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強欲のダンジョンの作り方  作者: 夢兎
エルヴァリエル

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第90話 物の価値

 いつものように交易担当者同士が話す様子を見る。

 他の部族の工芸品はエルヴァリエル部族の交易担当者に預けられているため、その場に出される工芸品は部族の特色で彩られている。

 多くはルミシルヴァと同じく草木を使い、ところどころに自然石があしらわれているが、外縁に近い狩猟部族は羽や動物の皮を使っている。動物そのもの、特に皮を使ったものはエルフは敬遠しがちなのだが、人には評価が高いようだ。


 しばらくして担当者の手が空いたのかこちらに視線がくる。その視線に導かれるようにそのまま近づき、いつも通りの言葉を交わす。

 そういえばいつもこちらから話しかけているな? と思い聞いてみたら……


「エルフの方々は積極的な交流を望まないという方が多いので、こちらからは話しかけないようにしているのです」


 なるほど。いろいろと考えられているようだ。


 マジックバッグの代金としてインゴット五本と回復ポーション代として約束していた薬草を渡す。


「はい、確かに。こちらが初級の回復ポーションです」


 手のひらサイズの小瓶に澄んだ緑色の液体が入っている。

 たったこれだけで傷が治るのか?

 とりあえず受け取り、マジックバッグの中に入れる。



 そして、部族として工芸品を使って取引したいと言うと、見せて欲しいと笑顔になった。

 そんなに多く持ち込まれても対応できるのか?


「来てみないとどういったものを望まれるか分かりませんから、かなり余裕をもって商品を持ってきています」


 今回頼んだ初級ポーションも、追加を依頼されてもすぐに出せるよう余分に持ってきているらしい。

 工芸品を出しながら、他の部族の工芸品はどんなものと交換しているのか一通り見せて欲しいと要望する。


「多くは金属製品ですね。狩猟の時に使うナイフはほぼ毎回求められます」


 それはルミシルヴァでも欲しいだろう。


「後は銀で作られた匙類です。精緻な細かい模様を好まれるようですね」


 人も貴族が好んで購入する為、こちらは少し高価なようだ。綺麗だが、工芸品十個程度が必要らしい。色んなものを買って持ち帰りたいから今回は情報のみだな。


「これらのような海を渡ってきた布も人気です」


 染め方で色んな模様を描いているようで、素材は同じだが、並んでいるとそれぞれの特色が面白い。

 単色で染めることがほとんどだからこれは喜ぶのだろうな。三種類ほど買っていこうかと思うのだが……こういう感性が合っているかわからない。

 定番のものと、好みが分かれるものをいくつか紹介してもらい、その中から三つ選ぶ。


 こちらが交易品を選ぶ間にも工芸品の査定は進んでいる。順調に次々と箱を開けて中を見ていたが、例の黒い工芸品で手が止まった。


「……こちらは……ずいぶんと趣が違いますね……」


 そうだろうな……


「取引が難しいようであれば持ち帰るが?」


「いえ、普段扱わない方向性なので相場が定かではないのですが、一部の方には高く売れるはずなのです」


 ……これが?


「一旦他の工芸品と同額で引き取って、次の交易の時に差額分を精算でよろしいでしょうか?」


「ああ、それで構わない」


 ……何が高く売れるものなのか……分からないものだな……

 ただ、一部の趣味であるようなので、高いからといってこの黒いものばかりだと困ると少し困惑した表情で言われた。

 ……そうだろうな……エルフらしいものを買い求めに来てこれは……

 いや、色々な感性の者がいるものだ。否定するものでもない。



 黒いのはさておき、人の出す交易品を順に見ていく。

 金属のものは総じて高い。先ほどの匙の他に鍋もあったが、こちらも大きさやどれくらいで交換できるかという情報だけを持ち帰る。


 今回交換できたのは布のものが多かった。飾り紐やレース、フリルと呼ばれるものは見たことがない。使うかどうかは、服を作る者に聞いてみないとわからないな。そう思い、一点ずつだけ交換する。

 部族で必要かと問われたら……そういうわけではないが……部族内で作られている服は装飾のないものがほとんどだ。


 見せてもらった品がどれくらいで交換できるのか聞き、覚えていく。

 欲しいものがあればそれに合わせて揃えてきたらいいだろう。

 ちなみにアレから採取できる薬草の他に、ルミシルヴァで採れる薬草も見せて価値がどれくらい違うものか聞いてみる。


「いつもの高品質なものではなく、一般的な薬草ですね。それでも品質は良いですが」


 品質そのものは良い。だがアレから採れた薬草と比べると半値程度にしかならないらしい。工芸品で足らない分は薬草で足せたらと思ったのだが……それをやるならアレから採取したものに限るな。


 他に交易に出せそうなものはないかと考えるが、どうにも思いつかない。


「まだやってくれるか返事は聞いていないのだが、工芸品を入れている箱に彫刻で模様をつけようと思っている。どういう柄が好まれる?」


「彫刻ですか! それならエルフの方々が作ったということで森の草花や木々を象った意匠が良いですね」


 「実際の彫刻を見てみないとはっきりとは言えないが、箱単体でも売れるのではないか」と、担当者は言う。それなら他の彫刻も持ってきてみるか。



「ここからはまた個人的なものとなるが……薬草はまだ引き取ってもらえるか?」


「はい、高品質のものであれば大丈夫です」


 やはり森特有のものでなければ買わないのだな。


「人の常識を知りたい。そういうものを学べるような書物は買えないだろうか?」


「書物ですか。まず前提として、書物はかなり高価です。薬草での取引となると少々厳しいですね」


 つまり、代金にはインゴットが必要になるということだな。


「……わかった。次は書物用に一本インゴットを準備する」


「あと失礼ですが……人の文字を読むのはどの程度できるのでしょうか?」


「そうだな。生活に使うような簡単な言葉であれば読めるし、理解もできる」


 若長教育の一環として、外縁部に侵入してきた人間の言葉がわかるように覚える。だからその程度であれば理解はしている。


「書物を求めるのは貴族層がほとんどです。書物での知識となると町や村に住むような一般的な知識とは少し離れますが、よろしいですか?」


 そうだな。エルフでも書物を読むのは趣味の範疇で、書物として保存してあるものも族長や研究が好きな者が記録用に残すものが多い。アルシェイラはそれらを嬉々として読み漁っていたが……


「では、子供の教本に選ばれるような、簡単なものから見繕ってまいります。書物は希少で望みの内容がすぐに入手できるかわからないので、いくつか持ってきた中から選んでいただく形でよいでしょうか?」


 その時に気にならない情報でも、どんなものがあるか覚えておけばまた要求することもできるだろう。

 それで了承して今回の交易を終えた。

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