第95話 ルミシルヴァの疑惑2
「え? 族長が集まるのですか?」
「ああ、エルヴァリエルから要請があった。至急、話し合いたいことがあると」
族長は話し合う内容については聞いていないようで、全く予想がつかないようだ。
エルヴァリエルからの要請……すぐに思いつくのは魔素の関連だ。もしかして、自分では感じられていないが、アレを使っている影響が出ているのだろうか?
だとしたら、『至急』というのもわかる。魔素の減少は森にとっては大きな問題だ。
話し合いの内容は別のことかもしれないが、アレは止めておいた方がいいだろう。族長が『魔素が減少している』と聞けば、真っ先に思いつくのはアレだ。そうなれば絶対に確認に来るはずだ。
幸い交易一回分のインゴットは回収した後だ。次の交易が終わるまで近づかないようにしなければ……
せっかく、真名の入力を減らそうと思ったのに……
そんな考えが真っ先に浮かんだ自分に嫌気が差す。
入力回数を減らそうと思い、育てる本数を増やしたことで、魔素への影響が無視できないほど大きくなったのかもしれない。これで判明するとなると、いつか問題になっていただろう。
アレを動かしていたことが発覚すれば、交易は終わりだ。
いや、それだけでは済まない。おそらく追放となる。アルシェイラという前例があるからな。
しかも、アレは魔素に影響するとわかっていて動かしたのだ。弁解の余地もない。
翌日、各族長が到着するたびに出迎え、それぞれ案内をしていく。
部族で共有するようなことがあればこうして集まるが、部族同士の交流はほとんどない。顔を合わせても最低限の挨拶のみで会話はなかった。
今回の集会の発端となったエルヴァリエルの族長を見てふと思う。
先日の世界樹での会話で、エルヴァリエル部族にはアルシェイラが森を去ったことは伝わっているはずだ。今回の集会で長の権限も移る可能性があるな。
だからといって、何があるわけでもないのだが……
集会所として整えられた部屋には五人の族長が集まり、それぞれ席につく。
揃ったのを確認してエルヴァリエルの族長へ視線を移せばそのまま集会の開始となった。
「本日は集まってもらったのは魔素についてだ。ここ最近、魔素が薄くなることが繰り返し起きている」
魔素が薄くなる? ルミシルヴァで魔素の異変を確認したのは……アルシェイラのあの一件だけだ。
だが見回すと、他の族長も現象を確認しているようだ。
「現在、また魔素が薄くなっていたのだが、ルミシルヴァに着いたら魔素が薄くなく、驚いたくらいだ」
「ルミシルヴァではここのところ魔素が薄くなる現象を確認していません」
「……なるほど。ルミシルヴァでは魔素の減少を確認していないから、対応に出ることがなかった、ということだな?」
どうやら魔素の減少が起きているにもかかわらず長として動かなかったことが問題となっているようだ。
それはそうだろう。ルミシルヴァで魔素の減少を確認していれば、すぐにでも原因究明に動くことになる。実際にアルシェイラが影響を出した時はすぐに調査へと動いた。
「なぜ、ルミシルヴァだけ魔素が減らない?」
「世界樹から遠いフェルシルヴァでは精霊の数も減ってきている」
「ヴェルディエルでも魔素と精霊の減少を確認しています」
精霊の数にまで影響しているということはかなり深刻なようだ。このままでは結界にまで影響が出かねない。
魔素の減少と聞くと、すぐに思い出すのはアルシェイラの作ったアレだが、アレが稼働していて魔素に影響が出るのであれば、ルミシルヴァでも魔素の減少が確認できるはずだ。
……だが、一度は確認に行かなければならないな。
「そういえば、最近、森に近い場所まで人間が集まって来ているようだ」
「人が? 狩りにきているだけではなく?」
「その日に食べる分の狩りはしているようだが、ただ森に入らない位置を通り過ぎるだけのようだ」
「……何をしに来ている?」
「まさか人が魔素に影響を出している、ということはないだろうな?」
「自分の魔力すらうまく操れない人間が、魔素に影響できるとは考えにくいですが……」
様々な情報や推測が出ては消え、結論は出ない。結局この日はそれぞれの部族で原因を調査することとして解散となった。
族長たちを見送ったその足でアレの元に向かう。
族長の集会があることを話したとき、アルセリオンの目が泳いだ。アレを維持したいと思っていたアルセリオンのことだ。もしかしたら……という疑念は払いきれない。
中に入り、周りを見回してみるが、全体的に薄暗く、やはり稼働している様子はない。
動作を止める時に出したものをもう一度表示させて、数字を確認するがゼロのままになっている。
自分にわかる範囲で止まっていることを確認できて、安堵のため息がこぼれた。
改めて内部を見回す。
あれだけ密集して生えていた植物がなくなって、大きな空間となっていた。
アルシェイラも『数値をゼロにしたら魔素の供給がなくなるからそのうち枯れる』と言っていたから枯れたのだろう。こんな光も入らない場所で植物が育つ方が自然に反しているのだが……
アルシェイラには『自然に逆らうような大きな力は世界のバランスを崩す』と様々な表現で説いたのだが……あの子は聡いから意味は理解しているだろう。だが、どうにも本質的な部分を理解できていないような、そんな気がしてならない。
「……心配だ……」
追放しておいて、たまには帰ってこいなど言えるわけもなく。
一人放っておけば自分のやりたいことだけしか見ないだろう。周りのことも自分のことも忘れて、ただやりたいことだけに集中する。
アルシェイラの処分では、アルセリオンを利用してあの子の願いを叶えることを優先した。祝福を維持するためには森に留めることが森のためにもなると理解はしていた。
だが、私情を捨てきれなかった。
自嘲の笑いがこぼれる。アルセリオンやアイラには『個人の感情を切り離せ』と言うのにおかしな話だ。
元気な姿を確認できないのは心配ではあるが、それよりもあの子を自由にしてやりたかった。アルシェイラにはエルフの世界は狭すぎる。
辿り着いた先でも周りを巻き込んでやりたいことをやるのだろう。自分らしく生きていてくれたら、それでいい。それだけを願っていた。




