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強欲のダンジョンの作り方  作者: 夢兎
エルヴァリエル

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第81話 アルシェイラ1

 エルヴァリエル――

『エルフの森』、あるいは『迷いの森』と呼ばれる閉ざされた国。

 広大な森には強力な結界が張り巡らされ、外部の者がその奥にある集落へたどり着くことは極めて難しい。


 この国に王はいない。森に点在する部族の中で最も力を持つ部族の族長が、森全体を束ねる長となる。


 かつては国名の由来となったエルヴァリエル部族がその座にあったが、約二百年前にルミシルヴァ部族へと移り変わった。以来、ルミシルヴァ部族がエルヴァリエルを統べている。



 時は、ドゥルガルド王国で戦乱が勃発するよりも、ずっと前へと遡る。

 エルヴァリエルを統べているルミシルヴァの集落で、静謐を破る一つの騒動が起きた。


 アルシェイラ・ルミシルヴァが自ら作ったダンジョンに籠り、錬金術を楽しんでいると、そこにルミシルヴァの族長が入ってきた。


「最近、姿が見えないと思ったら……アルシェイラ、これはなんだ?」


「おじい様」


 護衛として連れているのだろう。十人の若いエルフが入口前に広がるようにして並び、通路を塞ぐ。

 ……まるで罪人を連行しに来たみたいね? もしかして、ものすごく危険なものの調査としてここにきたのかしら?


「魔素の流れがおかしいと調査していたのだが……もう一度聞く。これは、なんだ?」


「古代遺跡の情報を読み解いた技術で作った、『迷宮』と呼ばれる施設です」


 あたしの中ではダンジョンって呼んでいるけど……


「魔素や地脈……地面の中に流れている力を利用して、自然界にある物の生成を促しています」


「……自然界にあるのなら、なぜここで生成している?」


「エルヴァリエルでは手に入らないからですね」


 入手自体はできる。外に出ているエルフから買えばいいのだけど、会うのがいつになるかわからないし、持っているとも限らない。正当な外部との交易担当は別部族だから接点がないし……

 だいたい、外に出ているエルフなんて片手で数えられるほどしか知らないから年に一回会えたら多い方だ。そんなの待っていたらいつまで経っても何もできない。

 しかも、運よく持っていたとしても足元を見てものすごく高い値段を要求される。払えなくて何度悔しい思いをしたことか……


「確かに魔素は使っていますが、結界や精霊たちへの流れには影響が出ないように、魔素の消費量は調整しているはずですが?」


 足元を見られて高い値段を要求されるから、大きい魔石なんてとてもじゃないけど用意できなかった。仕方なく小さい魔石をコアにして、魔素と地脈からエネルギーをもらってダンジョンを支えてもらっている。


 ダンジョンを展開した時は『やばっ、かなり使ったかも……』と焦るくらい周りの魔素が減ったけれど、それも今は元に戻っている。だから均衡は崩れていないはずなんだけど?


 おじい様はそれはそれは深いため息をつく。

 ……そこまで?


「……数日前に結界が揺らいだ。それはこれの影響ではないのか?」


 ……あ、展開した時に影響が出たのだわ。やっぱりあの量の消費はまずかったか……

 顔に出たのだろう。おじい様が再びため息をつく。


「これはこのままここにあるだけなら魔素に影響しないのだな?」


「そうですね。中で生成されたものを回収して、新たに生み出そうとすると魔素を消費するので、一気に大量に回収しなければ問題ないです」


「では私の部屋に来なさい」


「お話ならここでもいいのでは?」


「……アルシェイラ、何日食事や身の回りのことをしていない?」


 ……そういえば、ダンジョンを展開したのはいつだったかしら?

 ダンジョンを展開してから外に出た記憶は、ないわね。精霊に全身の洗浄をお願いしているから、見た目は汚くはないはずだけど……


「ちゃんと食事と休息をとってから詳しく聞かせなさい」


「……はい」


 魔素の流れが変わったのを調査していたのも本当なんだろうけど、たぶん、心配させたのよね。そこはちゃんと謝らないといけないわね。



 ついてきていた十人のうち、五人はダンジョン前に残って誰も入らないように見張るようだ。あとの五人はあたしを囲んでいる。

 別に逃げないわよ? ……これってやっぱり罪人扱いされてる?


 おじい様の部屋の隣に通され、小間使いの人たちに体を洗われ、髪を整えられている。

 自分でできるからって断っても無言の圧力に負けるのよね……


 その間に準備された食事をゆっくりととり、眠るまでずっと誰かが側についていた。

 ……やっぱりこれは監視ね。



 朝だと思って起きて伸びをしていたら、薬師がやってきて一通り診察していく。


「顔色も戻っていますし、問題ないですね」


 ええ、別に体調なんて崩してませんよ?


「二日間、ほとんど身じろぎもしないで寝ていましたからね? 何日寝ていなかったのですか?」


 寝ている間もちょくちょく診察に来ていたらしく、『濃いくまがあって、顔色もすごく悪かった』と聞いてちょっと反省した。それは休めと言うわね。

 昔から研究を始めると時間が過ぎるのを忘れちゃうのよね……


 もう一日は安静に過ごせと言われて大人しく従う。というか、従わざるを得ない。常に誰かがいて、ちょっとした立ち座りすら一人でやらせてもらえない。

 さすがにそれは過保護だと思うわ。



 さらに一日安静に過ごし、ようやく許可が出たからおじい様の部屋へと向かう。扉を開けてもらって中に入ると、おじい様が顔を見た途端にため息をつく。


「やっと見られる顔になったな」


 そこまで言う? 聞く限りではよほど酷かったのだろうけど……その表現もどうなの?


 座るように促されて、おじい様の対面に座る。


「それで? あの魔素食いはどうして作った?」


 魔素食いって……


「最初に迷宮を作ろうと思ったのは、錬金術に使う材料が欲しかったからです」


 エルヴァリエルでは特に鉱石が採れない。材料を集めるのは本当に苦労した。やっと揃ったと思えば、純度が低すぎて使えないとか、表面だけ偽装された偽物だったりとか。


 ダンジョンができて材料が生成できるようになるとやっぱり便利なのよ。

 この辺りに生えるものをダンジョン内で生成するのはそこまでエネルギーを必要としない。だけど、この辺りにないものを生成するとおじい様の言う『魔素食い』になる。

 だから少しずつ回収して影響が出ないようにしていた、はずなんだけど……


「その錬金術は、このエルフの森に必要なものなのか?」


「いえ、完全にあたしの趣味です」


「……結界を維持する魔素を使ってまで、か?」


「特に必要なくてもやりたいことをやるのが趣味ですし?」


「……そうか……」


 おじい様は片手で目元を覆い、深いため息をつく。

 一体何がそんなに問題なのかしら?

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