↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強欲のダンジョンの作り方  作者: 夢兎
ドラグナール帝国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
76/124

第76話 ルドニア公国3

 レヴァン商会には、前回と同じ顔ぶれにルミディア伯を加えて集まっていた。ただし、今回は最初から外交関連の話になることが決まっている。


「我々は隣の小部屋に控えておりますので、何かございましたらお呼びください」


 商会の者たちはそう言って、普段は従者が控える部屋へと移動していった。

 現在この部屋にはルーヴェン子爵とルミディア伯が向かい合って座り、私は少し離れた場所に座っている。



 二人は軽く挨拶を交わし、早速本題へと移っていく。


「話の概要は聞いていますが、まずは確認したい」


「もちろんです。ルドニアでは昨今のドラグナール北方に展開されている軍の目的が気になっています。できればこの軍がルドニアに攻め入らない確約が欲しい」


「確約、ですか……」


「もちろんただで、というわけではありません。ルドニアで行われている北方交易に関する情報を交換させていただければ、と考えております」


 ルーヴェン子爵は笑顔だが、ルミディア伯の表情は少し硬い。

 それもそうだろう。他領の軍に関わる内容が対象となっている。そこに約束を、と言われても難しいものがある。


「現在ドラグナール北方に流れている軍は、先のドゥルガルドとの間で結ばれた条約に基づくものです。あくまで条約に対応するための行軍であって、侵攻目的ではありません」


「それは行軍を指揮している領主に確認したものではない、ですよね?」


「……ええ」


 ヴァルカディアン辺境伯に聞いたところで、条約と皇帝命令に従っているだけだと返ってくるだけだろう。

 実際の行軍も表面上はそれらに従った行動であることは確かだ。内面で何を考えているのかは読めないが……


「ただ……公式ではないが、私自身が皇帝に直接確認をとっています。『ルドニア公国に侵攻する予定はない』と」


「皇帝陛下ご自身に?」


 ……行動が早いな。だが、ドラグナール帝国がそう言ったところで周辺国が安心するとは思えないが……


「軍が独自の判断で侵攻する可能性はありませんか?」


「他領の軍に直接干渉することはできない。そのため確実にそれはないとは言い切れないが、条約がある以上、軍を他国へ侵攻できる状態にすることは難しい」


 ルーヴェン子爵は出てきた情報をまとめているのか口元に拳を当ててしばし黙る。


「……今、ドラグナール帝国で軍が侵攻可能な状態になることを恐れているのはドゥルガルド王国です」


「……たしか条約にある査察権は、ドゥルガルド王国のみ保有する、でしたか?」


「はい。私が言うのもなんですが……ドラグナールの口約束よりもドゥルガルドの目の方が信用できるのでは?」


 ドゥルガルド王国へ侵攻する前にも、ドラグナール帝国は『ドゥルガルド王国へ侵攻するつもりはない』と公言している。周辺国にも知れ渡っているドラグナール帝国の常套文句だ。これほど信用できないものはないだろう。


「少なくとも、今すぐルドニアへ軍を向ける状況ではない、と理解してよろしいですか?」


「あくまで私個人としての意見ではありますが、そう考えています」


「十分です」


「……十分、とは?」


「我々もルドニアに侵攻しない確約までは難しいと考えています。ドラグナール帝国の現在の方針が確認できれば、それで十分なのです」


「そうですか……」


「では、我々からも情報を……最近になって北の交易品が変わりまして、このような高品質なインゴットが混ざるようになりました」


 ルーヴェン子爵は横に置いていた袋から一つのインゴットを取り出し、机の上に置く。


「……っ! これは……」


「鉄のインゴットらしいのですが、一見では鉄に見えないほどの純度の高さとなっています」


「そうですね……これがエルヴァリエルから?」


「はい。交易品の中にありました」


 遠目に見てもかなりの純度なのだろう。まず表面の輝きが違う。不純物を感じさせない均一な光沢を放っている。

 ルミディア伯は口を手で軽く覆っていたが、唇の動きが読めた。『——れ、は、ま、ず、い……』

 『これはまずい』だろうな。


「実物を見ていただいた方が話が早いでしょう。必要であれば参考品としてお預けできます」


「……それはお断りします」


 驚いたような表情を浮かべるルーヴェン子爵に目線を合わせてはっきりと断る。


「これはドラグナール帝国の者に渡してはいけません。今の皇帝には……刺激が強すぎる……」


 ルミディア伯はこちらを見て、強い口調で釘を刺す。


「ラウル・ディアス。我らは質の良い鉱石について実物の確証に至る物は見ていないし、情報は何も聞いていない。いいな?」


「……承知いたしました」


 外交上の建前が共有された。つまり皇帝への報告では、この件に触れるなということだ。他に報告できることがあるのであれば主人にも報告しない方がよいだろう。

 ルミディア伯の声に出さなかったあの呟き。この情報を流せばドゥルガルドの時と同じで、すぐに奪うことにつながるかもしれない。

 しかも今はヴァルカディアン軍が北方にいる。もし、この情報をヴァルカディアンも得ているとしたら……?

 ぞくっと身震いが走る。それはないと、言い切れない。


「わかりました。この件は持ち帰り、販売先についても再検討します」


「……それがいいでしょう」


 ルーヴェン子爵がインゴットを仕舞うのを見て、ルミディア伯は息を吐き体の力を抜く。


「では、本命の情報ですが……このインゴットが交易に乗り始めた頃にエルヴァリエルの交易担当の者が変わったのです」


 人の商会であれば代替わりすることなど珍しくもない。だが、エルヴァリエルは寿命の長いエルフの国だ。実際ここ百年ほど担当者は同じだったらしい。


「まだ老齢期にも入っていなかったそうなので、なぜ急に担当者が変わったのか不思議だったようです」


「急な担当者の変更と交易品の変更が同時……」


 それ自体はあり得ないことではない。

 ただ、このインゴットに関しては違う。エルフの森には鉱山もなければ鍛冶技術もないはずだ。これほどの高品質なインゴットを作り上げること自体が考えられない。


「しかもその担当者は、これまでの担当者のような閉鎖的な考え方ではなく、外の交易をもっと広げたいようでして」


 それはつまり……


「エルヴァリエルの交易担当者に接触することができれば、交易を開始することが可能かもしれません」


 それは魅力的な情報だ。だが、ルミディア伯の表情は冴えない。


「……先ほども申した通り、交易を開いたとして、あのようなインゴットが出回るとどこまで影響が出るか……」


 あれが手に入る。

 そうであれば皇帝だけでなく、間違いなくヴァルカディアンも動く。

 そこまで考えたところでルミディア伯の声が漏れ聞こえる。


「あの品質は……鉄そのものではなく、製法に価値がある……」


 確かに……あの品質を再現できる技術そのものを手に入れれば、いくらでも作れる。ドゥルガルドの施設同様、またそれぞれの思惑が動きそうな情報だ。ルミディア伯の表情を見ても、この情報も広めない方がよい情報なのだろう。

 だが、同席して情報を得るよう命令が出ている以上、どのような情報がもたらされたかは報告しなければいけない。この情報を報告したら、エルヴァリエルの交易担当との接触を、望まれるのであろうな。

 先行きの怪しさに深いため息が漏れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。