第10話「籠の外、城の中」
「流石に休憩しすぎたか…というかまだ目覚めないのか?」
随分な時間を過ごしたというのに、まだ外は明るい。
かれこれ12時間は活動したはずだが、大して疲れてもいない。
「こんなに長い夢を見ることはそうそうないけどね…まあラッキーじゃん」
「それもそうだな…じゃあ、ぼちぼち次の教科をやるか」
「はーい」
一晩で数学と英語が終わっただけで十分に偉業なのだが、
まだ国語・化学・化学・世界史など…科目は山積みだ。
.........
......
...
こうして、勉強・お菓子・ゲーム・たまに睡眠…を適当に繰り返しているうち。
全科目の中間範囲が終わってしまった。
「いくらなんでも長すぎないか?桐谷死んでないか??」
「ちょっと、怖いこと言わないでよ」
「だって、こんな長い夢見たことあるか...?」
「ないけど…」
「誰かの夢に入って、その人が死んだ場合、俺はどうなるんだろう。
追い出されるのかと思ってたけど、もしかして一生出られないのかな」
「もしそうだったらごめんね、神城。私のせいで」
「いやまぁ、この夢楽しいし。それならそれでいいよ。
その場合、悪いけど俺と一生この夢で遊んで暮らしてくれ」
「...いいけど」
桐谷が小声でぼそっとつぶやいた。
俺は難聴系主人公じゃないから、ちゃんと聞いている。
桐谷もそれなりに楽しんでくれているということだろうか。
「もし、一生この夢に閉じ込められるんだとしたら」
「うん?」
「どこまで行けるのか、ちょっと気になるよな。桐谷、どこか行きたい場所はないか?」
「...だったら、遊園地に行きたいかな。小さい頃に行ったきり、一度も行ってないから」
「行った記憶が残ってるんだったら、この夢の中にもあるかもしれない。行ってみよう」
俺は桐谷と家を飛び出す。
スマホで行き方を調べ、電車を乗り継いでいくのだった。
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「なんだ、ちゃんとあるじゃんか」
目の前には、日本一有名な遊園地が広がっていた。
どうやら今日は平日らしく、比較的空いているようだ。
そしてやたら時間経過のゆっくりなこの夢だが、気付けば夕方になっていた。
俺も随分昔に栞と来た記憶がある。
栞は高校生になってからも友達と来ているのかもしれない。
「さあ、入ろう桐谷。相手が俺で申し訳ないが」
「ううん。もう高校生のうちは来れないと思ってた…本当に嬉しい」
「そりゃ良かった。きっと時間はたっぷりある、好きなアトラクションを、好きなだけ楽しもう」
俺もこの能力を自覚して久しいが、夢の中で遊園地に行ったことはなかった気がする。
正直なところ、少しワクワクしていた。
桐谷の思いつくまま、次々とアトラクションを制覇していく。
そして気に入ったものは、繰り返し遊ぶ。
気になる食べ物があれば買うし、気になるグッズがあれば買う。
桐谷の失われた青春が、いま取り戻されているのかもしれない。
散々遊び尽くしたのち、遊園地のランドマークである巨大な城のてっぺんに登ってみた。
園内のきらびやかなイルミネーションが一望できる。パレードも行われているようだ。
演出された非日常。夢の国というのは伊達ではないらしい。
「は〜楽しかった。世の女子高生は、こんなことして遊んでんのね」
「まあそうかもね。制服姿の女子高生を、何度も見かけたし」
これは夢の中だが、現実世界に即した景色が反映されている。
きっと現実の客層も、こんなものなのだろう。
「ありがとね。今日、人生で一番楽しかったかもしれない」
「俺は桐谷の夢の中にお邪魔しただけなんだけどな…
これからはもっと、夢の中で自由に遊んでみたらいいと思うぞ」
「私一人じゃこんなに楽しくなかったよ…蒼のおかげ」
名前で呼ばれた。まったく予想していなかったので驚いた。
「どうした急に」
「いや、栞ちゃんのことは栞ちゃんって呼んでるのに、
アンタを神城って呼ぶのもバランス悪いかなーって。深い意味はないから」
「ああそう…...桐谷は」
「麗奈」
「へ?」
「こっちが蒼って呼んでるんだから、アンタも麗奈って呼んでよ」
深い意味ないって言ったじゃないか。
「...麗奈は、このままバイトと勉強ばっかの毎日でいいのか」
「え?」
「学校行って、それ以外の時間はバイトして、寝てる間は俺に勉強を習って。
本当は、他のこともしたいんだろ…?」
「うん、だから——」
「これからも、夢の中で私と遊んでよね」
見たこともない、満面の笑みを見せる麗奈。
背後のイルミネーションも相まって、本当に綺麗だと思った。
そう思ったのも束の間、イルミネーションがどんどん明るくなり、
そのまま景色がホワイトアウトしていく。
やっと夢から目を覚ますみたいだな、麗奈——
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目を開けると、自宅の居間の天井だった。
ふと横を見ると、麗奈が目を覚ましている。栞はまだ眠っているようだ。
「おはよう、蒼」
寝起きの麗奈は、髪こそグシャグシャだがなんだか色っぽかった。
蒼と呼んでくるあたり、夢での記憶と経験は持ち帰ったみたいだな。
「ああ、おはよう麗奈。勉強の内容はちゃんと覚えてるか?」
「うん、ちゃんと覚えてるよ…他のこともね」
ウィンクしてくる麗奈。途端に可愛く見えてきた...冷静になれ俺。
「蒼〜〜〜〜!?麗奈〜〜〜〜!?」
眠っていたかに思われた栞がガバッと起き上がる。
「お前眠ってたんじゃないのかよ」
「どういうことどういうことどういうこと!?夢で何したの!?」
「圧がすごい…だから勉強を教えたんだって」
「勉強教えただけで下の名前で呼び合うかぁ!!何したか白状しなさいよ」
「いやいや、休憩がてらちょっと遊んだだけだって」
「何 を し て ?」
「そんな大したことは…なあ麗奈?」
麗奈に助けを求めてみる。
「ふーん。大したことじゃなかったんだ、蒼的には」
「兄貴〜〜????」
「誓ってやましいことはしてないって!なあ麗奈、栞の誤解を解いてくれ」
「でも、栞ちゃんがキレてるの見るの面白いから」
「勉強教えてやったのに〜!」
麗奈は助けてくれず、朝っぱらから栞に詰められる羽目になったのだった。




