↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強欲のダンジョンの作り方  作者: 夢兎
ドラグナール帝国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
63/125

第63話 条約締結後1

 調印後、ヴァルデリウス王は執務室で書記官からの報告を聞いていた。


「……以上をもって、条約は正式に締結されました」


 締結された条文と関連する報告書が置かれ、書記官は一礼をして静かに退室していく。


 執務室には王とレオナルトだけが残り、張り詰めた静寂が満ちる。


「終わったな」


「はい」


「長かったな」


「四日です。ですが、休憩以外ほぼ議論し通しでしたから」


「……そうか」


 王は息を吐き出し、椅子に深くもたれる。


「もっと長く感じたが……」


「同感です」


 執務室に張り詰めていた空気がほんの少しだけ緩む。


「よくまとまったものだ」


 提出された条文を手に取り改めて読む。何度読んでもよくまとまっている。それもドゥルガルドに有利な条件で。


「ええ。整っています」


「ああ、整いすぎている」


「……はい」


「我々にとっては悪くない。この条文でヴァルカディアンの行動は縛られる」


「ええ」


 王にもレオナルトにも笑みはない。言葉を並べることで淡々と状況を整理していく。


「だが——」


 条文を机に戻し、窓の外を見る。

 その窓の方向にあるのはドラグナール帝国。今回の条文ができるきっかけとなった国。


「それだけで終わるとは思えんな」


「あの領主ですから」


「次は何をしてくるのか」


「している、かもしれません」


「……見えんな」


 王の視線は窓の外を見たまま。ただ思いついたままに言葉にしていく。


「はい」


 執務室に沈黙が落ちる。


「ならば」


 再び椅子に深くもたれレオナルトを見る。


「しばらくはこのままでいい」


「ええ」


「動く必要がない」


「はい」


「……珍しく、何もすることがないな」


 ここのところずっと忙しかった。

 先も見えず、ただ起こることに対処していくだけの日々。


 それが、終わった。


「そう見えるだけです」


「そうか」


 王の表情に笑みが戻る。


「……休めると思いますか? そのうちアルセラ嬢が何か持ってきます」


 レオナルトの言葉に王の表情が固まる。


「……そう、だったな……まさか回復薬まで規格外だとは……」


「助かりましたが、悩ましいですね」


 そう、いつも彼女には助けられる。だがその助けに報いるために何ができるか。

 たしかに戦いが終わったはずなのに二人の悩みは深まるばかりだった。




 バルディウス辺境伯の執務室に条約締結の知らせと条文の写しが届けられた。

 エルドリックは条文を一通り読み終えて紙を置く。


「……なるほど」


「いかがなさいますか」


 エルドリックは言葉にする前にもう一度条文を頭に浮かべる。


「何もしない」


 バルディウスでは元々城と砦の警備に騎士を置くだけで、他の騎士たちは領内に散らばっている。有事の際には集まるが、普段は五百から千程度の軍となっている。これを大規模とは言わないだろう。


「ですが、緩衝地帯の警備はいかがいたしましょう?」


「バルディウスの仕事ではない」


 条文の関連項目を指し示す。


「そうなったと書いてある」


 条文に『緩衝地帯における兵力の展開を禁ずる』とはっきり書かれている以上は兵に関連することにバルディウスの名は残せない。


「では、現行の配置はいかがいたしましょうか」


「全て解く」


「民間名義の部隊をですか」


「あれは現行の契約のままでは説明がつかない」


 民間の名義にするために間に挟んでいるが、辿れば雇用はバルディウスだとはっきりとわかる。

 それでは査察がきたときに説明を求められても答えられない。そうなれば条約違反を黙認したとして責任を追及されるだろう。


「査察がきて答えられないものは置かない」


「それでは緩衝地帯の治安が乱れます」


「だとしても、バルディウスが関われるのは関門の内側だけだ」


「緩衝地帯は自治に任せる、と」


「元々そうだったものを戻すだけだ」


「ヴァルカディアンは動かぬのでは?」


 すぐに返ってきていた返答が止まる。


「動かなくていい」


 同じような民間組織があって放置されればそれはヴァルカディアンの条約違反となる。こちらが引いたことにより動けばそれもまた条約違反となる。

 バルディウスが関与していない民間の警備がドラグナール帝国と関わりがないのであればそれが自浄作用として働くことになる。

 なんら問題はない。


 すべてが条約により整理されている。


「承知いたしました。手配を進めます」


 セドリックが執務室から出ていくのを見送り、エルドリックは再び条文を見る。


「よく出来ている」


 小さく呟く。

 これで緩衝地帯は完全な不干渉地帯となる。

 バルディウスとヴァルカディアンの間にある緩衝地帯は広い。歴史の中では突如占拠されて領土問題として戦争に発展したこともある。

 『一定距離内への大規模兵力の配置を制限する』この一文は大きい。たとえ緩衝地帯を占拠するのだとしても、近づく前に軍の集結を察知することができるため、即座に対処へ動くことが可能となる。

 さらに査察が間にいることで先に動いたのはどちらか。確実に証言がとれる。


 やるべきことを細かく考えれば、今まで民間で雇っていた者たちの雇用がなくなるわけで、希望者には何かしら斡旋をしてやらねばならないだろう。

 砦や城内の雇用を拡大して、騎士ではないが、いざという時には戦える者を増やすか……

 それに査察がいるとはいえ、今回のように遠くで集結して力で押されれば通ってしまう。通ってしまえば条約違反だと言っている場合ではない。それは懸念として残しておかなければならない。


「何もしないことが、一番難しい」


 バルディウスは攻め入られたばかりだ。『警備を厚く、対抗し得る力を』という声は大きい。だが、今回の条約によってバルディウスも縛られる。現状維持の選択しかない。

 不満となりそうな芽をどのように処理していくべきか。

 一人、深いため息をこぼした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。