第43話 各国の会議
「土人形が作業をしているという話だが完全に自立して動いているのかどうかは不明だ」
早速痛いところをついてきた。確かに土人形が働いていることは掴んでいるが、畑を直接見て情報を集めることはできず、どの程度自分で判断できるのかは全く情報がない。
「成長速度に関してもそうだ。本当に一月経たずにその施設内で育てて収穫したものなのか?」
こちらはややこじつけレベルの反論だから無視でいい。
「その成長速度を保つための管理はどうなっている? ここの詳細は全くわかっていないだろう」
また痛いところをつく。そこはわからないが入手した後で調べればいいだろう。
「ここまで上げただけでも施設の構造が見えていない。これでは全て推測であり確定要素ではない」
「重要なのはその施設の生み出す価値です」
耐えきれずに反論を挟む。皇帝が価値のあるものだと思えば入手する。それがドラグナールだ。問題はないはずだ。
「価値など壊して元に戻せなければ無価値だ」
戦争で入手しようとする以上、攻撃した際に壊れないという保証は確かにない。戦争が起きれば農地は荒らされるのが常だ。それは外征を繰り返しているドラグナール貴族なら誰でも知っている事実。
「だからこそ守りを固められる前に奇襲に近い形で確保を……」
「確保できる前提が間違っている」
「確保が難しいと判ずる理由は?」
皇帝が深く踏み込んで聞く。どうやら皇帝の関心は得られているようだ。
「未確認ではあるが、ドワーフが関与している可能性が高い」
ただ聞くだけだった貴族がざわつく。ドワーフの技術は戦争が多いドラグナールにとっては手に入れたいものの一つだ。だが逆に攻め入るとなれば脅威となる。
セラディアではこの情報は掴んでいなかった。ヴァルカディアンはどこからこの情報を得ているのか……
「生育の早い施設にドワーフ。それが本当ならぜひとも入手したい」
「なおさら確保を狙うべきだろう」
「だから攻めちまえばいいんだって」
「ドラッケンは戦いたいだけだろう」
「やることは一緒だろ?」
それぞれ言いたいことを言ってざわつきが大きくなる。そこで皇帝から言葉が発せられると静かになっていく。
「結論を出す」
皇帝が静かに立ち上がる。
「放置はできん。侵攻の準備をせよ」
みな静かに頭を下げる。
よし、皇帝の許可はおりた。
「戦力は任せるが、壊すな」
「ならばヴァルカディアンは攻め入らず、バルディウス関門の占拠に専念させていただきます」
ヴァルカディアンは施設の確保には関わらないようだ。これはこちらにとっては都合がいい。
「攻め入った軍の責任とする。ルミディア、いつも通りだ」
「承知しました」
それだけ告げると皇帝は部屋を出ていった。
これ以上の情報を聞かないことで国としては知らぬこととして通す。これは大義名分のない侵攻を仕掛ける時に使うドラグナールの常套手段だ。
今回もドラグナールが一方的にドゥルガルドの施設を欲してるだけなのでドゥルガルドに非はない。国として攻め入れば国際問題となる。
結果はどのように理由をつけたところで国際問題にはなる。だからといってドラグナールを粛正できる戦力を持つ国はない。だからこそドラグナールは強気で侵攻する。
「じゃあ施設に仕掛けるのはドラッケンがもらうからな」
「砦から施設までの補給はカルヴァスが受け持つ」
グラディオンも最初は乗り気だったが、国としての侵攻でないことがわかってからは待機に回るようだ。もしもの時に皇帝の守りが薄くなるのを嫌ったのだろう。
ヴァルカディアンから出たドワーフ関与の情報は気になるが、これでドゥルガルド侵攻は整った。セラディアが関与できるのはここまでだ。あとは攻め入るドラッケンとカルヴァスに任せる形となる。
うまくいくといいが……
ドラグナールで開戦準備が進む中、ドゥルガルドでも会議が開かれていた。
「ドラグナール帝国の外交官から回答がきました」
宰相は難しい顔をして話を進める。
「国では関与していないことで調査中とのことです」
この回答はドゥルガルドでは全く信用していない。ドラグナール帝国の周辺国にとってドラグナール帝国が知らぬこととなった戦争などいくらでも見てきたからだ。
「攻めてくるでしょうな」
「だが、攻める気はないと言っている以上は大掛かりな戦闘準備は難しい」
「各自できるだけの準備はしておいてほしい」
ヴァルデリウス王は絞り出すような声で告げる。そう言うだけで精一杯なのは歯がゆい。だが、この時点でも準備は遅れている。
山に囲まれたドゥルガルド王国はたまにドラグナール帝国と小競り合いがある程度で戦争慣れしていない。ドラグナール帝国は過去にも『知らぬこと』を理由に小規模侵攻を行ってきたが、本格侵攻に発展した例は少なかった。
だからか、情報がもたらされても緊張感のある領はドラグナール帝国に接しているバルディウス辺境領だけでみな、のんびりとしている。
そのバルディウス辺境伯はいつ攻めてきても対応できるようにとこの場にはいない。それが余計に緊張感が膨らまない原因でもあるだろう。
いざ攻めてきた時に迎え打つ準備は非常に時間がかかることが推察され、王も宰相も頭の痛い問題だった。
ヴァルカディアンに動きあり。
その一報を受けてバルディウス辺境伯領では慌ただしく兵の準備が進められていた。だがそこに国から知らされたのは『ドラグナール帝国では預かり知らぬこと』らしい。
受け取った誰しもそんな内容は信じていないが、正式な外交からもたらされた情報だ。無視して大々的に兵を集めれば逆にこちらが叩かれる。仕方なく領内の正規騎士のみ招集して守りを固めていく。
バルディウス辺境伯領に常駐している騎士は3000人ほど。それが領内各地に散らばっている。
国として知らぬことが前提なら、他領からの援軍は望めない。ならば領内の騎士だけでなんとか食い止めなければいけない。
「どこまで粘れるか……」
ヴァルカディアンの過去の行軍を見ると、7000から10000の規模になると予測される。それを踏まえて騎士団とも作戦を立てるが正面からではどうにも勝ち筋は見えない。
「砦は……捨てる」
だが捨てるからといってそのまま通すわけにはいかない。かといって最初から捨てる作戦であることは現場には伝えられない。
戦争には犠牲はつきものだが、最初から犠牲を前提とした作戦を立てるのはなんともやるせないものだ。




