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強欲のダンジョンの作り方  作者: 夢兎
ドラグナール帝国

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第67話 クラリッサの慰問2

 クラリッサは奥へと移動しながら作業をしている村人たちに話を聞いていく。

 どうやら村人たちは条約が結ばれて完全に終戦したと知らせが来て外に出るまで、村の中で戦いがあったことに一切気がつかなかったらしい。

 だからなのか恐怖心や緊張感が続いていて体調を崩すなどということもなく、普段通りに過ごせている。


「外の戦闘は激しかったのよね?」


「戦闘ですから……それなりに怒号も飛び交いますし、金属音はかなり響いていました」


 撤退してから条約が結ばれるまでの間に動けない重傷者や死体を麓まで運びだしていて、それらを見ていないのも大きいだろう。あれは見慣れていないものには刺激が強すぎる。



 六階にまで降りてくると階段前にはカイルが待っていた。


「奥様、お時間をいただけるようでしたらご案内したい場所がございます」


「ええ、お願いするわ」


 カイルが先に立ち、それにクラリッサと騎士団長が続く。

 果樹園の横を通り抜け、少し開けた先に広がる森の前ではトビアスが頭を下げそのまま通してくれる。

 少し歩くと小さな離れのような家が建っていた。カイルは軽くノックをしてから扉を開け放ちクラリッサを中へと通す。


「クラリッサ様! お久しぶりです!」


 扉の前ではアルセラが笑顔でクラリッサを出迎える。

 クラリッサはそんなアルセラの姿を見て、すぐさま駆け寄りぎゅっと抱き寄せる。


「アルセラちゃん。様子を見に行って攻撃されたと聞いたわ。本当に怪我はないのね?」


「はい。トビアスとカイルが守ってくれましたから」


 そう言いながらアルセラはカイルを横目で睨む。カイルはその視線に気がついても知らないふりをしている。

 カイルの仕業ね? もう、そういうことまで報告しなくてもいいのに!

 クラリッサ様を大丈夫だと落ち着かせ、椅子に座るように勧めるとミアがお茶を準備してくれた。


「移動してくると暑かったり、涼しかったりするのだけど、建物の中は心地よいわね」


 建物の中は過ごしやすい気温で一定に保っていますからね。


「村人たちもこのまま畑に住みたいと言っている人がほとんどなのだけど、そのまま住むことは可能なのかしら?」


「住んでいただくことは可能です」


 辺境伯様のお考えもあるでしょうから、許可はとっていただかないとですけど。ここ、一応王立の施設ですからね。わりと好き勝手にしてるけど。


「それはもちろん。私からエルドリック様に確認するわ」


 他にもクラリッサ様から、今回畑に避難してきて今後も畑の作業をやってみたい人が増えたこと。笹竹の細工が思いのほか村人たちに受けたようでいろいろと作られていることなど、ずっとここにいるあたしより詳しく状況を教えてくれた。

 へぇ、そんなことになっていたのね。



「あ、あの……クラリッサ様」


 クラリッサ様の話を一通り聞いて、気になっていたことを思い切って聞くことにした。


「今回の犠牲者は……どれくらい、だったのでしょう?」


 聞くのは怖い。でも聞かないといけない気がした。

 目を合わせられず、うつむいてしまう。


「……700人ほどと、聞いています」


「700——……」


 そんなにたくさんの騎士様が犠牲になった……あたしのせいで……


「アルセラちゃん?」


 あたしがここにいなければ

 あたしがあの時マティアス様の提案にのらなければ

 あたしがあの選択を選ばなければ


 なかったはずの犠牲……


「アルセラちゃん、何を一人で抱え込もうとしているの?」


「……え?」


「700人……いえ、もっとたくさんね。騎士たちがあなた一人のために動くと思っているの?」


 ……そんなことはないと、思うけど……


「でもあたしが関わったから……」


「ええ、関わったわね」


 だから……


「でもアルセラちゃんを求めたのは辺境伯であるエルドリック様……いえ、アルセラちゃんの場合はもっと上ね。ドゥルガルド王国だわ」


 そう、だけど……


「なぜあなたが国の責任まで一人で負うの?」


 国の責任……


「決定したことに責務を負うのは為政者の仕事。それを奪うのは、傲慢だわ」


 言葉を失う。

 上に立つ立場から見れば、確かにそうと納得してしまったから……


 クラリッサ様の気配が隣に移り、頭を抱き込まれる。


「ねぇ、アルセラちゃん。ドゥルガルド王国はね、アルセラちゃんがいなくてもいつかドラグナール帝国に攻め込まれていたの」


 ゆっくりと言葉が頭から降ってくる。


「今回の犠牲が七百人だけで済んだのは、アルセラちゃんのおかげなのよ」


 ……あたしの?


「戦争ってね、戦っている間だけ人が死ぬわけではないわ。重傷者が多ければその傷が元で死ぬ人が結構な数いるの」


 ポーションで傷を塞ぐことはできる。だけど従来のポーションでは体力を奪うためにそのまま亡くなることも多いらしい。


「でもアルセラちゃんのポーションは体力を回復してくれる」


 そのおかげで命さえ助かっていれば大半がすぐに戦線復帰が可能となり、少数での攻撃でも勢いを失うことなく戦線を保つことが可能だった。

 これはそばにいた騎士団長からの追加情報だ。


「アルセラちゃんがいなかったら、犠牲は1000人を超えていたでしょうね」


 ここを占拠されず、すぐに撤退になったことも大きい。ここを占拠されていれば、足掛かりにしてさらに城下町に攻め込まれていただろうという。

 それはそう。国防のためにと鍛冶場まで作ったのはあたしだもの。食料の補充も武具の補充もできるとなったら、止まらないだろう。


「今回の戦いで一般人の犠牲は全くないの。これは全てアルセラちゃんのおかげだわ」


 通常、町や村へ攻め込まれたら犠牲者は少なからず出る。

 唯一攻め込まれたベルグリム村の住民は全て地下畑に避難させた。だから地下畑への侵入を許さなかったことで犠牲は出なかった。


「ねぇ、アルセラちゃん。まだ出ていく理由を探す?」


 ……ばれてる……


「管理の後継が欲しいならレオンハルトを寄こしましょう。これはバルディウスのためにもなるから問題ないわ」


 思わず顔を上げる。

 そこには穏やかな笑みを浮かべたクラリッサ様がいた。


「アルセラちゃんが上に立つ必要はない」


 ゆっくりと体を離して正面から向き合う。

 クラリッサ様の表情は穏やかな笑みだけど、目はとても強い意志を感じる。それは上に立つ者の目。


「自由に生きなさい」


 認められた。


 そう思った瞬間、涙が込み上げてきて止まらなくなった。クラリッサ様にしがみついて子供のように泣きじゃくる。


 ここにたどり着いてよかった。

 心からそう思った。

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