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強欲のダンジョンの作り方  作者: 夢兎
地下農業迷宮

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第32話 打ち合わせ

 夜、ベルグリム村にある銀鶴亭の一角ではフリッツとハンスが向かい合い話をしていた。


「畑の具合はどうだ?」


「順調だ。野菜の育ちもいいからな。ただ今はそこまでやる作業がないみたいだな」


 「やる作業がない」と聞いてフリッツは難しい顔をする。


「収穫が早いものはそろそろ収穫になるようで準備は始めているみたいだ。ちょっと前に果物農家もきたからそっちでも収穫が始まるだろうさ」


「そうか……ならいいが……」


 フリッツからは深いため息が出る。


「そろそろ体力を持て余してきてるか?」


「そうだな」


 フリッツが文句だけはいっちょ前なんだ、と小声でごちる。ハンスはその小声を拾って苦笑を漏らす。


「畑など行っても意味がないといまだに言ってるのか?」


「ああ、畑はいらないから鉱山を返せと言っている。あれは誰のものかと言ったら辺境伯様のものだろうに」


「昔も今も辺境伯様の指示に従っているからな」


「仕方のないやつらだ」


 この村にいるのはずっと鉱山でしか働いたことのない者ばかりだ。こういった文句は多かれ少なかれ抱えているのだろう。

 誰しも変化を柔軟に受け止めて対応できるわけでもない。うまく受け入れられなければ反発だったり、不満だったり、とにかくぶつけられるところにぶつけてくる。

 今はその矛先がフリッツになっていた。さすがに辺境伯様に直接ぶつける勇気は村人にはない。


 実際に今、畑に入っているメンバーですら全員が畑に乗り気かと言ったらそうでもない。どこかまだ鉱山の方がよかったという態度は端々に出るものだ。


 地下という閉じられた空間で作業しているから外からでは経過も成果も見えない。だからこそ余計に行く末が不安にもなるのだろう。


「野菜と果物、両方の収穫が始まればいやでも忙しくなるだろう。人員の選定はしておいた方がいいかもしれないぞ」


「……わかった。次回は納得していない者も送りこむことになりそうだ」


「荒くれ相手は鉱山で嫌になるほどやり合ってきたんだ。慣れているさ」


「頼りにしている」


「外とのやり取りは任せたからな」


 軽く状況を確認しあい、お互いの落としどころに話が落ち着いたら同時に席を立ち帰っていく。フリッツの悩みはまだしばらく続きそうであった。




 研究室で自由気ままに錬金したり、魔道具を作ってみたりしているとミアが伝言を持ってきてくれた。


「アルセラ様、セドリックさんが打ち合わせをしたいそうです」


「セドリックさんが?」


 そうね。いろいろと詰めなくちゃいけないことはできてきているわね。でも今の時間は休憩所には行けないわね。さすがにこんなごちゃごちゃした部屋に通すわけにはいかないし……あ、そういえば都合のいい部屋があったわね!


「ミア、先日マティアス様とお話した部屋へセドリックさんを連れてきて。畑のお話ならトーマスさんも一緒にね」


「森の入口の部屋ですね」


 ミアがアルゴに乗っていく姿を見送りながらこちらからも何を話す必要があるかまとめていく。あ、机をもう少し大きくして、椅子も六脚くらいにしておこう。会議室として今後も使ったらいいわね。



 しばらく部屋を整えながら待っているとアルゴに乗ってセドリックさんとトーマスさんがやってきた。ということは、畑のお話ですね?


「フリードリヒさんも呼びますか?」


「そうですね。今後の人員に関して話が出たら共有しておいた方がいいでしょう」


「それなら一緒に聞いてもらった方が早いですね。ミア」


「はい、いってきます」


 ここから果物畑はすぐ隣だからそんなに待つこともないだろう。

 予想通り大して待つこともなくフリードリヒさんが到着したから適当に座ってセドリックさんから話を聞く。


「先日、ベルノルト子爵から打診があったとは思いますが、畑を今の倍の広さにしていただくことになりました」


 広げることは問題はないですよ。トーマスさん、タイミングはいつが都合がいいですか?


「葉物野菜の収穫が明日には開始します。実のなるものは、いま半分くらいの成長具合なので今広げて種まきや植え付けをしたらいい感じに収穫がずれます」


 なるほど。それは確かに。


「アルセラ様、展開した時の早さを考えると広げるのは一日あれば終わりますか?」


「空間を広げるだけなので、全部の階層でも二時間もあれば終わりますね」


 果物畑はすでに拡張済みですからまた種類を増やすとかなったら広げましょうか。


「そうですね。果物はどちらかといえば嗜好品ですから先に野菜からお願いします」


 そうよね。ドゥルガルドの環境だと果物は高級嗜好品よね。栄養の補完と考えたら平民にももう少し食べて欲しいのだけど。そういうのを考えるのは宰相様とかマティアス様のお仕事よね。


「それでは打ち合わせが終わったら二階層か五階層までの広さを倍程度まで広げておきます」


 もし地下水脈とかに当たったらちょっといびつになるかもしれないですけど、そこは気にしないでくださいね。


「それであれば、人員を増やしていただくことは可能ですか?野菜を収穫しつつ、新たな場所を耕すとなるとさすがに今の人数では厳しいです」


「果物畑の方も数日後には収穫可能なところまで成長するはずです。フリードリヒさん、今日の桃の具合はどうですか?」


「半分くらいは成長が止まったようです。夜になるまでには桃は全部の成長が止まるのではないでしょうか?」


 セドリックさんに聞かせるためにも果物は三か月で一年になるように成長を調整すること。各種一週間ずつ収穫時期をずらす予定であることを説明していく。

 一通り話したところでトーマスさんから追加の情報が入る。


「セドリックさん、小麦の収穫に合わせて水車を管理する人を入れてください」


 トーマスさんは粉挽きについてはさすがに専門外らしい。それに広さも倍になるなら監督も行き届かないだろう。


 えーっと、野菜の収穫、新たに耕して種まき、果物の収穫、水車稼働……一気に忙しくなったわね? 人員足りる?


「ゴーレムが力仕事を手伝ってくれるのでたぶん大丈夫です」


 トーマスさんが考えながら答える。きっと頭の中ではどのように作業するかいろいろと順番や指示を組み立てているのだろう。


「なんなら力仕事はゴーレムがやるので女性やある程度聞き分けのできる年ごろの子供も入れてもらって大丈夫です」


「果物の方も収穫と選別作業なので男女関係なく入れていただいて大丈夫です」


 そうよね。野菜も果物も選別したり、汚れを落として梱包したりは必要よね。むしろそういう作業なら荒くれの鉱夫たちより女性や子供のほうが得意そう。


「わかりました。できるだけ早めに通いの鉱夫を増やしましょう。そして収穫が始まる一週間後を目安に希望する女性や未成年も作業に入ってもらいます」


 じゃあ人員はそんな感じでよろしくお願いします。


 うーん、野菜や果物をきれいにするのって、洗浄の魔法でなんとかならないかしらね? 魔道具にしたら平民の魔力でもなんとかなるのではないかしら?

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