第37話 鍛冶場2
王都で勧誘されたグランダルは、王立の新たな鍛冶場ということから弟子たちを連れてバルディウス領へと赴いていた。
だが……奇妙な場所に来た。
着いた先の第一印象はそれだ。
地下に入ったはずが外に出たかのように光が満ちた場所で、目の前には畑が広がっている。先に立って案内する人間は普通に歩いているからこれが日常の風景なのだろう。
異常なほどに精霊に溢れているこの場所は儂らドワーフにも心地が良い。これだけでも悪くない選択だったとは思うのだが、奇妙なものは奇妙だ。
「こちらが鍛冶場の階層となります。では私はここで失礼します」
最低限の案内だけでいいと言ったからか、鍛冶場につくとすぐに戻っていく。なかなかわきまえているようだ。
だが、到着した時からここが鍛冶場だと言われてもそうですかと言える環境ではない。なんだあれは……
「おい、ここにあるのはなんだ?」
大まかな形が炉のようになっている。その前に立つ人間に話しかける。人間は振り返って困惑した表情で話す。
「それが私にもさっぱり……先ほどここに到着したのですが、その時にはすでにこの状況で……」
炉のようなものの中では火の精霊が踊っている。ただ燃料を燃やしたような揺らぎが全くない。しかもただ熱があるだけで金属を溶かす場所も取り出す場所も何もない。
まさかこれが炉だと言うのではなかろうな?
「あ、揃ったようね。鍛冶場の配置の要望を聞きにきたわよ」
場違いなほどのんきな声が聞こえて一斉にそちらを見る。
鍛冶場の配置の要望? つまりここを作ったのはこのエルフの小娘か?
「この奇妙なものを作ったのはお前か」
「そうだけど? とりあえずこんな感じ? っていうのを置いてみたのだけど」
「鍛冶も知らん小娘が鍛冶場を作るな!」
「な、なによぅ……だから聞きにきたんじゃない」
これだからエルフってのは! 長生きなだけで知識を取り込もうともせん!
「あ、あの……アルセラ様? こちらにあるのは炉、なんですよね?」
「え、うん。そうよ。常に熱くなるようにしてみたんだけどこの温度でよかった?」
「前提が間違っとるわ!」
「金属は種類によって溶かす温度が違うのです。精製の途中でも温度を変える必要があります」
「そもそもこれを炉と言うな!」
「そうですね。構造がいろいろと……こちらが一般的な炉の設計図となっています」
先にいた人間が設計図をエルフに見せながら説明している。ちらりと見た図には書いてない細かい指示も出していて、この人間はそれなりに理解があるようだ。
「ふーん、炉ってこんなに細かく部屋が分かれているのね。とりあえずこの図を元に一個作るわ」
手元に持っていた板のようなものを指でなぞっている。あれは一体何をしているのだ?
エルフの動きを見ていたら、視界の端にあった炉だと言い張る奇妙なものがふいに消えてそこにレンガで作られた炉が出現した。
は? 何がどうなった?
「とりあえず図面通りのものを出してみたけど……風を送り込むところも指定通りの形状にしてみたわ。どうかしら?」
「その設計図を渡しておいて申し訳ないのですが……熱効率が上がるように全体的に円筒のような形にすることは可能ですか?」
「こんな感じ?」
人間が指定するとあっという間に形を変えていく。
何をどうやっているのかはわからんが、希望すればその形にするらしい。
「送風口をもう一つ下からも送れるように作っていただけると……」
人間の出す指定は全て熱効率を上げるものだ。
……ふん、それなりにわかっているやつもいるらしい。
人間が炉を組み上げている間にこちらも最低限の要望を取り入れた設計図を引く。炉をこちらの指定で作れるのであれば最高峰の炉を作らせる。
「で、そちらの要望はまとまった?」
書き上げた設計図を渡す。
「これを岩盤を繰り抜いたように継ぎ目のないもので作れ」
「……ふーん……それぞれの扉部分は別の部品でいいのよね?」
「そこまで一体化してたら動かんだろうが」
「はいはい。こうね」
設計図に書いた継ぎ目のない炉が現れる。
ふん……悪くないな……
「微調整するところは?」
送風口がもう少し角度がつくように、熱の効率が上がるように炉の内部をわざと左右非対称に調整していく。
「これを三つでいいのね?」
一応ブラムとドリックを見ると二人とも頷いている。
「ああ、三つだ」
じゃあドワーフの炉として登録しておいて……などと呟きながら炉を出現させていく。
この光景だけは何がどうなってやがる……
「温度は自分たちで調節するのよね? 燃料はこの位置に出しておけばいい?」
「はい、私たちはそこで大丈夫です」
「ああ、儂もそこで問題ない」
言うが早いかあっという間に燃料が出現する。出てきた燃料をさっきから打ち合わせていた人間とそれぞれ確認する。
かなり上質のコークスだ。……悪くない。
「……鉱石などの素材はどこにある?」
「もう一階層下に用意してあるわ。普段はゴーレムに運ばせるといいわよ」
採れる鉱石はこれね、と言いながら純度の高いインゴットを並べていく。
さすがに希少鉱石は採掘量が少ないようだが、一つの鉱山で採れる種類としては多いほうだろう。
素材置き場にはこの単一素材のものがインゴットの状態で種類別にまとめてあるらしい。
「合金の配合は知らないから自分で作ってね」
……燃料も素材も悪くない。
炉も自分のこだわりで作った。
奇妙な場所だが、ここを手放す理由がないな。
最初のあまりに酷い状態で忘れていたが、もう一点気になることがある。
「おい、小娘。入口のあの不格好な像を作ったのもお前か」
「もー、さっきから小娘小娘って……そうよ! 文句ある?」
「文句しかないわ! なんだあれは! 美的感覚も何もない!」
「造形は苦手なのよ! それに動きを阻害しないのを優先したらああなったのよ!」
「……動く?」
あれが?
「そうよ。見る?」
「……見せろ」
動くのであればなおさらあれはない!
どこをどう考えたら、あれが動きを阻害しない形になるのか。使っている素材といい、形といい、阻害しかしていないだろう!
まったく、これだからものづくりを知らんエルフどもは話にならん!




