第40話 地下農業迷宮を取り巻く状況
グランダルとアルセラがガーゴイルの作成や調整をあれこれとやっている間も畑は普通に稼働しているわけで、野菜の育成は二周目に入っていた。
野菜の収穫も果物のように一週間ずつ何かしら採れるように育成を調整したおかげで、作業員が暇することもなく常に忙しく立ち回っている。収穫が順調になってからは女子供も作業に入るようになった。
最初は農作業に乗り気ではなかった元鉱夫たちも、収穫を重ねる毎に態度を軟化させ、地下畑ができて半年も経つと荒々しくも作業を率先してこなすようになっていく。
こうして収穫が安定してくると収穫物は領内だけでなく、国内各地へと行き渡るようになっていく。だがベルグリム村は国の端にある辺境のそのまた端に位置する。
そのため、運搬は先に作ったアルセラのマジックバッグが活用されていた。半量は時間遅延付きのマジックバッグへ入れて王都へ、残りはベルグリム村に卸市場が開かれて近隣の商人たちが仕入れにくるようになっていった。
おかげでベルグリム村はかつてないほどに活気溢れる村へと生まれ変わった。
風が吹けば崩れ落ちそうな石造りの家が並ぶ風景から一転して、中央は石畳の通路ができ、その両脇にはテント型の卸市場が並ぶ。その片隅には商人が泊まれる宿が建ち、唯一あった食堂の銀鶴亭も宿の隣に建て替えられ広くなった。
地下畑の前には広場ができ、季節の祭りなども企画されて賑わいを見せている。
そこまで人が集まるようになったことで役場や組合の各事務所も望まれたが、元は鉱山の麓に自然にできた小さい村だ。そういった行政の建物を建てる場所は確保できず、今まで通りバルディウスの城下町で管理することとなった。
また地下畑の中では水車小屋も稼働し始め、小麦そのままの状態だけでなく製粉技術もどんどん高められていく。
特にパン用の小麦は香りが良いと評判がよく、粉がとても細かく生地のまとまりが良いと紹介されてから各地より注文がくるようになるほどの人気ぶりだ。村にも焼き立てパンが食べられるお店が建ち、毎日行列を作っている。
王都では我が領にも地下農業迷宮をと騒がしい。
作ってもらえないのであれば技術の開示をと言うが、地下農業迷宮を正しく知る者にとっては、例えどんなものが必要かがわかっても仕組みなど理解できないだろうことを知っている。
そもそも詳しく説明を聞いてはいるのだが、半分も理解できない。だからどういうものなのかわかるようになんて説明できないものなのだ。開示などできるはずもない。
かといって王はアルセラをあちこちに派遣するつもりは一切ない。
すでに彼女の知識による恩恵は返せないほどに受けており、これ以上国のためだけに彼女を動かすべきではないと考えていた。
だいたい先のマジックバッグの件ですら『別に見返りを求めて作ったわけではない』と言い、『足りなければまだ作れるけど?』と呑気に言い放ったとか……バルディウス辺境伯の執事が全力で止めて、ことなきを得たと報告がきていた。
あんな機能のものがぽんぽんと生み出されては国内どころか世界バランスがぐらつく。
そしてそういうものを悪気なく、全て生活を便利にしようという善意で、しかも見返りなく生み出すのだ。欲深い他の領主に派遣しようものならすぐに使い潰すだろう。それだけは全力で阻止しなくてはいけない。
「陛下、ドラッケンが兵を召集しております」
国内の要求も騒がしい中、頭の痛い情報が入ってきた。
よりによってドラグナール帝国の中でも一番好戦的で、あちこちの戦場に現れては暴れることで有名だ。そんなドラッケンだからこそ、兵を集めているだけではこの先の動きが読めない。
「兵力は小規模なので演習とも判断できますが、物資の集め方が演習規模ではありません」
どこに向かうのか。なんの目的なのか。
全く確証がないが故に動けないな。これは。
すぐ隣のヴァルカディアンであればすぐにでも同規模の兵を集めて演習で送るのだが……
「ヴァルカディアンには動きはないな?」
「ありません」
早くから畑の情報を入手していたわりには静かだ。もっと早い段階で仕掛けてくるかもしれないと、警戒はしていたのだが。
「今年の辺境演習をバルディウスに変更」
「承知いたしました」
まだ攻めてくるとは言い難い。だが何かしら理由をつけて兵は集めておくべきだろう。
杞憂であれば良いがな。
一方のヴァルカディアンでは静かに報告が寄せられていた。
「閣下、ベルグリムの続報が集まりました」
無言で先を促す。
「情報をそのまま伝えます」
『畑創造の鍵は耳長
鍛冶場に小人あり
土人形は命令必要
密な報告無理』
ほぅ……なかなか優秀な情報だな。
土人形が何かはわからんが、畑をつくるエルフとドワーフか。入手できれば使えるな。
「信用のある報告だろうな?」
「ヴァルケンですので裏切る力はありません」
ああ、遠縁だとかで転がりこんできた孤児か。ひ弱で特技もなさそうな子供だからと諜報に鍛えさせたのだったな。
「まだ使えるな?」
「問題ありません」
「急ぐ必要はない。だが確実に回収しろ」
ここまで核心に迫るほど中央に潜り込むとはとんだ拾い物だな。さて、鍵をどう入手するか。
確かセラディアがカルヴァスと接触をはかっていたのだったな。同じような情報を仕入れているとするならば勝手に戦争になるだろう。そうなれば地理的に動くのはヴァルカディアンだ。
「わざわざこちらの狙いを教えてやる必要はないな」
積極的に動けばどうしたって情報は洩れるものだ。今は入手できる情報を積み重ねつつ、機が熟すのを大人しく待つとするか。




