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強欲のダンジョンの作り方  作者: 夢兎
ドラグナール帝国

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第42話 ドラッケンの暴走

「ハーゲン、戦争するぞ!」


 訓練場に着くなり副官であるハーゲンにむかって叫ぶ。


「バルドリック様、先日ネタがないと言っていたばかりではないですか。どこと戦争しようって言うのです?」


「ドゥルガルドだ」


 突然出てきた隣国の名にハーゲンは顔をしかめつつも根気よく情報を引き出していく。


「何か動きがありましたか?」


「なんか兵糧の準備が早くなる施設を作ったらしい」


「それはまた……争奪戦ですか?」


「セラディアからの情報でカルヴァスが支援に入る」


 ふむ、とハーゲンはバルドリックから引き出した情報を整理する。協力者がいて一見、楽に進軍できるようにも思えるが、一点だけ懸念点があった。


「位置関係的にヴァルカディアンに阻まれそうですが、そちらの牽制は?」


「そんなもん、お上が一声出せば通るだろ」


「そうですかねぇ?」


 ハーゲンはバルドリックほど気軽に納得できなかった。

 ヴァルカディアンは狡猾だ。利が一致していなければ確実に潰されるだろう。ドゥルガルドに攻め入る利点がヴァルカディアンにもあれば良いのだが……


「とにかく準備するぞ」


「まだその一声も出ていませんよ」


「攻めることには変わらないだろ?」


 バルドリックは返事も待たずにひらひらと手を振りながら執務室へと戻っていく。これは諌めたところで聞かずに好きに進めるいつもの流れだ。

 ハーゲンはため息をつきつつ、兵たちに訓練続行の指示を出し、隊長たちには訓練後に集まるよう伝える。隊長たちもバルドリックの突拍子のない調子には慣れたもので快活な返事が返ってきた。


「多少は物資も集めておかないとですね」


 カルヴァスが支援をしてくれるとはいえ最低限のものは持たせなければいけないが、まだ皇帝の命令が出ていない以上いつ開戦になるかはわからない。まずは腐らない身の回り品から集めようと調達部門へと向かうのだった。




 セラディアでは頭を抱えるラウルの姿があった。


「どうしてドラッケンはもう軍の準備を始めているんだ?」


 カルヴァスからドラッケンへ話がいくであろうことは予測済みだ。

 だが、まだ皇帝に話すら通していないというのにドラッケンでは軍備が整えられている。これは完全に予想外の動きだ。またそれを隠そうともしないから情報を集めるものたちはどこを攻めるつもりなのかと探り合いが始まっていた。

 情報を操作しているセラディアとカルヴァスではどう対応するべきか頭を悩ませていた。悩んで対処したところで情報はドラッケンから出て行ってしまうのであまり意味はない。


「これはもうドラッケンの動きを諫める意味も込めて、軍の招集を咎める目的で緊急会議を開いてもらうしかなさそうですね」


 すでに情報を担当する者だけでなく各領主たちの耳にも入るほどだ。もともと奏上にあがるべく準備をしていたセラディアから領主議会の招集を願い出るとすぐに承認され、領主が王都に集まることとなった。




 ドラグナール王都の会議室には主要貴族である軍候貴族5家と内政貴族五家が勢ぞろいしていた。


 軍候貴族の中で最も勢力を保つのはヴァルカディアンで、ここ最近話題に上がるドゥルガルド王国に隣接する位置にある辺境伯を担っている。

 次に勢力があるのは皇帝の守りを固めるグラディオン侯爵だ。血統よりも皇帝に忠誠を誓う者たちで固められた軍となっている。

 軍候貴族の中でももっとも好戦的なのがドラッケン。戦争があるところにドラッケンありと言われるほどの戦争好きで有名だ。

 ドラッケンとは対照的に穏やかに中立を保つのがバルドレイン。軍は持っているが自領が絡む戦でなければ動かない。それくらいに徹底した中立を保っている。ただし皇帝から命令があれば即時に対応してみせるだけの力はある。

 最後の軍候貴族がカルヴァス。軍候貴族ではあるが新興貴族で恭順を示し、併呑された国の騎士団が残った形で形成された軍だ。立場も一番弱く、各軍の支援や補給をすることで戦闘に参加することが多い。


 内政貴族は財政を担うセラディア、外交を担うルミディア、法律を担うベルナート、裁判や宗教を担うアストリア、港の管理を担うフェルモンドとある。

 内政貴族は軍を持たず、フェルモンドを除いてみな王都で過ごすことが大半だが、総じて爵位は低い。それはドラグナール帝国が戦功により叙爵が決まるからだ。当然、軍を持つ貴族が権力を握ることとなる。


 貴族間では力関係ははっきりしているが、どの貴族も皇帝の命令には逆らえない。

 そんな皇帝が部屋に入室してくるとすべての領主が緊張した空気を漂わせる。


「始めよ」


 皇帝が短くも重く会議の開催を告げる。


「僭越ながら招集を依頼したセラディアが進行を務めさせていただきます」


 セラディアが席を立ち進行を務める宣言をする。


「ドラッケン伯で軍備が整えられているようですが、こちらは隣国の施設に関連してのことでしょうか?」


「おう、取りにいくんだろ?」


 言動の気軽さに苛立ちを覚えるがため息をついてやり過ごす。


「ものごとには順番というものがあります。叛意ありと攻め入られても文句言えませんよ」


「ちゃんと命令は待つさ。だけど準備は早い方がいい」


 どこが待っているのだ……

 心の中では文句を言いつつ表面では冷静を保ち、本来の目的である隣国の情報を上げていく。


「ドゥルガルド王国では制御された農業を行う施設が建設されたようです。これを入手したとすれば食料供給の概念が変わります」


「大げさではないか?」


「かの施設では土人形が働き、季節を問わない作物の収穫が確認されています。これだけでもただの農業とは言えません」


 詳しく情報を聞いたものたちは与えた情報をかみ砕いて考えている。


「それが本当であれば糧食の確保が変わりますね」


 グラディオンが食いついてきた。他の貴族も概ね賛成寄りの表情をしている。


「戦争でなくても食料が安定していれば国の運営も安定するものです」


「農作物の成長も早いと聞いたが?」


 カルヴァスが援護の追加情報を出してくる。


「最初の収穫は畑の情報を得てから一月経っていません」


 ほうっと感嘆の息が各所から漏れる。いい空気だ。


「ヴァルカディアンはどのようにみる」


 皇帝がここまで沈黙を保っているヴァルカディアンに振る。


「その情報はこちらでも掴んでいる。だが不確定な要素が多すぎる」


「ですが結果は揃っています」


「揃っているように見えるだけだ」


 発言力のあるヴァルカディアンの一言で空気が一変した。

 権力があるだけでなく、情報収集能力においても優秀であることはみな知っている。ここまででヴァルカディアンが何を掴んでいるのか全くわからなかったのは正直痛い。

 しかもここまでの発言を聞く限りヴァルカディアンは反対に回るようだ。どこまで空気を取り戻せるか。

 内心では冷や汗をかきながらも続きの意見をただ聞くことしかできなかった。

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