第85話 初の交易
アルシェイラが森を去った翌日、族長とともにアレの元に行き、聞いていた方法で動作を止めた。
止めた後でも中にあったものは残っている。族長が聞いた話では、植物は新たに生み出されなくなり、残っているものも維持ができないらしい。植物などは緩やかに枯れていくだろうとのことだった。
枯れるだけならばと、使える薬草は採取しておく。採取した薬草は森から採れるものと何ら遜色なく、むしろ状態は良い。
族長が何とも言えない顔をしていたが、ここに生えてきた植物にも魔素が使われている。資源として回収できるものは回収した方が良いだろう。
その夜、アルセリオンは誰もいないことを確認して中に入る。族長はたしかこれに魔力を流していたはずだ。
族長と同じように操作すると何やらいろいろと表示される。たしかこの数字をゼロにしていた。なら元の数字に戻せば……いや、それでは停止が解除されたことがすぐにわかるかもしれない。元の数字が三十五だったから十くらいにしておこう。
どう影響するかはわからない。だが、少しずつ変化するのであれば気づかれにくいだろう。
そう考えながら操作していたら、何か警告文が出てきた。
「なんだ? これは……」
数値を大きくすれば魔素に影響する、とある。それはわかっている。だが……
「それでも変えるのであれば真名を入れろ、だと?」
あいつは毎回、真名を登録してこれを動かしていたのか?
族長に発見されて部屋に連れて行かれてからここには戻っていないはずだ。なら元々あった機能なのだろう。何のために?
……いや、あいつなら普通は考えない、とんでもない機能を仕込んでいてもおかしくはないが……
「真名を軽々しく使うなど……本当に、あいつの頭の中はどうなっているんだ?」
もしかしてこれをどうにかしたら、あいつの真名がわかるのだろうか?
……今さら知ったところで、どうしようもないか。
今後使えるかどうかもわからないものに、真名をかけてまで試す気にはなれない。まだ持ち出した物が売れるか確認していないからな。
今日のところはこのまま触らずに外に出る。
「売れるとわかった時にまた考えるか……」
その時にここがどんな状態になっているか、数字を触るだけでまた使えるようになるのか、全くわからないのが不安ではあるが……
人間との交易担当の者に連絡をとり、次の交易時に同行する許可を得る。
「手ぶらに見えるのも不自然だな……この前アレから採取した薬草も持っていくか」
追加で採取したものなら部族の貯蔵に影響しない。それにこの金属が目的だったのだとわかるように見せるよりは、不意に出てきたものを見る反応の方が参考になる。
袋の底に金属を入れ、それを隠すように上から薬草を被せていく。
これなら袋を開けただけでは薬草しか見えない。ただ、持った時の重さは薬草だけではありえない重さだ。
「……売れるとわかっても、そんなに数は持っていけないな……」
族長に知られるわけにいかないから、誰かに運ぶ手伝いを頼むこともできない。交易の担当者はどうやって荷物を運んでいるのか。
「その辺りも調べないとな……」
こうして少し別のことをするだけで、自分は何も知らないのだと思い知らされる。
族長について部族の管理を手伝うことで、部族の中では様々なことを知っているはずなのに足らない。
「アルシェイラならすぐに解決するのだろうな……」
追い出しても追い出しきれない存在。
この存在は、いつまで苦しめるのだろうか……
数日経過した交易当日。
通常の交易風景を眺め、手が空いた人間に近づく。
こちらの交易担当とずっと話していたところを見ると、この人間が責任者なのだろう。
「少し、話をしたい」
「はい、なんでしょう?」
「話を大きくしたくない。だから無理なら断ってくれても構わない」
持ってきた袋を目の前に差し出す。
「この袋の中身が売れるものなのか確認したい」
「では、確認のためにお預かりします」
袋を受け取り、中を確認していく。
「多くは薬草ですね。非常に状態が良い」
薬草の状態を確認しながら袋の外に積み上げていく。そして、目を見開いて動きが止まった。
……どうやら、かなり価値のあるものらしい……どれくらいのものかは、わからないが。
「……これは、どこで入手されたものなのでしょうか?」
「答える必要があるか?」
「……いえ、失礼しました。この袋の中身が売れるかどうか、でしたね?」
「……ああ」
「この袋の中身は、すべて買い取らせていただきます」
「……そうか」
全て、ということは薬草もか。
結局価値がわからないな……
「対価はこちらの貨幣でよろしいでしょうか?」
貨幣でもらったところで使いどころがないが……とりあえず受け取っておくか。
「ああ、それと情報が欲しい」
「情報、ですか?」
「コレは少々特殊でな。内密に運びたい。だが、一人で複数運ぶには重すぎる」
金属を指さして言葉を重ねる。
人間の目線も金属に注がれている。
「コレの運搬に使えるものはないか? できるだけ目立たず、森の中で使えるもの、という条件で、だ」
「……それであれば、私が使っているようなマジックバッグがよいでしょう」
どうやらマジックバッグというものは人間に継承されているという錬金術で作られるものらしい。
それは、アルシェイラが知りたいと言っていた技術だな。そう言われてみれば、出ていったあの日、あいつは荷物らしいものは何も持っていなかった。もしかしてアルシェイラはマジックバッグを持っていた?
「そのマジックバッグはコレがいくつあったら入手できる?」
「一番小さいものでしたら百本ほどですが……いえ、この品質でしたら二十本ほどでご用意できるかと」
「二十……一回で二本持ってきたところであと十回は運ばなければならんか」
そこまで頻繁だと何かしていることはばれるだろうな。そもそも、数値を上げて再びコレが採れるかは、やってみなければわからないのだが。
「……それでしたら、まずはこちらを買い取らせていただき、正しい評価を算出して良いでしょうか? その上で次回マジックバッグを用意して、対価が揃うまで貸与する形はいかがでしょう?」
「ああ、それでいい。内密に事を進めている以上、そこまで大量には準備できないが」
「この品質ですからね」
人間は納得しているが、アルセリオンは普通の品質がどの程度のものかわからない。
だが、百本必要なものが二十本にまで減るのであればかなりの品質ということになる。そこまで品質が良いのであれば、入手したくなるのも理解はできるな。
あとは、アレが再び動き出すことを願うしかない。どうなることか。




