なんでわかったの」

「いや、そこに通話中のタブレットが置いてあるから」


タブレットの向こうの男性は、依然としてこちらに

話しかけてきている。だが変わらず声は届かない。

麗奈はそのタブレットを慈しむように眺めた。


「パパは、研究や講演の合間に、時間を見つけては

ビデオ通話してくれてたの。だからそんなに寂しくなかった」

「良い親父さんだったんだな…けど親父さんは、

お母さんとは上手く行ってなかったのか」

「うん。ママはパパに、もっと家で育児しろっていつも怒ってた。

私がしっかりすればいいんだと思って、家事も勉強も頑張ったけど、

そういう問題じゃなかったみたい。ママは納得してくれなかった」


親父さんは親父さんで、ベストを尽くしてたのだろう。

そして、麗奈が家事も勉強もできる理由がわかった。


「結局、パパとママは離婚した。そこまではなんとか我慢したの。

けど、ママが再婚することになって。

『もうパパに連絡を取るな、苗字は変えろ』っ言われて、

私の中で何かが切れちゃった」

「それでお母さんの元を飛び出して、一人暮らしを始めたんだな」

「そう。パパに連絡するのはパパにも迷惑かかるから我慢してる。

けど、苗字が桐谷じゃなくなるのはだけは耐えられなかったの」


無理もない。俺は麗奈がわがままだとは全く思わない。

俺が考え込んでいると、麗奈はこう続けた。


「そういえば蒼、私に話があるって言ってなかった?」

「そうだった。麗奈、帝都理科大の

オープンキャンパスに行ってみないか?」

「え?」

「俺も麗奈と一緒に帝都理科大を目指すことにしたんだ。

で、せっかくだし麗奈の親父さんの

研究室を見学しようと思って。一緒にどうだ?

夏休みに開催されるみたいなんだけど」

「…」

「それに、親父さんに連絡を取るのは禁止されてるっていうけど。

志(・)望(・)大(・)学(・)の(・)オ(・)ー(・)プ(・)ン(・)キ(・)ャ(・)ン(・)パ(・)ス(・)に(・)行(・)っ(・)た(・)ら(・)た(・)ま(・)た(・)ま(・)会(・)っ(・)ち(・)ゃ(・)う(・)のは、

仕方ないことだろ?学生の本分を全うしてるだけなんだからさ」


桐谷のお母さんにも事情はあるんだろう。

ただ、麗奈の気持ちを軽視しすぎているように思う。

これくらいの抵抗をしたって、

文句を言われる筋合いはないだろう。


「行く…」


麗奈は涙ぐんでいた。


「いや大袈裟だって!一緒に

オープンキャンパス行こうって言ってるだけだぞ」

「ううん…そんなことない…

アンタが一緒に行ってくれることに、意味があるの」


「麗奈!そこにいるのか!返事をしてくれ!」


その時、不意にテーブル上のタブレットから音声に鳴り響いた。

麗奈の親父さんの声が、やっと届くようになったらしい。


俺はタブレットを、自分と麗奈が

インカメラに映るような角度で手に持った。


「初めまして、麗奈のお父さん。いきなりすみません。

僕は麗奈のクラスメイトの神城蒼といいます。

娘さんと一緒に、あなたのいる帝都理科大を受験予定です。

絶対、合格しますから。待っていてください」

「待っててね。私、死んでもパパの研究室に行くから!」


親父さんは呆気に取られた様子だったが、

すぐ笑顔を見せてくれた。


「ああ麗奈、大歓迎だとも。頑張るんだよ。

それから神城くん、と言ったね?

麗奈をどうか支えてやって欲しい。

今の私の立場では、隣にいてやれないんだ。情けないが」


情けないなんてことはない。

本当は側に居たくて仕方ないだろうに。


「任せてください。麗奈の夢は必ず叶えます。

これ以上麗奈が悲しい目に遭うのは、許せませんので」

「麗奈、良い友達を持ったね……友達だよね?」

「うん…うん…」


麗奈は泣きながら抱き着いてきた。

その涙に呼応するように、世界が滲んでいく。

夢の終わりみたいだ。

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