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強欲のダンジョンの作り方  作者: 夢兎
ドラグナール帝国

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第50話 次の戦いへ

 夜明け前にバルディウス関門を出た一行は太陽が中天に差し掛かった頃に辺境伯の城まで戻ってきていた。

 夜襲の間、執拗にいたぶられた騎士たちは肉体的にも精神的にも疲れ切っていた。帰り着いた安堵からか大半が座り込んでしまう。

 城で待機していた騎士に介抱を任せ、隊長格は辺境伯の元へと報告に向かった。


「よく無事で帰ってきてくれた」


「バルディウス関門を放棄。司令官をはじめ強く希望する者10名が残りました」


「そうか……」


「こちらは辺境伯様へ届けるようにと司令官より預かりましたポーションです」


 おもむろに差し出されたポーションを受け取る。中を見てみると全てアルセラが作成したポーションだった。


「新たに入ってきたポーションだな。もしかして効果がなくて使えなかったのか?」


「逆です。効果がよすぎて敵に渡せないから持ち帰るように、と」


「……あぁ、またそのパターンか……」


 つぶやきを拾って「また?」と不思議そうにしているが、こちらはこちらで王に報告することが増えたと頭を悩ませる。いや、先に騎士たちの報告を聞かねば。


「ポーションは使用者の回復力を上げるために体力も使いますが、そのポーションですと怪我が治るだけでなく体力も回復します」


 ああ、確かにそれは敵に渡せないな。


「中級の札が付けられている黄色のポーションは自力で動けないほどの重傷を負っていてもすぐに動けるほどの効果がありました」


「……そうか……」


「辺境伯様?」


「いや、まだこれの報酬を払う前でよかったと思ってな……」


 確実に王とすり合わせが必要な案件だ……普通の上級ポーションと同じ額をと考えていたがとんでもない。ああ、これは後で考えることだな。


「まだ戦いは続く。このポーションは備品として騎士団長に届けてくれるか? その後は一旦体を休めろ」


「……はい」


 報告に来た隊長たちが揃って部屋を出ていく。援軍も追加の補給もなく大軍を相手にしていたのだ。目の前で多くの者が犠牲になったのだろう。表情はみな厳しく暗く沈んでいた。


「みんな……よく耐えてくれた……」


 不甲斐ない領主で申し訳ないと思う。だがそれは決して口にしてはいけないことだ。弱音を出せば支えてくれた全てを否定することになる。だから全ての結果をただ飲み込む。


「次はおそらく……ベルグリムだろうな」


 窓からベルグリム村の方向を見る。

 騎士たちも中に避難していてくれると良いが、おそらく外の巡回に残るであろう。たかが5人で軍を相手取れるはずもない。


 次の作戦は共倒れるか、将をとれるか。全て騎士団長以下の精鋭にかかっている。上手くいくといいが……



 アルドレウスはバルディウス関門の司令室から次の指示を出していた。


「迎えは出ているな?」


「はい、夜に戻る予定となっております」


 鷹揚に頷く。アルドレウスにとって砦戦など遊びでしかない。兵力差を考えると取り戻しにもこないだろう。


「ベルグリムを片づけたら撤退になる」


「はっ。交代で休ませます」


 部下が出ていくとそこには獰猛な笑みを浮かべたアルドレウスだけが残った。




「よーし、お前ら! 目的地は山の中だ。気張っていくぞ!」


「大将〜その言い方が気が抜けるっす~」


「もうちょっと盛り上がる訓示はないんですか〜?」


「あー! 毎度うるさいっ! もうお前ら何も言わずに黙って俺についてこい!」


 ドラッケン陣営では恒例の大将いじりで盛り上がりを見せる。

 いじられるバルドリックは悪態をついてみせるが笑顔で接している。真面目に重苦しく出立するのはどこか性に合わないと感じているからこの空気は割と気に入っていた。


「はいはい、大将。斥候より先に行かないでくださいよ」


「後続を置いていったら意味ないですからね。のんびりと来てください」


「せっかちすぎると女の子に嫌われますよ」


「すぐに追いつくから早く行けっ!」


 軽口を交えて追い抜き走る斥候を手で振り払うようにして送り出す。


「毎度締まりのない出立ですね」


 ため息混じりにハーゲンが零す。


「こんなんでも結果は出す連中だ。楽しくやれるならそのほうがいいだろ?」


「戦争は楽しむものではないと何度言えばわかるのです?」


「ははは、それを俺に言うのが間違ってるといいかげん気づけ」


「承知しております」


 そんなこんなでドラッケン軍五千が賑やかにバルドリック関門を出てベルグリム村へと進軍を開始した。



 その後ろからは輜重隊としてカルヴァス軍3000が静かに続く。


「全く……ドラッケンにつくと作戦も何もあったものじゃない」


 カルヴァス当主のサルクはカルヴァス軍後方からドラッケンに追従していたが、後方にいるこちらにまでドラッケン軍の笑い声が聞こえてくる。


「距離をとれ。逆に士気が下がる」


「了解しました」


 あれだけ騒いでいれば少し距離をとったところで変わりはしないが、すぐ後ろをついて歩くよりは多少マシであろうと深くため息をつくサルクだった。



 バルディウス辺境伯の城では動き出した軍の情報が伝えられていた。


「騎士団長! 斥候から連絡が入りました!」


「砦を出たか……」


「ドラッケン5000、カルヴァス3000とのことです」


「騎士たちの準備は?」


「いつでもいけます!」


「一時間後に出る」


 騎士団長の指示を受け取って若い騎士は伝達のために出ていく。

 砦が攻められているときから援軍に行きたくても行けずに堪えていた騎士たちだ。今すぐでも出撃と言えば出られるだろう。だがそういう時だからこそ少し時間を置いて落ち着かせなければいけない。


 辺境伯様の元に向かい、一時間後に出立する旨を伝える。


「わかった。騎士たちを頼んだぞ」


「はっ!」


 辺境伯様の手には薄手ではあるが皮の手袋がつけられている。度々手を握りしめては掌を傷つけてしまうためにつけるようになったものだ。辺境伯様自身が決めた作戦とはいえ犠牲を出すのは辛いのだろう。

 できる限り犠牲になる者が少なくなるように悩みに悩んで出した作戦だ。必ず成功させて戻らなければならない。改めて心に覚悟を決め、出立のための最終準備にとりかかった。

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