第2話 王宮1
困ったな……あたしはスーツですら苦しくて嫌だったのに……
「まあ、どのドレスを着せても似合うわね」
「銀髪だからはっきりした色の方が映えますね」
「寒色の方がいいかしら?」
「あの……装飾の多いものは避けていただけると……」
今のあたしは王宮の一室で絶賛着せ替え人形となっている。
……どうしてこうなった……早く終わらないかな……あああ、コルセットは必要ないデザインのもので! コルセットだけは断固拒否します!
1時間ほどもみくちゃにされ、時間ですと呼びにくるギリギリまで続いた。
つ……疲れた! もう帰りたい……
「ずいぶんと見違えましたね」
ええ、馬子にも衣装ってやつですわね。
水色から青へグラデーションするドレスを着て、髪はほぐれない程度にふんわりと大きくまとめられて、ところどころに花の髪留めが挿してある。全体的にはハーフアップの形になっていて、下ろしている髪は緩くウエーブしている。自分では絶対できない髪形だわ。
なんでこんな格好をしているかというと王と宰相、辺境伯と謁見するから。謁見の間ではなく応接室らしいけど。
よかった。謁見の間だなんて言われたら作法も知らない小娘の見せものでしかない。まぁ歳は、んんんっ、忘れたけど。
もうね。ヒールがものすごく高いのよ。その上で緊張して膝をついたりしたら立ち上がる時にすっ転ぶ未来しか見えないわ。今も真っ直ぐに歩くだけでよろよろしていて……ちょっと! マティアス様! 笑ってないでエスコートを所望します!
「失礼しました。お手をどうぞ」
これで転ぶ時はマティアス様も道連れにできる! 転ばないのが一番だけどね。
王宮の長い廊下をマティアス様にエスコートされて歩く。侍女の皆様が壁に寄って道をあけてくれるけど、王宮に仕えているだけあってとても立ち姿が綺麗なのよね。ヒールでよろめきつつ歩いてるあたしとは大違いだわ。
騎士が左右に立つ豪華な扉の前に到着すると、前を案内していた侍従が入室のお伺いを立てて扉を開けてくれる。マティアス様にエスコートされた状態のまま部屋に入り、中で待っていた三人の男性の前に立つ。
うーん、見事にみんな髭面だわ。この国貴族間で髭を生やすのが流行りなのかしら?似たような形してるし。
「近くへ」
王冠を被っているから、この人がドゥルガルド王国の王様よね?
「陛下、本日はお時間をいただきありがとうございます。こちらが地下農業迷宮の構想を持つ錬金術師アルセラでございます」
初対面だし、ちゃんとカーテシーで頭を下げる。よし、こけなかった。慣れないヒールの高い靴でふらついてるのはご愛嬌で。
「ヴァルデリウス王陛下。この度は拝謁の機会を賜り、誠に光栄にございます。錬金術師アルセラと申します」
「顔を上げよ。ここは非公式の場だ。堅苦しい礼はなしでよい。言葉もベルノルト子爵に話す言葉遣いでよいぞ」
「……陛下」
カーテシーから戻しつつ、マティアス様をちらりと伺い見る。目が合うとすっと視線が逃げた。そのままの言葉遣いはよろしくないってわけですね?
「ありがたく、少し言葉を崩させていただきます」
「それでいい。貴族の迂遠な表現は決まるものも決まらないからな」
それはわかる気がするわ。なんであんな回りくどい言い方でぐだぐだというのかしらね?
「アルセラ嬢、こちらへおかけください」
「ありがとうございます。わたくしは平民ですので、どうぞアルセラと敬称なしでお呼びください」
「平民はカーテシーの存在すら知らないものです」
……そ、そんなことはないと思うわよ? ほら、商人とかは知ってるわよね? そんなじっと見られても何もでませんよ?
「失礼ながら家名をお持ちですよね?」
頭がすっと冷えた気がした。そういうこと……
「わたくしはエルヴァリエルから追い出された身。わたくしにとって過去の家名に意味はなく、名乗る資格もありません。国の代表や貴族でなければこの席に座る資格がないとおっしゃるのであれば今すぐ退席いたします」
すっと席を立つ。許可をもらってないけど、失礼でもなんでもいいわ。この時点で決裂するのであれば二度と会わないし。
「待ってくれ。私はアルセラと話がしたい。この場を借りられないのであれば場所を移して話さないか?」
ずっと状況を見守っていた人が引き留めてくる。
ふむ、会話の内容的に攻撃的な灰色の髪の人が宰相のレオナルト・ハイゼン様でこの茶髪の人が辺境伯のエルドリック・バルディウス様ね。
「全く、勝手にアルセラを追い出さないでくれ。こんな面白そうな話なのに仲間外れにするな」
陛下に面白そうと思っていただけるのはありがたいけど、いいのかそれで。一応国益に関する話だよね?
「勘違いさせてしまい申し訳ありません。身分にこだわりを持っているわけではありませんのでどうぞおかけください」
いや、身分がどうこうはそうかもしれないけど、宰相様は確実に難癖つけて追い出そうとしていましたよね?
ほんとにこのお貴族様の世界はめんどくさい。あたしはただダンジョンを作りたいだけなんだけどね~それがたまたまこの国に役立ちそうってことだからここに作らせてもらえたらどっちにも利があるよねっていうだけで……ぶっちゃけあたしはどこでもいいのよね。
ごねても仕方ないので大人しく座り直すとこっそりと辺境伯様とマティアス様からため息がもれる。うんうん。めんどくさいよね。でも宰相様的には必要な一幕だったんだよね? そうだよね? ただあたしが気に入らないだけならマジで帰るけど?
「アルセラ、レオナルトのことは壁の模様だと思ってくれればいい。そんなことよりも地下農業迷宮の話を聞かせてくれ」
あら、顔に出ていたかしら。でもさすがに壁の模様はひどくないかな?
しかしさっきから言ってる『地下農業迷宮』って長いし、堅苦しいし。地下畑でよくない?




