第24話「完飲と就寝」
母さんと栞が帰宅。
ちゃんとラーメンの麺を買って来てくれた。
栞は若干怪訝な顔をしてこう告げた。
「麺だけ買ってこいって何よ...
思わず味玉も買っちゃったからね」
栞、お前味玉大好きだもんな。
「サンキュー。味玉漬ける時間はなかったからな、助かる」
「ていうかなんでいきなりラーメンなんて作り始めたの?」
「イヴがラーメン好きらしいから、自作しようかなと思って」
「なんで初手自作なのよ…あー、わかった。
日本のお店のレベルの高さを知られる前に
自分で作ったやつ食べさせて、イヴに褒められたいってこと?」
「なんで全部お見通しなんだよ」
いつも俺の思考は栞に筒抜けだ。
俺、そんなにわかりやすい思考をしているだろうか。
何か仕込みがあるんじゃないだろうか。神城 仕込みやんけ。
「またカスみたいなこと考えてる...早くラーメン完成させなよ」
「はいはい」
と言っても、ほとんど完成しているも同然だ。
カエシを入れ、スープを入れ、茹でた麺を放り込んで麺線を整える。
チャーシュー、ネギ、買ってきてもらった味玉を上に乗せれば。
蒼流こってり醤油ラーメンの完成だ。
「へい、お待ち」
5杯のラーメンを食卓へと並べた。お上がりよ。
「アンタ、いつの間にラーメンなんて作るようになったの…?」
母さんは若干呆れ気味だ。
別にいいじゃんか。ラーメン作っても。
「アウトソムニアで夢の中にあるラーメン屋に行って、
店主を眺め続けて作り方を会得した」
「そんな能力の使い方してるの?
…あら、言うだけあって美味しいわね」
他人の夢の中で勝手にラーメン屋に
籠り続けた甲斐があった。
「アオイ...私はこんなに美味しいものを
食べたことがありません。心から尊敬します。
やはりあなたは身を賭して守らねばならないようです」
感情表現が乏しいはずのイヴが、
とんでもなく幸せそうな顔をしている。
そんなに…?
「兄貴のラーメン本当に美味しいんだよね…
さっきはああ言ったけど、正直そこらへんの
ラーメン屋より美味しいよ」
思わず栞も舌鼓を打っている様子。
「どんぶり足りて良かったね?…確かに美味しい」
麗奈はまだちょっと怒ってるかも。
だが食べ終わる頃にはご機嫌になっているだろう。
俺は下着の罪をラーメンで清算する男、神城蒼。
////
なんやかんやあって、就寝時間。
自室にイヴが訪ねてきた。
「アオイ、私の夢に入ってみてくれませんか。
コハルの許可は取りました」
なんで勝手に許可してんだ母さん。
というかイヴ、いくらラーメンが美味しかったからって
俺のことを信頼しすぎじゃないか。
「まあ、イヴが望むなら構わないけど…
俺の部屋で寝ることになるぞ?いいのか?」
「別に構いません。アオイが変な気を起こしたとしても、
簡単に鎮圧できますから」
同居人を鎮圧しないでくれ。
「じゃあ、悪いがマットレスを持ってきてくれるか?」
「アオイのベッドで一緒に寝てはいけませんか…?」
「簡単に鎮圧できるからって攻めすぎじゃない??」
「その…誰かのとなりで寝てみたいんです」
そういえばイヴ、母親がいないって言ってたな。
それが関係しているんだろうか。
「母さんのことを母同然に思ってるんだったら、
イヴも妹みたいなものか。
昨日も栞のベッドで一緒に寝ちゃったし…」
「ええ、ですから問題ありません」
「わかったよ。イヴがそう言うなら」
イヴと2人でベッドに入り、電気を消す。
いくら妹扱いするとは言っても、まだ会って数日の女の子だ。
流石に緊張すると言うか、そうスッとは寝付けない。
それこそ栞の時と同じように、眠くなるまで話そうかな。
「なあイヴ」
「なんでしょうか」
イヴがこちら側に寝返りを打ってきた。いや近い近い。
冷静になれ蒼。イヴの信頼を裏切っちゃダメだ。
「今はまだ母さんがいるけど…もうすぐアメリカに帰っちゃうと思うんだ。
そうしたら、俺らと4人暮らしになるワケだけど、大丈夫なのか」
「不安がないと言えば嘘になりますが...アオイが助けてくれるでしょう?」
イヴがまっすぐとこちらを見つめてくる。
ここまでまっすぐに信頼されていると、やましい気持ちも湧いてこない。
別に鎮圧されるのが怖いからじゃない。いや本当に。
「コハルに子供がいると知った時から、
会ってみたくて仕方なかったんです。
だから、コハルからアオイのボディガードを頼まれたとき、
とても嬉しかった」
「どんなヤツかもわからないのにか…?」
「はい。コハルの子供たちが悪い人間だとは思えませんし、
あなたたちの話をする時、いつも楽しそうでしたから」
あんまりハードルが高いのも、それはそれで悩みものだ。
「期待に沿えるかはわからないぞ?」
「すでに私はアオイを評価していますよ」
俺なんかしたっけ?
今日なんて、麗奈の下着を2回見て
ラーメン作っただけじゃないか…?
こんなにも簡単に信頼されてしまうと、
少し心配になる。ちょっとだけ脅してみるか。
「俺、イヴが寝てる間にいたずらするかもしれないぞ?」
「すぐに気付きますよ?それに、
少しくらいなら許してあげます」
まあ、PMCの隊長の元で指導を受けたというのなら、
異変があればすぐに起きるか。そしてなんで少しぐらいなら
許しちゃうんだよ。もっと自分を大切にしなさい。
「へえ?じゃあいたずらしてみようかな」
「私を試すようなことをする必要はありませんよ、アオイ。
あなたには悪意がない。私が嫌がることをするとは
思えない。見ればわかります」
そういうものなのか。
でも、人の悪意を自信を持って見抜けるということは、
それだけ人の悪意に触れてきたってことじゃないのか…?
そんなことを考えているうち、眠りに落ちてしまったのだった。




