第39話 ガーゴイル2
素材部屋の半分はすっかり騎士たちの訓練所と化した。どうやら地下畑勤務になってから訓練ができていなかったから体を動かしたかったようだ。
おかげで基本の型から回避など、初心者にもわかりやすく動きのデータを揃えることができたわ。あとは相手の動きに合わせてどう判断するかね。
ちなみにあたしはずっと姿を消した状態でデータを収集している。姿を見せたとしても騎士様なのだから情報を洩らすことなどなさそうなのだけど、知っている人をできるだけ絞りたいらしい。
ただ姿を消す魔術を披露してからは姿を消した状態なら好きなように歩き回ってよくなった。おかげで気候とかミツバチの動きとか直接見て感じて調整ができている。
「おい、エルフ。ミスリル兵の試作ができたぞ」
グランダルが人型ガーゴイルをゴーレムに抱えさせて持ってきた。
へぇ、ミスリルで作ったのね。軽いし、魔力の伝導率もかなりいいわね。それなら魔力強化も入れてしまおう。
ここまでの騎士の動きデータを制御コアに書き込んで……よし、できた。試作品に制御コアを組み込んだらできあがり。
「名前……ナイト1でいっか。ナイト1、起きて」
ミスリルの躯体に魔力が満ちて起き上がる。組み込んだテスト動作を走らせる。
一通り体を動かしたら覚えた騎士の型をなぞっていく。うん、問題なさそう。
「なめらかに動くわね」
「いや、関節が少しかたいな。あとで調整しておく」
こだわるわねぇ……
「トビアス、実際の戦闘動作を見たいから相手して。ナイト1、模擬戦モード」
相手としてトビアスを指定すると懐に飛び込んでいく。フェイントも何もなしだからか軽く受け止められた。そのまま体を少し離して左右に次々と切り込んでいく。
「ふん、少しはまともに動くようになったじゃないか」
「ミスリルだから魔力の馴染みがとてもいいわね。軽いからもう少しスピードを上げさせてもよさそう」
「それならなおさら関節の動きはもっとなめらかにしないとダメだな」
ガキンと音がして、ナイト1の剣の動きがトビアスの前で止まった。
「ナイト1、待機」
そのまま戦闘態勢を解くと壁際に寄って直立の状態で待機となる。そうしていると鎧の展示物みたいね。
「トビアス、対戦してみた感じはどうかしら?」
「隊長と戦わせてもそれなりに戦えそうですよ」
それなりに戦えるのならしばらく対戦相手に使ってもらって実戦データをとりつつ学習させようかしら。
「訓練に対戦相手が常にいるのはいいですね」
それなら識別コードに騎士の認識証を設定して、「模擬戦モード」と「待機」の命令はきくようにしましょうか。
「トビアス、命令を聞いてくれるか試してみて」
「ナイト1、模擬戦モード」
模擬戦モードに入ると広い場所まで出て構えをとる。そして相手が前に立つと戦闘を始めるように設定してみた。うん、うまくいっているようだ。
「トビアス、速度を上げるわよ」
魔力の供給を上げて思考力の速さを思い切って三倍にアップさせる。ガーゴイルだから人間のように筋肉の損傷を考えなくていいのは楽ね。トビアスでは速さについていけなかったらしく、あっという間に追い詰められていた。
「やっぱりミスリルならパワーよりもスピード重視がよさそうね」
「ふん、悪くないな」
試作ゴーレムは返さなくていいみたいだからそのまま騎士たちの訓練相手として使ってもらう。AIほどではないけど学習モードはつけているからデータは蓄積されていくはず。スピードは元に戻したからいっぱい訓練してね!
翌日から素材置き場の訓練場では嬉々としてミスリル兵と戦う騎士たちの姿があった。
騎士様ってわりと戦闘狂なのかしらね?
数日後には壁になるガーゴイルも出来上がってきた。こちらは現場に合わせて微調整するだけだから試作はなしでそのまま設置するらしい。
ふむ……さすが自分で作るというだけあるわね。ツタに銀の花が咲き乱れたレリーフがあっという間に壁に設置されていく。金属も艶があってとても綺麗だわ。
見ただけではこれが壁になるだなんて全然予想もつかないのだけど……ちゃんと機能はあるのよね?
制御コアは今のガーゴイルから移植でいいわね。判断は壁に設置するセンサーと連動させてっと……テスト作動させるわよ。
稼働させると花が割れて中から伸縮するアダマンタイトの棘が左右から一気に伸びてきた。花の位置からわずかに斜め上に伸びるようになっていて、左右から前後に交互になっている。密な格子状になっていて通り抜けは難しそうだ。一番下はトゲ付きの蔦が渦巻いて隙間を埋めている。
稼働した状態を見てドワーフも満足いく出来のようだ。あちこちチェックして回るが特に修正する点はないらしい。
チェックが終わったようなのでテスト動作を終了させていつもの待機状態に戻す。
わあ、割れた花もちゃんと元に戻ったわね。これは普通にすごいわ!
テスト動作が終わったところで通い組が帰る時間になったらしい。みんな通るたびに感嘆の声を上げてレリーフを見上げる。その様を見てドワーフも満足げな様子だ。
あたしの作ったガーゴイルを見た反応とあまりにも違いすぎよね。
いいのよ。わかってるのよ。
好評みたいだから早いところ入口側の壁型も作ってあげて。
そんなこんなでドワーフ製ガーゴイルが無事に設置された。
壁のはガーゴイルと呼んでいいのか怪しい形をしているけど。見目がとても華やかになったからまぁいいわ。設置してからだいぶ経っているのにいまだに感嘆のため息が聞こえるし。
セドリックさんまで「辺境伯邸に作れませんか?」と言ってくるし。
ドワーフのやる気を出させれば作ってくれると思うわよ? ダンジョンのような棘の機能はつけられませんけどね。
ドワーフがちゃんとやる気を出したら普通にギミック動作として作ってくれそうな気はするわ。




