第31話「暴力とテディベア」
それから時は流れ。
「20勝20敗…あなた、やりますわね」
「クッ…私に負けは許されない」
どんだけ戦ってんだよ。
ちなみに途中から、俺と栞は近くのゲームで
和やかに遊んでました。だって怖いし。
イヴがあまりに真剣な表情をしている上、
人生初の日本のゲーセンだということを考えると...
今日のところはイヴに華を持たせてあげるとするか。
「じゃあ最後は、これで決着をつけよう」
俺は2人を、パンチングマシーンへ案内した。
サンドバッグのようなものを殴りつけ、
威力を競うゲーム。
月華にコツこそ教えたが、麗奈の引っ越し作業の時の
これまでのイヴの言動を思い出すに、
おそらく相当な力持ちだ。きっとイヴが有利だろう。
まずは月華のパンチ。
結果:120kg
いや普通に強い。
夢の時より威力が上がっている。
「あの日以来、歌うのがさらに好きになりまして。
腹筋含め、鍛え直しているのですわ」
なるほどね…
続いてイヴのパンチ。
構え方が明らかに常人のそれではないし、
なんなら人を殺しそうな目付きだ。
そこまでしなくていいんだぞイヴ。
結果: 400kg
は?
400…400!?見たこともない数字だ。
カンストしてるんじゃないのか?
俺も栞も月華も、唖然としていた。
なお余談だが。
以降「400 EVE」というハイスコアは、
ただの一度も抜かれることは無かったという。
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「負けてしまいましたわね…
この借りはいずれ必ず。
パンチ以外の何かしらで返しますわ」
懸命な判断だと思う。イヴにパンチで挑んでも無意味だ。
あんなのパンチじゃない。暴力の具現化といってもいい。
イヴがこんなバケモンだなんて知らなかった。
怒らせたらおしまいだ。
「アオイ?何やら失礼なことを考えていませんか」
「かっ考えてない!許してくれ」
「許す?やはり何か失礼なことを考えていましたね」
イヴまで俺の心を読み始めている。
そんなのは栞と麗奈で間に合っている。
これ以上俺の心を読めるウーマンを
増やさないでもらっていいか?
「兄貴はさあ...顔に出過ぎなんだよ。
イヴだって女の子なんだからさ。
バケモン扱いしたら可哀想でしょ」
「シオリ...」
「じゃあ何扱いしたらいい?」
「そりゃ、なんだろ...重戦車とか」
「シオリ〜!!」
涙目になるイヴ。かわいい。
とてもじゃないがバンチ力400kgには見えない。
イヴは改めて、月華に向き直った。
「挑戦はいつでもお待ちしています。
私があなたに負けることは今後一切ありません。
この世全ての対戦ゲームを極めておきますから」
やりすぎ。
「私も極めておくことにいたします。
本日はこれで失礼いたしますわ」
「あ、月華。ちょっと待て」
「どうしましたの?」
「良かったら、これ」
俺は月華に、テディベアのぬいぐるみを手渡した。
夢の中で、月華が自分で手に入れて喜んでいたものだ。
2人がゲーム対戦に熱中している時に、こっそり
クレーンゲームで取っておいたのだ。
こんなもの渡してしまってはアウトソムニアが
バレるリスクが上がる一方なのだが、
月華にも笑顔で帰って欲しかったのだ。
最後、少しイヴを贔屓しちゃったし。
「あなた、やはり...」
「俺は単に可愛いかなと思って取っただけだからな!
リムジンで送ってもらった上、
イヴに付き合ってもらったお礼だ」
「…」
月華は、受け取ったテディベアをじっと見つめていた。
あくまで夢の中のゲーセンで、
一番気に入っていた景品というだけで…
月華にとってそこまで価値のあるものかは
正直わからなかったが、喜んでもらえたのなら良かった。
「ふふ…そういうことにしておいて
差し上げますわ、蒼さま」
「蒼さま!?」
栞、発狂。
いや俺も驚いたけど、発狂するほどではないだろ。
「あら、『蒼』と呼び捨てにしてはダメと
言ったのは栞でしょう?だから蒼さまと
お呼びすることにしましたわ」
「ぐぬぬ…」
「では、今度こそ失礼いたしますわ。
蒼さま、また学校で。逃しませんから」
月華は優雅に立ち去っていった。
その手にテディベアを抱えながら。
「私もアオイさまと呼びましょうか?
お仕えしているようなものですから」
「え...いや呼び捨てでいいよ」
変な場所でも対抗心を燃やすイヴの謎提案を断り、
ゲーム対戦は幕を閉じたのだった。
イヴと月華を仲良しにするには、
まだまだ時間がかかりそうだ。




