第3話 王宮2
大まかな説明か、質問形式か、どちらがいいのか聞いたらまずは説明を、とのことだから説明していく。企画書の内容に少し個人的な情報も織り交ぜるだけなんだけどね。
「まずは地下農業迷宮――わたくしが作る時はダンジョンと呼称していますが、ダンジョンを作ったのはわたくしが錬金術に使う材料を安定して入手するためです」
この辺りのことは企画書には書いてない。マティアス様たちにいらないって削除されたのよね。
「エルヴァリエルはとても閉鎖的な国ですから鉄などの一般的な鉱石や中級の回復ポーションに使う薬草すらも入手することはとても困難です」
特に鉱石。森の中だから鉱石を発掘できる場所がないのよね。
「なので自然に漂っているエネルギー……魔素や地中を流れている熱を使ってそれらを生産できるようにしたものがダンジョンです」
かなり大雑把な説明だけどね。
「生産できるものはダンジョンを作成する場所にあるエネルギーによって異なりますが、エネルギーが多くない場所でも畑に適した土壌を維持する程度のものを作ることは可能です」
ただ、完全放置の循環型はエネルギーがある程度ないと難しいみたいなのよね。
「エネルギーが多くない場所でも土壌を維持できるからといってあちこちに小さいダンジョンを作ることはお勧めしません」
一つのダンジョンにつき一つのコアが必要なこと、コアの作成には拳大以上の魔石が必要なこと、まだ魔物を生成する技術が確立していないこと……など、いろいろと理由がある。
というかね。小さいダンジョンをいっぱい作って全てにシステム組み込んで調整するなんてことやってたら大変なのよ。それは勘弁して欲しいわ。
「ある程度のエネルギーがある土地は必ず必要です。この国であれば鉱山ですね。ただし、その土地のエネルギーはダンジョンに吸収されるので鉱山としての存続は難しいでしょう」
作るものは畑でそんな大したものではない、といいたいところなのだけど、どうしても天候調整にものすごくエネルギーがいる。常に全力で暖房や冷房をかけて、擬似太陽の光を生み出すのだから仕方ないよね。
必要なものは企画書にも書いてある。おそらく廃坑寸前の鉱山を出してくるから、どれだけの魔石を準備できるか、なのよね。
「魔石が小さいものでは無理なのか?」
「周りにあるエネルギーが潤沢であれば可能です。そうなると産出量の多い鉱山となりますが、得体の知れないものに差し出そうとする領主はいませんよね?」
わずかに苦い笑みが浮かぶ。鉱山はこの国の主力だもの。やっぱりそこは断られて押し付け合いになったのではないかしら?
「ダンジョンはぜひ我がバルディウス領へ……と言いたいところなのだが、魔石の準備が難しくてな」
領地の話を聞かせてもらうと、バルディウス領の鉱山は希少鉱石も採れるような鉱山だったけど最近は採掘量が落ちてきているそうだ。だからそこが農地に変わるのであればそれはそれでありがたいらしい。農地もあるのだけど領内をカバーするのが精一杯の広さで備蓄を作る余裕がないのだとか。
うーん、元々それなりに採掘量があったのなら地脈のエネルギーは潤沢にありそうよね? ダンジョンの物件的にはかなり美味しそうだわ。
「食糧の確保は国全体の問題だから魔石は国が準備する。他に必要なものは何かあるか?」
「中の作業は簡単なものや単純な力仕事はゴーレムを動かします。ただゴーレムは難しい判断をすることや細かい作業はできないので、そのゴーレムを管理したり、細かい部分を補佐したりできる人員を数名用意して下さい」
できれば農業に携わっていた農民も入れた方がいいと思うのよね。農作物をクローンでぽこぽこ生み出すとエネルギーがものすごく必要になってすぐに枯渇する。それなら畑として運用した方が後々のためになると思うわ。エネルギーがあるうちは天候が安定した畑って感じ。ダンジョンを展開してから収穫まで時間はかかるけどね。
その辺りのことも意見としては出しておく。細かい最終判断はお任せします。
ここで決まったからといってすぐに運営できるわけではないのが国というもの。
議会の承認やら、魔石や育てる作物の種や苗などを揃えている間にあたしの身柄はベルノルト子爵領からバルディウス辺境伯領へと移ることになった。
「マティアス様。王家への橋渡しに尽力くださってありがとうございました」
「直接関わることはほとんどなくなるけど、困ったことがあったら連絡をよこしてくれ。できる限りで力になろう」
マティアス様は農業改革の責任者の一人のようで、農業関係のことならある程度なら融通がきくらしい。
ん〜…辺境伯領で困ったことが起きて子爵になんとかなるのかしら? マティアス様がどんなことを得意にしているかわかっていればそこは頼れるけど、そこまでわかるほど深い付き合いでもないしね。
「そう難しく考えず、頼る先がもう一つあるとだけ覚えていてくれたらいい」
まぁ、そうね。マティアス様なら気軽に話せるし、辺境伯様には話しにくいことがあったら頼ることにしますか。
「……はぁ、うちに鉱山があったら手放さないのに……」
あら、そこまで買ってくれるのは光栄ですわ。
「ベルノルト領からも農民を送ることになっている。うまく使ってやってくれ」
「わざわざベルノルト領から人を寄越すのですか?」
「アルセラを見つけた功績として計画の一端を担えることになってね。ベルノルト領の農地では先日大きな土砂災害が起きたばかりで、何組か農地を失った農民がいるから救済の一環として人を送ることになった」
なるほど。ある意味タイミングが良かったのね。被害に遭った人たちは気の毒だけど。
「領を移動しても構わない家族だけになるから、一、二組いればと言ったところではあるが……」
「わかりました。できるだけ早くダンジョン内を整えられるようにします」
衣食住に不安があると仕事ってできないものなのよね。福利厚生はしっかりと整えますよ。文句言われたら秘密の部屋を作ってでものんびりできる環境を作るからね。




