第53話 ベルグリム戦3
斥候からの報告の通り、道中はまったく人の気配もなくベルグリム村に到着した。
村は地図で見るよりもさらに狭く感じる。ここに向かう途中の道中で壁を作らせるために三回にわけて300人ほど配置して人数を減らしてきたが、村には500人も展開できるほどの広さはなかった。これではここで戦闘になったら動きが制限されてしまうかもしれない。
とりあえず兵を村の隅々まで分散させ、山道の方にも張り出すようにして戦えるだけの余裕は確保できるようにしていく。それでも同士討ちしそうな近さではある。
「少し麓に帰すか?」
「そうですね。さすがにこれは想定外です」
多くの兵がいても満足に動けないようであれば意味がない。道中の壁になっている兵と入れ替わるように命じて半分ほどの兵を麓に帰すことにした。
そんなことがのんびりできるのも村に人の気配がないからだ。
そう、村にある山の前にいるはずの騎士の気配すらなかった。
「騎士が見当たらないな」
「中にいるとしても、ここまで騒いでいて出てこないのはおかしいですね」
警戒しながら山に作られた立派な門構えに近づくと何かを引きずった跡があった。血がところどころについているところを見ると死体でも引きずったのだろう。跡を追いかけていくと入口付近にある詰め所のような場所に騎士の死体が五人分転がっていた。
「……全員、息がありません」
傷を見る限りでは戦ってできたというよりは不意打ちで討たれたようだ。全員首を掻き切られている。
「斥候の報告では騎士が巡回していたと言っていたな? つまり、その時までは生きていたはずだ」
「はい、そして我々が山道を押さえています」
そう。麓から上がってきている以上、誰も山道を抜けてないはずなのだ。
ハーゲンは周囲を警戒しているが当然、村には配下の兵以外の気配はない。
そもそも先ほどまで動きが阻害されるのを懸念するほどに密集していたのだ。隠れる場所などないはずだ。
「……すでに中に入ったか……」
「……罠という可能性は捨てきれません」
バルドリックは様々な可能性を思案する。だが生来の性格もあり一つの結論しか出ない。
「だが引くほどの理由じゃない」
ここは戦場で、今回は目の前にある施設の占拠が目的なのだ。
「騎士も騎士を倒した者もいないのであれば目の前の施設を占拠するだけだ」
「……承知しています」
「いくぞ」
入口前の広場で待機していた兵を三つに分けて突入させる。
だが、たやすく通り抜けられると思った矢先、壁に飾られた花から棒が飛び出してきて進路を塞がれた。
「……んなっ!」
「これは……」
とりあえず斬りつけてみるが斬れる気配はない。金属音を響かせて弾かれるだけだった。
「……ヴァルカディアンの情報ではドワーフが関与しているんだったか……」
「ではこれはドワーフの技術で作られたものですか?」
「そうだろうな……」
「それはまた……」
目的の達成を目の前にして中に入れそうにもない状況に頭を悩ませる。
とりあえず兵たちにも斬れるか何度か試させるがどんな腕自慢でも傷ひとつ付けられず、金属音だけがむなしく響いた。
トビアスはアルセラの元に向かうべく走っていた。それというのも攻めてきていた者たちが引く前に『ドラッケンがきた』と言っていたからだ。
好奇心旺盛なアルセラ様のことだ。また壁が作動したことに気がついたら見に来ると言い出しかねない。
だがそれも杞憂に終わる。
麦畑に到着すると困惑した表情で見えないアルセラ様を撫で続けるカイルの姿があった。
走るのをやめ歩いて近づいていくとカイルが気がつきゆっくりと首を左右に振る。カイルの横につき、しばらくするとアルセラ様の姿が見えるようになった。
そっと顔を覗いてみるとどうやら泣き疲れて眠ったようだ。
「……ずっと……自分のせいだと責めていました」
「そうか……」
そんなことはないと、そう伝えたところでアルセラ様は受け取らないだろう。
こうなる可能性を込みでアルセラ様の技術を利用すると決めたのは国と辺境伯様だ。わかっていたからこその護衛と情報統制だったのだが……
「一体、どこからアルセラ様の情報が洩れたのだろうな……?」
ここで考えていても答えの出ない疑問だ。とりあえずアルセラ様を部屋に戻して楽な姿勢にさせてやるべきだろう。
「ミアさんを呼んでくる。カイルは先にアルセラ様を部屋まで運んでくれ」
「はい」
トビアスは二階層の休憩所に向かって再び走っていくことになった。
『アルセラ様の介抱をお願いしたい』
そう聞かされてミアは慌ててアルセラの部屋に戻ってきていた。ベッドに寝かされているアルセラの顔を見てほっとする。
布を水に濡らして泣きはらした顔を綺麗にして目元を冷やしていく。
アルゴで移動しながら聞いた状況では、自分が狙われたことで騎士様たちが倒れたことにショックを受けたとのことだったが、ここまで憔悴したアルセラ様を見るのは初めてだ。
自分のやりたいことをやっているだけと言いつつ、誰かのためになることを色々と考えていたアルセラ様のことだ。自分が原因で誰かが傷つくのは耐えがたいことだったのだろう。
「どんな形であれ、アルセラ様を傷つけるのは許せない」
きっとこれからもアルセラ様は狙われる。その度に傷ついて、また泣くのだろう。
そんなことが容易に考えられるだけに、守るためにはどうしたらいいのか、自分に何ができるのか?
思案を深めながらアルセラの介抱を続けるミアだった。




