第17話「うっかりお嬢様と風神雷神」
起床。
隣を見ると、バスローブ姿の九条院がすやすや眠っている。
こいつマジか。やっぱり俺の部屋に忍び込んでたんだな。
枕元には見慣れない装置、九条院の手元にはスマホ。
きっと俺の脳波を計測するために忍び込んで、
そのまま寝落ちしたのだろう。
最悪バレてもいいと思ったのだろうが、
それにしたって不用心すぎる。
俺の脳波が計測されてしまったのはマズい。
「レム睡眠とノンレム睡眠が同時に行われている脳波」なんて
計測されていた日には言い逃れできない。
なんとかデータを削除しなくては。
九条院の手元からそーっとスマホを抜き取り、
ボタンを押してみた。表示されたのは、指紋認証ロック。
まあ、それくらいはあるか。九条院の指を拝借し、突破。
ぐっすりお嬢様の前には無力だ。
脳波計測アプリらしきものが起動している状態だったので、
適当に操作し、データ消去ボタンを発見。タップ。
「計測データが削除されました」の表示。
おそらくこれで昨晩の俺の脳波計測データは消えただろう。
さっさとこの場を後にしよう。
こんなところ見られたら社会的に終わる。
部屋の扉をガチャリと開けると、栞と麗奈が立っていた。
「おはよう兄貴。ちょうど起こしに来たところだったんだ」
「おはよう蒼。ぐっすり眠れた?」
「あっ」
ドア越しに、部屋の中ですやすや眠っている九条院を目撃された。
「兄貴……?」
「蒼……?」
「いや待て待て!ここ俺の個室だろ!?
アイツが勝手に忍び込んで寝てたんだよ!!」
「事情聴取が必要だね」
「そうだね。たっぷりとね」
息ぴったりの栞と麗奈。
そして、言い合いをする俺たちの声を聞いて
九条院が目を覚ました。
「私ったらすっかり眠ってしまって…ふぁ〜あ…」
(頼む九条院!悪いのはお前なんだから、
なんとか誤魔化してくれ)
俺は、必死のアイコンタクトで九条院にそう伝えた。
「とても気持ちよかったですわね、神城蒼」
満面の笑みで、そんなことを言うものだから。
「「ハァーーーー!?」」
2人の美しいハモりが、屋敷中に響き渡った。
////
尋問は朝食の場で行われることになったため、一旦解散。
各々身だしなみを整え、あらためて朝食会場に集結した。
「それでは兄貴の尋問を開始したいと思います」
栞が仕切るらしい。
「尋問されるべきは九条院だと思うんだけど…」
「まず、兄貴が昨晩何をしたのか話して」
シンプルな無視。無慈悲。
「俺は自分の個室で寝ただけだ。
朝起きたら隣に九条院が寝てたんだ。俺は何もしてない」
何もしていなくはない。夢には入ってしまったから。
そして、栞もそれには気付くだろうけど…
頼むから黙っておいてくれよ。
「では、月華さんは昨晩何をしていたんです?」
「わたくしは神城蒼の脳波を計測するために、個室に忍び込みました。
先ほど確認したら、なぜか計測できていませんでしたけれど…
もしや神城蒼、私が寝ている間にデータを削除しましたわね?」
「さあ?」
無事削除できていたらしい。
本人に無断で計測した罰だ。
「それで、計測していたらそのまま眠ってしまいまして…
お恥ずかしいところをお見せしましたわ」
「本当にお恥ずかしいよ!もうちょっと警戒しろよ」
「ですが、計測よりもよっぽど大きな収穫がありましたわ」
「収穫?」
「…随分と、幸せな夢を見られましたから」
九条院は、意味ありげにこちらを見つめてきた。
別に能力はバレていない…よな?
「幸せな夢って…具体的にどんな?」
麗奈が口を挟んできた。
「それは内緒。二人だけの秘密ですわ」
栞と麗奈がそこはかとなくブチギレているのを感じる。
だが、この場で俺の能力を明かせないから、
追求できないでいるのだ。
屋敷から出たら、血祭りにあげられる気がする。
「二人だけの秘密って…
俺はお前の夢の内容なんて知らないぞ」
「手取り足取り教えてくださったのに?
最後なんて、あんなに気持ちよかったのに」
栞と麗奈が完全にブチギレているのを感じる。
もう終わりだ。どうあがいても血祭り開催だ。
というかなんでそんな誤解させるような
言い方をするんだ…!わざとか!?
「九条院は、俺と同じ夢を見たと思っているのか?」
「ええ。昨晩の夢にはあなただけが
登場した。偶然とは思えませんわ」
「俺の隣で眠ったんだから、
俺が夢に出てくることくらいあるだろ」
(兄貴…いったいナニを教えたワケ…!?)
(夢の中ならやり放題ってこと?...この変態)
栞と麗奈がゴミを見る目で俺を見ている。どうして。
「別に証拠ないだろ。俺らはこれで失礼するよ。
お招きありがとう」
「「お邪魔しました(怒)」」
このままでは全方位に分が悪い。さっさと退散することにした。
あと退散する最中、後ろから栞と麗奈に蹴られた。
弁明するまで待ってくれ。マジで痛い。
「神城蒼…必ず、尻尾を掴んでみせますわ」
月華の瞳は、星のように輝いていたのだった。
////
神城家に帰宅。
当たり前のように麗奈も付いてきた。
そして流れるように居間に正座させられた。
「さあ。月華さんの夢の中で何したのか、
話してもらいましょうか」
「私には手出さないで?月華には手出したってワケ?」
自宅に風神と雷神が立っている。
うっかりお嬢様が隣で勝手に爆睡してただけなのに。
あと麗奈の怒ってるポイントがおかしい。
「違うんだ、九条院の夢の舞台はラウンドナインだったんだよ」
「栞ちゃん、ラウンドナインって何」
「ゲーセンとかカラオケが合体したみたいなやつです」
「うわ、じゃあコイツカラオケで…」
こんなに人を軽蔑した目をした麗奈は見たことがない。
あの日の夢の最後の表情との落差が
マリアナ海溝くらいある。
「だから違うって!俺が手取り足取り教えたのはゲームで、
気持ち良かったのはカラオケだ」
「ゲームしたの?私以外のヤツと」
「したよ!でも、麗奈にゲーム教えた時の夢の方が、
よっぽどロマンチックだったけどな」
「ふぅん。そ」
少し拗ねたような様子の麗奈だったが、
怒っているという感じではなくなった。
なんとか解決できたか?
「麗奈さんとの夢の内容、結局教えてもらってないんですけど!
ロマンチックだったんだ??」
全然解決できてないや。
「麗奈の時はだな——」
「いや私の話はいいから!!」
俺と栞の間に、麗奈が割って入る。
栞に聞かれるのは恥ずかしいらしい。
「麗奈さんの夢の中では、
人に言えないようなことをしたの…?」
「してないしてない!てかそんなことしてたら、
麗奈もウチになんて二度と遊びに来ないだろ」
「いや〜どうかな?麗奈さんが兄貴のこと
どう思ってるか次第なんじゃないの」
「ちょっ、栞ちゃん…!」
これ、どうやって収拾をつければいいんだろう。
思わず天を仰いでいたその時——
「蒼〜!栞〜!ただいま〜」
母さんが、アメリカから帰ってきた。




