第14話「油断と決断、クソデカベッド」
「特殊な人間をターゲットにした…って、具体的にどうしたんだよ」
おそらく九条院も、俺がどんな能力を持っているかまでは把握できていない。
なるべくギリギリまで攻めて、逆に情報を引き出してやる。
「レム睡眠とノンレム睡眠が同時に行なわれている状態を分析して、
その時間を引き延ばす成分を開発・配合したの。
だから、その状態になれる人間にしか、あの入浴剤の特異性には気付けないはずですわ」
「そうなのか。でも、他社の入浴剤に入っているような一般的な成分も入ってるんだろ?」
「ええ。でなければ商売として成立しませんから」
「期待外れで申し訳ないが、残念ながら俺は予知夢もデジャヴも経験ないんだ」
嘘ではない。なぜなら予知夢もデジャヴも、他人の夢に過ぎないことを理解しているから。
未来予知だとも既視感だとも思ったことはないのだ。
「仮にそうだとしても、もう1つ疑問が残りますわね」
「なんだ?」
「桐谷麗奈の成績が、途端に向上した件ですわ」
急に矛先を向けられたので、麗奈が身構えた。うまくフォローできるだろうか。
「薬局の監視カメラをチェックしたと言ったでしょう?神城蒼がはじめて
アニムスの入浴剤を購入した日、桐谷麗奈が一緒に来店した記録も残っていますの」
だからプライバシーとかないんか?
「確かに、栞と麗奈と3人で薬局に行った日に、はじめてアニムスの入浴剤を買ったよ。
でも、それと成績の変化に何か関係があると言えるか?」
「買い物の内容や様子から考えて、桐谷麗奈はこの日、神城家に行ったと考えるのが自然ですわよね」
確実な証拠は持っていないとしても...この点について言い逃れは厳しそうだな。
「そうであれば、桐谷麗奈がアニムスの入浴剤を使用した可能性は十分にある。
そして、特殊な夢を見る時間が延長され、それが学力に影響の与えたのではないか…
と推理するのは、自然なことではなくて?」
「確かに、筋は通ってるな。なるほど九条院は、俺だけでなく
麗奈も特殊な人間なんじゃないかと考えているんだな」
これは間違いだ。麗奈は普通の人間で、夢の中に侵入されたにすぎない。
突き崩す隙があるとしたらここか。
「麗奈は、過去に予知夢やデジャヴを経験したことあるか?」
「デジャヴは数回あったかも。でも、普通のことじゃない?」
「そうですわね。数回であれば、誰にでもあることですわ」
よしよし。良い調子だ。
「正直に言うが、あの日麗奈はウチに泊まりに来た。栞にメイクを教えるために。
九条院の推理通り、アニムスの入浴剤も使ってもらった」
本当のことしか言っていない。
嘘を吐くのは最後の手段だ。事実のみで躱せるのが一番良い。
「本人の許可が取れるなら、麗奈の脳波をスキャンしてみればいい。
それに、俺はともかく麗奈が繰り返し入浴剤を買ったというデータはないんだろ?」
麗奈の脳波をスキャンされても全く問題ない。むしろ潔白の証明になる。
麗奈がアニムスの入浴剤を買っていないだろうというのはただの推測だが、
俺が訪問するワケでもないのに自宅用に高級な入浴剤を購入していたとは考えにくい。
「確かに…そうですわね」
九条院は、納得はいかないが反論する箇所が見つからない…といった様子だ。
「神城蒼…頭が切れるのね。ますます気に入りましたわ。本日は泊まっていきなさいな」
「…は?」
////
俺も栞も麗奈も、九条院の屋敷に泊まることになってしまった。
流石に危険ではと思ったのだが、一旦追求は止んだのでよしとする。
俺が脳波を計測されず、かつ誰とも同室で寝なければいいだけだ。
そもそも男子は俺だけだし、どうせ1人で寝ることになるだろう。
いま俺は、1人で入るにはあまりにもでかすぎる大浴場で、そんなことを考えている。
元はと言えば、温泉に入る代わりにここに来たんだったな。
「大浴場の湯では、開発中のアニムスの入浴剤を日々テストしているの。
今や天然温泉を凌駕する効能になっていましてよ。あなたの肌も、
さらにスベスベになるんじゃなくって?」
と九条院に言われたが、果たしてどこまで本気なんだか…
一方、女湯。
栞、麗奈、月華の3人は、栞の「どうせなら3人一緒に入りましょうよ!」
という無邪気な提案によって、仲良く湯船に浸かっていた。
なんとか話を回さなきゃと気張る栞と、なんとかボロを出さないようにしなきゃと気張る麗奈。
そして、ただただリラックスしている様子の月華。
「いやお風呂でか過ぎませんか…九条院先輩、普段ひとりで入ってるんです?」
「ええ。こんなに大きくても仕方ないのだけれどね」
「ウチなんてマンションのユニットバスだよ…羨ましい」
「いつでも入りに来ていいですわよ、桐谷麗奈。そのかわり、
一度寝ている時の脳波を測定させてもらえるかしら」
「別にいいよ。好きなだけ測定すれば」
それで蒼の疑いが晴れるなら、協力したいと思っていた。
そもそも私のせいで疑われてるんだし、脳波を計測されるくらい、どうってことない。
「というか九条院先輩、私のことは疑わなかったんですか?」
栞ちゃん、すごい攻めるなあ。
そういう大胆なところ、お兄さん譲りなのかも。
「あなたは手がかりが無さ過ぎますわ、神城栞。何か身に覚えがありまして?」
「いや〜私もないんですよね。予知夢とか見てクラスで無双してみたいんですけど」
栞ちゃん、クラスで無双することが生きがいなのかな。
「というか九条院先輩、全員フルネーム呼びですよね。長くないです?」
「なんというか、ついクセで…特にこだわりはないのですけれど」
「私は栞でいいですよ。麗奈さんも、麗奈のほうが気楽じゃないです?」
「まあそうだね。私も麗奈でいいよ」
「わかりましたわ。ではお二人のことは栞、麗奈、とお呼びします。
お兄様のことは…蒼、と呼べばいいのかしら?」
「「それはダメ!!」」
栞と麗奈の発言が、綺麗にハモったのだった。
////
いざ就寝。
結局、俺たちにはそれぞれ個室が与えられた。
そしてふっかふかのクソデカベッド。これなら気兼ねなく眠れそうだ。
だが、1つ調べておかなきゃいけないことがある。
俺は、ベッドの中やクローゼット、各コンセントの周りを徹底的に調べた。
というのも、こっそり脳波を計測されるんじゃないかと思ったからだ。
栞と麗奈は、計測されても別に問題ない。
が、俺だけは特殊な脳波が出ている可能性が十分あると思う。
計測器が見つかった場合、除去や破壊をするのは不自然なので、
最悪の場合徹夜を覚悟していたのだが…どうやらそれらしい機器はなさそうだ。
「九条院ならそれくらいやってきそうな勢いだったが…流石に心配しすぎか。寝よ寝よ」
さっさとベッドの中に潜り、スマホもいじらず眠りに落ちていくのだった——。
………
……
…
蒼が入眠してしばらくした後。
蒼の部屋に、九条院月華が侵入してきた。
「ぐっすり眠っていますわね…。神城蒼、あなたはやはり怪しい。
ですが、なかなかボロを出さないようですから。寝込みを襲うことにしますわ」
バスローブのポケットから、脳波測定装置を取り出す。
蒼の枕元に装置を置くだけでセット完了。
後はスマホに、脳波のモニタリング状況が送られてくるのだ。
蒼の寝ている隣に優雅に寝転び、スマホを眺める月華。
勝手にログは蓄積されるので、リアルタイムにチェックし続ける必要はないのだが…
いち早く結果を知りたい月華は、ついついチェックしていた。
「この特殊な夢の謎が解明できれば、きっと大きなビジネスになる。そうすればわたくしも…」
そしてそのまま...うっかり月華も眠りに落ちてしまったのだった。




