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第20話「栞と消しピン」

おのおの風呂に入り終え、就寝の時間。

麗奈には親父の部屋、イヴには母さんの部屋が与えられた。

今後もそこで生活するらしい。

麗奈、親父の部屋でいいんだろうか。

なお母さんは「どうせ数日だから」と居間で寝るんだとか。


自室に戻る直前、栞に声を掛けられた。


「兄貴...ちょっと私の部屋来て」

「ん?別にいいけど」


栞と一緒に、栞の部屋に入る。

早々に部屋の電気を消された。


「え、おい」


栞のベッドに引きずり込まれる。


「夢に入って欲しいのか?

だったらマットレス持って来たのに」

「違う…ちょっと話を聞いてほしくて」


ふざけている様子はない。真面目な話か。


「イヴって、ウチのママに育てられたのかな」

「どうだろうな。確か母さんと同じ研究所にいる

ドクターの娘なんだっけ?イヴが研究所に訪ねてきた時に

面倒見てたくらいかもしれないぞ」

「私たちは、ほとんどほったらかしなのにね?」


やっぱり、それを気にしてたんだな。


「わかってる。別にママもイヴも悪くない。

ママは研究のためにアメリカにいなきゃいけなくて、

お母さんのいないイヴの面倒をみただけだもん」

「いや、悪いのは俺だ」

「え?」

「俺にこんな能力があるから、

母さんはアメリカで研究しなきゃいけないんだ。

俺たちをアメリカに連れて行かないのも、

向こうのほうが危険だからだろ。母さんが側にいられないのは、

俺のせいだ。今日わかったよ」


「兄貴は悪くないよ!!」


栞のその声は、あまりに真剣で、必死だった。


「兄貴はいつも、寝込みがちだった私を

夢の中でいろんなところに連れ出してくれた。

流行りの遊びも、勉強も、なんでも教えてくれた」


俺はこれまで、なんとか栞の寂しさを紛らわせたいと必死だった。

でもまさか、俺自身が原因だとは思っていなかったんだ。


「当時は事情も知らなかったんでしょ?なら罪悪感じゃなくて、

純粋な優しさだったってことだもん。やっぱり嬉しい」

「…」

「兄貴がどう思おうと、私が兄貴を憎むなんてことはありえない。

本当に感謝してるの」

「ありがとな、栞」

「…だから、これからもちゃんと構ってよね」

「ああ、もちろんだ。俺が栞を放り出すようなことは、絶対ないから」


なんだか、逆に慰められてしまったようだ。

これまで以上に、栞に甘くなってしまうかもしれないな。



2人がそんな会話をしていた時、栞の部屋のドアの向こうには、

イヴが立っていた。自分の感情はあまり表に出さないが、

他人の感情には人一倍敏感なイヴは、栞の様子が気になっていたのだ。

そして、ついつい聞き耳を立ててしまっていた。


「シオリには嫌な思いをさせてしまったでしょうか...」


「そしてアオイ、やはりあなたはコハルの息子ですね。

私が身を賭してお守りします」


イヴは、納得した様子で自分の部屋へと戻っていくのだった。



////



ここは小学校の教室。夕暮れ時。

そういえば、あれから昔話をしているうちに

栞のベッドで眠っちゃったんだっけ。


「兄貴」


背後から声を掛けられた。やっぱり栞の夢のようだ。


「昔話をしたから小学校の夢を見たのか。単純だなお前」

「別にいいでしょ!思い出の場所なんだもん」


かつて身体の弱かった栞は、まだ外の世界をあまり知らず、

小学校の夢を見ることが多かった。

だから、ここでは夢の中で何度も遊んだっけ。


「さーて今日は何をするか。バドミントンか?」

「もう無双できてるから、別にいい」


もう無双してんのかよ。俺、一晩しか教えてないんだけど。


「昔やってた遊びがしたいな…消しピンとかさ」

「消しピン女子高生がよ」

「なによそれ」


消しピンとは、机に互いの消しゴムを配置し、

交代で自分の消しゴムをデコピンの要領ではじきつつ、

相手の消しゴムだけを床に落としたら勝ちというゲーム。


原点にして頂点に君臨するデスクトップゲーム(物理)であり、

栞の大のお気に入りだ。お前の名前、神城 栞(かみしろしおり)じゃなくて

神城 消しゴム(かみしろけしごむ)の方が良かったんじゃないか。


「カスみたいなこと考えてないで早くやろ」

「クセになってんだ...カスみたいなこと考えるの」


お互い、知りもしない生徒のロッカーから

筆箱を漁って消しゴムを取り出し、

机上にスタンバイ。そういえば消しピンには

決まった開始の掛け声がない。レディファイト(てきとう)。



普通に負けた。



は?



嘘だろ?

俺の方が強かったはずなんだが…


「最近クラスで流行ってんだよね〜」

「やっぱり消しピン女子高生じゃねーか!

現役かよ、聞いてないぞ」

「クセになってんだよね...不意打ちするの」


カスすぎる。

お前今日から神城 消しカス(かみしろけしかす)って呼ぶからな...!


「もう一回だ、お前の動きは見切った」

「はいはい」



その後、



10連敗。



は? は? は?



「勝てない…」

「ふっふーん。ザコが」

「クッソ…なんでこんな強いんだ」

「どんだけ練習したと思ってんのよ」


どんだけ練習してんだよ。


「兄貴には小さい頃に散々ボコられたからね…

絶対リベンジするって決めてたんだ」

「ちょくちょく負けてあげてただろ」

「そんなお情けで勝っても意味ないの!無双しないとね」


そしてどんだけ無双好きなんだよ。


「これはトライアスロンだ。次の種目に移るぞ」

「はあ?そんなこと一言も言われてないんだけど」


俺がルールだ。


「近年、小学校でも絶滅危惧種に

なりつつあるという…剣玉で勝負だ」

「え〜剣玉か〜〜」

「剣玉は練習してないんだな?」

「だって剣玉、可愛くないんだもん」


消しピンも可愛くねーよ。


そして剣玉勝負。

これは俺の圧勝だった。


「消しピンに大会はないが、剣玉にはある。

これが大人の遊びなんだよ、わかったか」

「消しピン、大会あるけど?」


あんのかよ。てかなんで調べてんだよ。出場を検討するなよ。


「トライアスロンなんでしょ。最後の種目は?」

「これトライアスロンなのか?」

「は?」


普通にキレられた。


「ごめんて…最後はバドミントンだ」

「だからバドミントンはもういいって〜」

「たかが自分のクラスレベルで満足してるお前に…

『世界』ってやつを教えてやる」

「兄貴だって世界レベルじゃないでしょ」


体育館に移動し、栞に真のバドミントンを教えた。

こりゃあ2勝1敗でトライアスロンは俺の勝利だな…

トライアスロンってそういうルールじゃないけど。


夜も明け、夢も覚めていく。

栞とバカやってる時が、一番リラックスできるのかもしれない。

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