第15話「ネオン・ラビリンス1」
気が付くと、アミューズメント施設の中にいた。
ボウリングとかダーツとか、ゲーセンとかカラオケとかの複合施設だ。
施設内には誰ひとり見当たらない。
店員すらいない。
栞と何度か来たことのある施設だが、
俺自身の夢にしては少し不自然に思える。
もしかして、誰かの夢に侵入してしまったのか...?
だとすれば、夢の主がどこかにいるはずだ。
探し出して、誰の夢なのか突き止めたい。
とはいえどのフロアも広いし数も多いので、当てずっぽうで探すのは骨が折れる。
何かしら当たりを付けてから探した方が良さそうだ。
じゃあ、誰の夢なのかを推理して、居そうな場所に行ってみることにしよう。
真っ先に候補に上がるのは、栞と麗奈だ。
俺の個室に入って来た理由は見当がつかないが、比較的可能性が高い。
栞ならクレーンゲームコーナーにいる気がする。
麗奈はどこだろう...こういう施設にはあまり来なさそうだから、見当がつかない。
他に候補がいるとすれば…九条院か。
俺の脳波を計測しに来た可能性はゼロではないが、
だとしてそのまま眠ってしまうなんてことがあるだろうか。
使用人がその役目を任された可能性もあるが、
だとしたら眠ってしまう可能性はさらに低いだろう。
九条院が居そうな場所なんて、麗奈よりわからないが…
待てよ?もしかしてこの施設も、九条院グループのものなんじゃないか?
薬局も、駅前のデパートも、九条院グループなんだから。今更驚くようなことじゃない。
この施設、名前なんだったかな…確か…ラウンドナインだ。
うわ、絶対に九条院グループじゃんか。
さっさと気付くべきだった。
自社グループの施設内で九条院が馴染みのある場所と言ったら…
通用口とか管理室とか、そういう類の部屋なんじゃないだろうか。
これが栞や麗奈の夢なのであれば、急いで見つけ出す必要はない。
先にバックヤード側を探索するとしよう。
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1F受付カウンターの奥の扉から、バックヤード側に抜けることができた。
経験上、普通の夢ではこういう場所には鍵が掛かっていることが多いのだが…
九条院にとって「通れて当然」という認識だから、鍵が掛かっていないのだろう。
バックヤードには、倉庫やらモニター室やら様々な部屋が立ち並んでいる。
片っ端から覗いていくものの、夢の主は見当たらない。
もしこれが九条院の夢なのだとしたら、
もっと特別な部屋に居るということだろうか…?
バックヤード内にエレベーターを発見。
上か下か悩んだが、地下に降りてみることにする。
地下1Fフロアに到着。あたりを見渡してみる。
すると、左手の廊下の奥に「VIP」と書かれた部屋があるのを見つけた。
九条院がいるとしたら、こういう部屋なんじゃないだろうか?
ギィ…と扉を開ける。
そこには、入口に背を向け優雅に紅茶を飲んでいる、
九条院月華の姿があったのだった。
「やっぱりここにいたんだな、九条院」
「なっ…神城蒼!?どうしてここに」
完全に油断していた様子。
「別に、夢の中に同級生が出てきたっておかしくないだろ?」
「それも...そうですわね」
俺が夢に侵入しているという事実を、わざわざ明かす必要はない。
俺が知らないフリをすれば「1人で見た夢」の範疇に収められる。
「今日は俺がはじめて九条院の家にご招待されたんだ。夢にくらい出てくるさ」
「…そもそも私の夢に、誰かが出てくること自体稀ですから」
夢の中にしてはメタ発言すぎたかなと思ったが、そんなことより九条院の発言が気になる。
大手グループのご令嬢というのは、存外孤独なものなのかもしれない。
「せっかくこんな施設にいるのに、バックヤードの部屋に引きこもって過ごすのか」
「いつもそうですわよ」
九条院は、なんでもないという風にそう答えた。
「客として来たことはありませんし。ビリヤードくらいしかやり方もわかりませんから」
いつも1人きりでいる上に、紅茶だけ飲んで過ごしてるっていうのか?
こんな巨大なアミューズメント施設にいて?
普通の人間は、夢の記憶を持ち帰ることはあっても、夢の経験を持ち帰ることはない。
だから、ここで俺の特異性に気付かれないためには、新しいことは極力経験させるべきじゃない。
そもそも、夢の中で九条院に干渉しないほうが安全だ。
そんなことはわかってる、わかってるんだ。
だけど、どうしても...ただ黙ってこの部屋から去ろうとは思えなかった。
とんだお節介かもしれないけど。
俺が遊びたいだけかもしれないけど。
この夢の中でくらい、思いっきり遊んでみて欲しいと思った。
「遊びに行こうぜ、九条院。この部屋から出るだけで、遊びきれないくらいのゲームがあるんだから」
普段はひとりなのかもしれないが、今は俺がいる。
一般的な高校生の遊び方くらい、いくらでも教えるさ。




