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強欲のダンジョンの作り方  作者: 夢兎
ドラグナール帝国

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第77話 ドラグナール帝国の苦悩

 ラウルから報告を受けたルシウス・セラディアは皇帝の執務室へ一人で赴き、内密にエルヴァリエルの情報を奏上していた。


「エルヴァリエルの交易?」


「はい。実物は確認できておりませんが、ずいぶんと質の良い鉄のインゴットが交易品として流れているようです」


 皇帝は顔を歪ませながらも思案する。


「エルヴァリエルが鉱石に関する技術を持つとは考えにくいが……ドゥルガルド王国の例があるからな……」


 この言葉にルシウスも渋い顔となる。

 ドゥルガルド戦は明らかに情報不足のままに先走りすぎた。結果は惨敗。

 何も得られず、ただ軍の動きを縛られることとなった。

 セラディアは軍を持たない故に影響は少ないが、国としてはかなりの痛手だ。


「高品質のインゴットが流れるようになってから、交易担当者が変わったそうです。どうやら、その交易担当者は外との取引に積極的なのだとか……」


「接触できれば交易を行える、ということか……」


「相手が何を望むか、にもよりますが……」


 ドラグナール帝国にはこれといった特産品がない。

 外征や内戦のおかげで武具製造の技術は磨かれているが、エルフは武具に興味を示さないはずだ。

 ルドニア公国にも大した特産品はないが、海路を利用した交易路により珍しい物の取り扱いが多い。その交易品の中から、エルフが好みそうな物を選び交換しているのだろう。


「まずは接触できなければ話にならない」


 すでに交易ができているルドニアと違い、こちらから連絡する術がない。

 さすがにルドニアが使っている連絡手段は教えてもらえなかった。


「内密に交易担当者の調査を進めろ」


「……承知しました」


「ヴァルカディアンの軍が北方にいる。こちらの動きをヴァルカディアンに悟られるな」



 端的に命令を出すと、セラディアは退室していった。

 椅子に深く座り、背もたれに体を預ける。


 まさか、エルヴァリエルから資源関連の情報が飛び出てくるとは……そうとわかっていたら、ヴァルカディアンの北方への再配置ももう少し慎重に考えたのだが……


 読めない。これは無理だ。


 だが、ヴァルカディアンは抵抗なく北方への再配置を受け入れた。

 もし、ヴァルカディアンがこれと同様の情報をすでに持っていたのだとしたら……それは確かに再配置を受け入れるだろう。一体いつからその情報を握っていたのだろうか。


「また……負けるのか……」


 ドゥルガルドの時も一番情報を持っていたのはヴァルカディアンだ。

 そして今回もエルヴァリエルで何かが起きていて、ヴァルカディアンの軍はすでに北方にいる。

 ただの偶然とは思えない。


 四方公爵家が反旗を翻した内戦の時もそうだ。

 ヴァルカディアンはいつの間にか西方を崩してそのまま手中に収めてしまった。

 表面はこちらを攻めてきていた西方を抑えて援護した形だ。だが、一番武力が大きく、後に力を伸ばして勢力を拡大しやすい位置。

 こちらにとって一番手中に収めたかった場所。

 それをあっさり奪っていったのがヴァルカディアンだ。


 西方も、ドゥルガルドも、エルヴァリエルも、同じだ。

 気がついたらヴァルカディアンが最も価値のある場所を押さえている。


『先見の明がない若造』


 公爵たちに散々揶揄されてきた言葉。

 今となればわかる。ヴァルカディアンは先の先まで見ている。自分には見えていない。

 一体、ヴァルカディアンはエルヴァリエルの情報をどこまで掴んでいるのか……


「……このままでは……負ける……」


 誰か、足りない部分を補える者がいるといいのだが……それも思いつかない。そもそも、今思いつくのであればすでに側に置いている。つまりはそういうことだ。

 まだしばらくは、強硬な皇帝像を保たなくてはいけないようだ。




 アルドレウスはエルヴァリエル周辺の地図を前に思考に耽っていた。


 エルフの森の外縁部に簡易の駐留地をいくつか作った。

 軍にそこを中心として少し奥まで踏み入らせて森の調査をしている。

 だが、それらに対するエルフの反応は全くない。

 エルフは元々が外に関心をもたない種族だ。しばらく反応がないだろうと想定はしていたが……


「ここまで何もないとは……」


 森の外縁部は緩衝地帯のような扱いだが、エルフの主張としては森はエルフのものだ。だから外縁部を騒がしくしていれば接触があるものだと予想していたのだが、完全に外している。


 さすがにここまでの長期化は想定していない。

 条約対策で兵を常に動かし続けていたために、現地の兵は疲労による影響が深刻化し始めている。ここまでくると簡易の駐留地では積み重なった疲労は取りきれない。一旦兵を入れ替えることは必要だろう。


「もしくは北方に軍営地を作ることを認めさせるか?」


 補給地も欲しいところだが、村の委託販売で代替にはなっている。管理は甘いが補給の維持はできている。こちらは現状維持でいいだろう。


 だが、軍営地となると皇帝もドゥルガルドも許可を出さないだろう。ごり押しするにも時期尚早だ。


「動かないものを動かさせるのが一番厄介だ……」


 エルフの森は交流がないから情報も少ない。

 挑発するにも種がわからなければやりようがない。

 知っているのは、森を大事にして精霊を尊ぶくらいか……


「いっそ大々的に森を切り拓いてやろうか……」


 効果はあるだろうが、そんなことをしたらすぐにでも軍縮の処分名目を与えてしまうことになる。だからやらないが……息を深く吐き出して気持ちを落ちつける。


 北方に分割するより前から、影が何度か森の内部調査に向かっている。だが、いずれも方向感覚を狂わされ、エルフの住処には辿り着いていない。

 たまに視線や気配を感じて追ってみても、途中で掻き消えて見失うようだ。『迷いの森』とはよく言ったものだ。

 迷わされるとはいえ影は戻ってはくるのだが、エルフの森に関しては何一つ情報は掴めていないのが現状だ。


 情報を得る道筋が全く見えず、夜が更けていった。

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