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強欲のダンジョンの作り方  作者: 夢兎
エルヴァリエル

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第87話 真名の入力2

 アルセリオンとアイラが並んで世界樹へと向かう。


 思い返せば、こうしてアイラと並んで歩くのは初めてかもしれない。


「アイラは世界樹で何をするのか知っているのか?」


 ふと疑問に思ったことをそのまま口にすると、アイラから呆れたような視線が向けられる。


「……あなたは本当に若長ですか?」


 ……どういう意味だ?


「今まで誰が世界樹の元に行っていたのか、把握していないのですか?」


 それはアルシェイラだろう?


「お母様に私も同行していました。おじい様……族長にも毎回報告していることですが?」


 ……それは把握していなかったな。


「確かに報告する時にいつもいないとは思っていましたけど……」


「各所への連絡を通じて状況把握が中心で、ほとんど外に出ていた」


「ならなおさら世界樹のことは把握しておくべきでは?」


 ……痛いところを突かれたが、否定できる要素がないな。


「そういうのも含めて今回の人選なのだろう」


 呆れを含んだ視線を向けてくる。


「そうして決められた中でしか動かないから、いつまで経ってもお母様のようになれないのですよ」


 ……どうして、そこであいつが出てくる?

 アイラは「エルフらしいといえばそうなのですが……」と呟いている。



 そんな会話をしつつ、思考を巡らせる間に世界樹の姿がどんどんと大きくなる。

 世界樹はいつ見ても壮大で美しい。

 幹は一体何人分あるのか……離れていても視界を埋めるほどに太く、その上には雲のように広がった葉が空を覆いつくしている。根も波打つように横に広がり、その隙間からは水が流れ出て集まり、小川となり流れていく。世界樹の周りには色とりどりの精霊が舞っていた。


「……世界樹の様子は変わりないようだな」


「ええ、もうすでにお世話済みのようですね」


 アイラの視線を追うと、そこには五人のエルフがいた。


「あら、ルミシルヴァではありませんか。今さら何をしに来たのです?」


 一人が進み出てきて高圧的に問いかける。


「魔素が揺らいだので世界樹の様子を見に来たのですが……」


「反応が遅いですね。一体、何日前のお話をされているのです?」


 二人は火花を散らすように言葉を交わす。

 いつものことなのか、他の四人のエルフは我関せずのようだ。


 ここにいた五人は全て祝福もちのようで、風の祝福を強く感じる。ということは、エルヴァリエルかシルヴァリエルか……積極的に世界樹に関わろうとするのはエルヴァリエルだろうな。

 長く森を統べる一族として、この地を守ってきた部族だ。魔素の異変など、根幹を揺るがすような事態を何もせずに放っておくことなどしないだろう。


「あら? 光の娘がいませんね?」


「……ええ、もうここに来ることはありません」


「もう来ない?」


「森を……出ましたから」


 追放した、とは言わないのか。


「ルミシルヴァは何を考えているのです? あれほど強い祝福持ちの娘を森から出すなんて!」


 掴みかかるかの勢いで叫ぶ。


「あの娘がいないようであれば、世界樹のお世話は私共に戻していただきます!」


 アイラが視線をこちらに向けてくる。


「……わかった。ルミシルヴァの族長にはこちらから伝えよう。ただ、世界樹の世話は長の一族が担うと聞いている。そちらに長が戻るまでは、こうして巡回には来る」


「お世話をする手が多いことは問題ありません」


 言うが早いか、背を向けて離れていく。そのまま集落へ戻るのだろう。


「……勝手に決めてよろしかったのですか?」


「長がエルヴァリエル部族へと戻るのも時間の問題だ。すぐに長の権限を寄越せと言っているわけでもないしな」


 族長は対応に悩むかもしれないが、別に全てを丸投げしてしまおうというわけではない。長の部族として、世界樹の状態が把握できていれば問題はないだろう。

 それよりも……


「世界樹では毎回あんな調子なのか?」


「顔を合わせればそうですね」


 それはずいぶんと賑やかなことだな……


「あの方も、お母様に複雑な感情を抱く一人ですから」


 含みのある言葉にもやっとしつつも、ここでやることは終わったと帰路につく。

 族長に世界樹の様子とその場での会話を報告してその日は解散となった。



 夜。

 警告文を前にして、目を瞑り思考する。


「決められた中でしか動かない、か……」


 思い返してみても、自ら考えて動いたことなど思いつかない。あえて言えば……


「アルシェイラに手を出した時、か?」


 結局あれも精霊のささやきがなければなかったことだろう。

 お互いにアイラは精霊の子という認識だからな。


 目を開けて警告文を見る。

 そういう意味では、今やろうとしていることは自ら考えて動くことになるのか……最初に自ら考えて動くことが、魔素に影響が出ることに承認する内容なのは笑えてくるが。


「外の情報を得れば、新しい視野が手に入るかもしれない」


 次の交易まであと十日。

 そろそろ真名を入力して数値を変更しないと、確実に次の採取ができるのか確認が難しくなるだろう。


 壮大で美しい世界樹の姿が思い浮かぶ。

 魔素に大きく影響が出ることになったら、あの姿が変わり果ててしまう。それだけは避けなければならない。だけど――


 真名を、一文字、また一文字と、震える手で入力していく。

 これが終わったら、もう戻れない。

 これは、真名をかけた契約。

 取り消せない。


 全て入力が終わると周囲が少し明るくなり、精霊がちらほらと飛び込んでくる。

 そんな光景とは裏腹に、魂に鎖がかかったような、ずしりと重たくなった感覚が呼吸を荒くする。

 胸元の服を握りしめ、ゆっくり呼吸をするように心がける。


「自ら望んで結ぶ真名の契約が、これほど重いとは……」


 だが、これで数字は変えられた。

 後はまた資源を生み出すようになるのか。それだけは確認しなくてはいけない。

 真名を使ってまで一歩踏み出した。もう後戻りはできない。あとは、その選択が正しかったと証明するしかない。

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