第16話「ネオン・ラビリンス2」
とりあえず...クレーンゲームコーナーに来てみた。
九条院の夢であることがわかったから、ここに栞は居ないだろうけど。
「クレーンゲーム、1回もやったことないのか」
「ないですわね。そもそも、クレーンゲームの景品は、風営法で原価の上限が決められていますの。
中身を直接購入したほうがよっぽど安上がりですわよ」
夢、なさすぎる。
「そういう問題じゃないんだよこういうのは…九条院、どれか気になる景品はあるか?」
「そうですわね〜…あのクマさんかしら」
九条院が指差したのは、大きなテディベアのぬいぐるみだった。
「騙されたと思って、このテディベアを取ってみないか。
そりゃあお前なら、こんなものタダで手に入るだろうけど。だからこそだ」
筐体の決済機にスマホをかざし、5クレジットほど投入。
「そもそも遊び方がわかりませんわ」
「①ボタンを長押しして横移動、次に②ボタンを長押しして縦移動。
②ボタンを離した瞬間にアームが下がって景品を掴む。これだけだ」
「わかりましたわ。やるだけやってみましょう」
九条院は、慣れない手つきでクレーンゲームを操作する。
5回とも、テディベアを掴むこと自体には成功したが、同じ場所に落ちるだけだった。
「難しいですわね」
「クレーンゲームって、基本的に真上から掴まないほうが有利なんだ。
こう、左右どちらかに偏らせて、景品を回転させるようなイメージ」
追加で3クレジット投入し、俺が2回プレイして見せた。
一気に近づけたので、獲得穴まで残りわずかだ。
「さあ、もう1回やってみてくれ、九条院」
「あなた上手ですわね...」
夢の中でバカみたいに練習したからな。
夢で散々練習しておいて、現実世界で安くゲットするのが最高なんだ。
「取れるかわかりませんわよ?」
「別に何回失敗したっていいだろ。夢の中なんだから」
おそるおそる操作する九条院。
反省を活かしクレーンを偏らせ、左のツメでテディベアをスライド。
ゴトン。
見事、獲得したのだった。
「取れましたわ…!」
「おめでとう九条院。自分で取るのも悪くないだろ?」
「確かに、もらったり買ったりするのとは、少し違うかもしれませんわ」
九条院は、テディベアの顔をじっと見つめていた。
現実世界に持ち帰れないのが、この能力の寂しいところだ。
その後も、ゲームコーナーにあるゲームを、片っ端から遊ばせていった。
レースゲーも、ガンシューティングも、格ゲーも。
俺も九条院も、アニムスの入浴剤を使ったに等しい状況だから、きっと今晩も長丁場だ。
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「じゃあ次は、カラオケでもするか。カラオケも初めてか?」
「ええ。ですが、ボーカルレッスンは受けていますから、歌には自信がありましてよ」
「お嬢様ってボーカルレッスンとか受けるんだ…せっかくだから聴かせてくれ」
一番でかいカラオケルームに入った。
ふたりきりで入るとちょっと変な感じだが。
操作方法がわからないというので、九条院の希望した楽曲を代わりに予約する。
てっきり古い曲でも歌うのかと思ったが、最近のアニメのオープニング曲だった。
「正しいリズムと音程で歌えば、高得点なんですわよね?」
「まあ、そうだな」
「見ていなさい。九条院家一人娘の実力、見せて差し上げますわ」
第一声から度肝を抜かれた。とんでもなく上手い。
リズムも音程も、一切の狂いがない。高い音程も安定しているし、ファルセットも危なげがない。
こぶしもビブラートもお手のものといった感じで、非の打ち所がなかった。
得点、98点。
納得の点数だった。
「めちゃくちゃ上手いな、九条院」
「ありがとう。歌のテストみたいで腕が鳴りますわね」
「まあ確かに、高得点を取るのは楽しい」
カラオケも、夢の中で散々研究したものの1つだ。もっとも、九条院ほど上手くはならなかった。
夢の中で歌のコツは掴めるが、声帯を鍛えることはできない。きっとその部分で差がついている。
九条院のカラオケは、そりゃあもう死ぬほど上手かったが、少し窮屈そうにも見えた。
ひたすらに正しさを追求するような、間違いを許さないような。そんな感じだった。
「なあ、九条院」
「なんでしょう」
「カラオケは、もちろん高得点を取ることを目的にして遊んでもいい。
だけど、別にそれだけが楽しさってワケでもないんだぞ」
同じアニメのエンディング曲の、ライブ音源・映像バージョンを予約に突っ込む。
そして部屋の照明を真っ暗にして、ミラーボールをオン。俺の手にはタンバリン。
採点機能はオフだ。
「次の曲は一切採点されない。ただ気持ち良いように歌ってみてくれ」
「…わかりましたわ」
ふたたび九条院が歌い出す。
あまり柄ではないが、俺はタンバリンを叩いて盛り上げる。
実際、九条院の歌があまりにも上手いので、自然と手が動いた。
九条院の顔も、さっきよりずっと楽しそうに見えた。
その後は、交互に歌いたいアニソンを入れて、交互に盛り上げて。
最後には、男女ツインボーカルの曲を入れて、一緒にハモったりしたのだった。
「ハアハア...歌声安定しすぎだろ…俺は最後まで保たなかった…」
「あら、あなたも十分に上手でしたわよ!それに…誰かと歌うのって、こんなに気持ちいいんですのね」
九条院は、どこか振り切れたような表情だ。
「どうだ、九条院。ゲーセンもカラオケも、結構楽しいだろ?」
「ええ。悪くありませんでしたわ。ですけれど…」
「?」
「今日楽しかったのは、あなたがいたおかげですわ」
曲の鳴り止んだ、無音のカラオケルーム。
ミラーボールの光が、際限なく輝きを増して、視界がホワイトアウトする。
九条院の隣には、先ほどクレーンゲームで取ったテディベアが、ちょこんと座っているのだった。




