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第33話「2つのベッド」

麗奈を前に敗北した栞は、イヴの部屋へと入り、

静かにドアを閉めた。すでに電気は消されていた。

そしてひっそりと、ベッドの中を覗き込んだ。


「イヴ〜、起きてる〜…?」

「ん…どうしたのシオリ」

「え、もう眠ってたの?」


イヴは、先ほどのやりとりを聞かず早々に眠っていた。


「うん。一瞬で眠りにつき、異変があれば

一瞬で起きることが重要だからね」

「こんな平和な街でそこまでしなくていいと思うけどな…」


やはりイヴは訓練を重ねているようだ。


「麗奈さん、兄貴のベッドで一緒に寝るんだって。

対抗して、私たちも一緒に寝ない?」

「対抗の意味がよくわからないけど、いいよ」


イヴも、栞と一度ゆっくり話してみたいと

思っていたのだった。


「今日、麗奈さんに連絡すればよかったね」

「でもレイナ、なんであんなに拗ねてたんだろう」

「ずっと一人暮らしだったし、寂しかったのかも」

「レイナのご両親は…生きてるんだよね?」

「うん。お母さんと上手くいってなくて、家を飛び出したとか」

「そうなんだ。生きてるなら、仲良くなれるといいんだけど」

「イヴってその…元の両親いないんだっけ。

ごめんね、こんなこと聞いて」


栞は、こんな機会でもなければ

聞けないと思い、踏み込んだ。


「うん。パパもママも戦争で死んじゃった。

その後、私は実験動物扱いされてたんだけど、

ドクターが養子として迎え入れてくれて、

コハルと一緒に面倒を見てもらった」

「そうなんだ…私には想像もつかない世界だ。

ちょっと親が家に帰ってこないってだけで

拗ねてた自分が恥ずかしいよ」

「そんなことないよ!会いたくて当然だよ。

…こちらこそごめんねシオリ。ママを取られたみたいな、

嫌な思いをさせちゃったよね。ずっと謝りたかったんだ」

「ううん。いいの。むしろママが、

イヴを救ってくれて誇りに思ってる」


これまでの境遇を受け入れつつあった栞は、

本心からそう語った。


「蒼が実験動物にされるのは、絶対に許せない。

だからボディガードになることを決めたの。

ドクターとコハルは師匠が守ってくれてるし」

「イヴは、兄貴のことをどう思ってるの…?」

「シオリとのやり取りを見てたら、素敵な人だってすぐわかった。

私もあんなお兄ちゃんが欲しかったなって思ってるよ」

「そんな大層なモンじゃないと思うけどなぁ〜」

「でもシオリ、アオイのこと大好きでしょう?」

「……ま、まぁね」


栞はイヴから目を逸らしながら、

照れくさそうにそう答えた。


「ふふっ」

「イヴも兄貴に甘えたらいいよ。これから一緒に暮らすんだし、

イヴも家族だから。でも私がお姉さんだからね!」

「うん!シオリ、抱きついて寝てもいい?」

「いいよ。400kgの力出すのはやめてね?」

「この〜!」


イヴと栞は、とても幸せそうな表情をしていた。



////



一方、蒼の部屋。

俺と麗奈は、部屋の電気を消し、

一緒にベッドへと潜っていた。


「麗奈」

「なに」

「なんかお前、様子おかしくないか」

「…蒼のせいだから」

「え?」

「両親が離婚して、パパと一緒に暮らせなくなって。

ママとは喧嘩して、家を飛び出しちゃって。

バイトばっかだったから、仲の良い友達もいない。

私が甘えられるのは、もうアンタだけなんだよ」


まっすぐ見つめられ、そう告げられる。

麗奈にとっての俺は、家庭教師くらいの

認識だと思っていたのだが。

思ったより重要な何かに、なっていたのかもしれない。


「アンタに忘れられちゃったかもと思った瞬間、

とても怖くなった。心が空っぽになるような感覚。

もう二度と、私のこと忘れられないようにしてやるから」


麗奈が、俺の上に四つん這いで覆い被さってきた。

甘い匂いが鼻腔をくすぐる。栞とは違う匂い。

おいおいおいおい。ちょっと待て。


「俺は、麗奈のことを本当に尊敬してるんだ」

「……」

「学園一と評されるモテモテのギャルで。

たくさんバイトして、自分で家賃払って、一人暮らしして。

いざ勉強を教えてみたら普通に頭良くて、学年2位取っちゃうし」

「蒼…」

「あの日小テストの答えを教えたのだって、

麗奈なら助けたいと思えたからだ。

俺が麗奈を忘れるなんてことは絶対にないよ」


麗奈が少しずつ正気を取り戻しつつあるように見える。


「…今日は?」

「今日はそもそもイヴをゲーセンに連れてくことが目的だったんだ。

月華にリムジンで連れ去られたから、

麗奈に連絡を取るヒマがなかっただけ」

「なんかしれっと月華って呼んでない??」


麗奈の表情が曇る。せっかく順調だったのに。


「と、とにかく!俺にとっても麗奈の存在は大きいんだ。

こんなヤケ起こさなくたって大丈夫だよ。自分を大切にしろ」

「自(・)分(・)を(・)大(・)切(・)に(・)し(・)て(・)る(・)か(・)ら(・)、(・)こ(・)ん(・)な(・)こ(・)と(・)し(・)て(・)る(・)ん(・)で(・)す(・)け(・)ど(・)」

「え?」

「もういい。夢の中で覚悟しときなさいよ。おやすみ」


麗奈はそっぽを向いて横になると、そのまま眠ってしまった。

そして俺もいつの間にか、続けて眠りについたのだった。

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