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強欲のダンジョンの作り方  作者: 夢兎
地下農業迷宮

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第7話 宝石商1

「こんにちはー!」


 ベルグリム鉱山村に唯一ある食堂、銀鶴亭の扉を開き挨拶が食堂内に響くように明るく声を張る。


「いらっしゃい……ってルカスじゃないか。もう行商の時期だったっけね」


「はい。また三日ほど場所をお借りしてもよろしいでしょうか?」


「いつもの場所を使っておくれ。こんな辺鄙な村までありがとうね」


 行商人のルカスは十年ほど前からこのベルグリム鉱山村を巡っている。いつも通りにこにこと人好きのする笑顔を心掛けながら場所を拝借する了承を得て、手慣れた様子で商品を並べていく。


 いつもなら行商が来るのを楽しみに待っている村民が商品を並べている様子を見つつ商売が始まるのを待つのだが、今日はなんだか村の様子が違った。


「こんな鉱山を畑にしようだなんて、領主様は本気なのか?」


「岩山に生える野菜など、考えられないけどね」


 ルカスの行商など目に入らないかのようにそこかしこで集まってなにやら不満げに話をしている。

 ルカスは給仕の手が空いたマルタに話しかける。


「マルタさん。みなさんお忙しそうですけど、何かあったのですか?」


「ああ、先日辺境伯様からお触れが出てね。ただお触れの内容がどうにもよくわからなくてみんな戸惑っているんだよ。ベルグリム鉱山を鉱山としてでなく畑にするなんて言い出して……」


「そうなんだよ。鉱山村が農村になるなんて話聞いたことないぞ」


「……私もいろいろな村をまわっていますが、そんな話は初めて聞きますね」


 様々な村の情報を持つ行商人であっても荒唐無稽に感じる内容なのだ。当人となる村人たちは簡単に受け入れられないお触れだろう。


「村人達はそのままその畑で働いてもらうったってね。今までと全く違う仕事だろう? 成功するのかってところも相まってみんな不安なんだよ」


 領主が決めた以上、反発したところで村を追い出されて終わりだ。

 鉱山の採掘量が減ってきてずっと苦境の中で暮らしてきた村人だ。他の土地を求めて移動する財力は残っていないだろう。


「その畑に変わる時期はいつなんです?」


「いつっていうのはまだ決まってないようでね。ただ畑に変わることは確定らしいよ」


 聞きだした情報をいくつか合わせていくと時期は未定だが鉱山が畑になる。畑になるまでは採掘が続けられて、畑への移行期間中は領主が生活を保障するらしい。村人はそのまま残り、畑の作業に従事することになる。

 これは売りものも変わってくるかもしれないな。


「村にいた鍛冶師たちはどうするのです? 鉱石が取れないのでは仕事がなくなるのでは?」


「農具を作ることになるそうだよ」


 ああ、確かに農具も鍛冶師の仕事ではありますね。


「採掘は危険と隣り合わせの作業だから、危険なことから遠ざかることはいいことなのかもしれないけどねぇ」


「本当に畑として成立するのかが問題だよな」


「つるはしも通らないような岩盤に根っこが生えるもんかねぇ?」


 ふむ、最初はびっくりする内容でしたが、これは結果がとても気になる情報ですね。次に来た時にどうなっているのか楽しみです。当人たちは大変そうですがね。



 昼食を終えて眠たさを紛らわせていたところにノックの音が聞こえた。


「アルセラ様、奥様がお呼びです」


「クラリッサ様?」


「アルセラちゃん、宝石商がきたのよ。一緒に見ましょう」


 宝石商! わぁ、質素にしているとは言ってもさすがは貴族ね。


「ダンジョンのために宝石がいくつか必要なのでしょう? この支払いは国がするから欲しいものを選んでいいわよ」


 なるほど、ダンジョンのために手配してくれたのね。では遠慮なく選ばせてもらいましょう。クズ宝石は精製でもなんとかなるだろうけど、ちょっと特殊なのが欲しいのよね。


「ふふふ、うちには娘がいないから一緒に選ぶ子がいるっていうのは新鮮ね」


 そのうちにお嫁さんがきて一緒に選んでくれると思いますよ?


 ただ珍しいエルフだとわかると話題としてあちこちに広がるかもしれない、とのことで髪型を工夫して耳を隠すことになった。

 普段はしない髪を左右に分ける髪型だから、なんだか気恥ずかしいわ……



 クラリッサ様に続いてサロンへ入ると机の上に布がかけられて、色とりどりのアクセサリーが並べられている。

 うわぁ……さすがにこれだけ並ぶとキラキラと眩しいわ……


「お目にかかれて光栄にございます、クラリッサ様。ルミナリア王国より参りましたルミーユ商会のエリオット・ヴェルミーユにございます」


 挨拶を一度区切って美しい礼をする。貴族の扱いに手慣れているみたいね。そうでなければ呼ばれないか。


「ささやかな品ではございますが、ルミナリアの光をおとどけできればと思い、いくつかお持ちいたしました」


「遠路はるばるお越しいただきありがとうございます。ルミナリアの宝石は評判をよく耳にしております。ぜひ拝見させていただきますわ」


 そこで一旦間が開いて、クラリッサ様は少し困ったような顔をする。


「ただバルディウス家では上位貴族的な大胆なお買い物はできませんの。わざわざお越しいただいたのに申し訳ないのですが……」


「いえ、その代わりお気に入りの一点をお手にとっていただき、長く愛用していただければルミナリアの光も喜んで輝くことでしょう」


 さすがは商人。切り返しもうまいわね。あら?あれは……


「お嬢様、そちらは残念ながら売り物ではないのです」


 売り物ではないのに並んでいるの? まぁ、売らない方がいいけど……


「少々いわくつきの品でございまして。お気に入りのものが見つからなくて退屈なされた時にお見せしている一品なのです」


「よかったわ。あまりよくない魔力がこもっていたから売り物には向かないと思って気になっただけよ」


 見た目はすごく綺麗なのだけどね。これを身に着けていたら体調が悪くなると思うわ。

 しかしさすがルミナリアの宝石ね。どれも純度が高くて魔力効率の良いものばかりだわ。でも、あたしが今回欲しいのはこういう綺麗に整ったものではないのよね。

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