第29話 普通ではない農業
昨日は根菜畑で間引きや芽欠きをしたから今日はトマトやナスの摘芯をしていく。
これはしっかりやろうとすると教える方も難しいからわかりやすい葉っぱの根本から出てきている余分な芽だけ摘んでもらう。
こういう時は成長が早いのも役にたつ。午前にざっくりと荒く摘んでもらって、午後から新たに伸びてきたものと見逃したものを摘んでもらう。
それでも伸びてしまったものは残して支柱でしっかりと支えてやればいいだろう。
「農業ってのは細かい仕事が多いんだな」
「力仕事は全部ゴーレムがやってますからね」
次の力仕事といえば収穫だけど、収穫も運ぶのはゴーレムがやるからそこまで力仕事でもない。根菜の掘り出しくらいか?
……なんだかそれは鉱石を掘っていた元鉱夫の人たちの方が体の使い方がわかっているような気がする。
「ゴーレムがやってくれるっていうのもあってか農業の方がすごく仕事が楽な気がするよな」
「疲れが翌日まで残って、だりぃってことはなくなったよな」
「本来の仕事量と比べると半分以下ですから」
それは楽だよな。
本来なら耕すのも畝を作るのももっと時間がかかる。さらに肥料をまいて、漉き込む作業までやっていると2倍も3倍も耕すのに時間がかかるものだ。
さらにここでは草が生えない。畑に草の種が飛んでくると肥料を吸ってすごい勢いで草が育つ。いつもならエルナとリーナはずっと草むしりをしているはずだった。
「草か……」
「確かに草は荒れ地でもいつの間にか生えているよな」
草むしりに労力を割かなくてもいいのは本当に大きい。生えてくるのを抜くのはもちろん、乾燥させた後に燃やして灰をまくところまでがセットだからな。燃やさないと種が残って、無限に生えてくる。
ここでの農業が次の作業に悩むほど楽なことは認めるが、外にある全ての農業が楽だと思ったら大間違いだぞ。
「収穫が大変だからって外から人を呼んだりしたら、元の農作業なんてできないんじゃないか?」
それは大いにあり得るな。ただここは隠さなければいけない情報が多いから、村から応援を呼ぶくらいしかやらないだろう。うっかり他と違うところを見せた後に帰してしまえばどんな情報が拡散するかわかったものではないからな。
普通の農夫をしていた頃はこんなこと考えたこともなかったが……本当に地下畑はとんでもないところだよ。
アルセラがミツバチの行動分岐パターンを考えている時に果物の花が思い浮かび、ふと別のことがよぎった。
果物が実るところまで急成長させるということは収穫が野菜よりも早く始まるわよね? それなら早めに荷車を調整した方がいいかもしれないわね。
今までと同じ板状の荷車とその両脇に軽トラのような壁をつけたタイプの荷車、箱型の荷車をサクッと作ってフリードリヒさんの元へと向かう。
果物畑に出ると腰から胸くらいまでの高さだった苗木が背の高さを追い越すくらいまで育っていた。昨日の夜からだから半年経ったくらいかしらね?
青々とした葉を茂らせていて、自然と同じくらいのそよ風に葉が揺れて気持ちよさそう。うん、やっぱり木々の中にいる方がなんだか心地がいいわね。
「フリードリヒさん、果物の木の成長具合は大丈夫そうですか?」
林檎の木を見て回っていたらしいフリードリヒさんを見つけて声をかける。
すぐにこちらに気がついて報告をしてくれた。
「成長が早くて驚いてはいますが、木は問題なく成長しているようです」
普通は成長が早い木は空洞化したりするらしいけど、ここではそういうことは起きていないらしくてほっとする。さすがにそういう情報は知らなかったわ。
「今日は収穫が始まったら使うことになるだろう荷車を見てもらおうと思って」
土でできているから重たそうだけど、自力で走るから力いらずよ。
まっすぐに走らせたり、その場で円を描くように走らせたりしてみせたら、最初にトーマスさんに見せた時のように唖然とした表情をしている。ゴーレムの一種なのにそんなに驚くものなのかしらね? 実際に驚いているけど。
「ある程度の大きさとか形とか変えられるのだけど、要望はあるかしら?」
要望がなければこのまま量産しますよ。
「そうですね。木々の間はこの箱型のを連れて歩くといい感じなので、この箱型のは作業に入る人の数あると嬉しいです」
ただ荷車はまだ出荷用の箱がきていないのでそれを見てから大きさを決めたいとのこと。横や縦に並べた時にちょうどいい幅にしておいた方が荷崩れが少なくなるとか。そう言われてみればそうよね。
「じゃあ箱が届くより収穫の方が早かったらぎりぎりまで採らずに木に生ったまま置いといて。程よい実がなったら食べごろで一週間は成長が止まるようにしているからそのままの方が長持ちするわ」
その、いろいろと諦めたような表情もトーマスさんで見慣れたわ。そんなに不思議なことなのかしらね? 成長を早めることができるなら遅くすることだってできると思うのだけど。
「アルセラ様、こんにちは!」
家のほうからカールがゴーレムに乗ってこちらに近づいてきた。もうすっかり肩に乗るのが当たり前になっているわね。この世界の男の子でも、ロボットものは好きになるのかしら?
「アルセラ様。ボク思ったんだけど……」
お? 何かアイデアがあるのかな? あまり形にこだわりのあるものじゃないといいけど。リーナの牛とか……
「ゴーレムがはしごになってくれたら倒れたりしないからすごく安心できると思う」
……なるほど! それはいいかもしれないわね。フリードリヒさんも確かにって呟いているし、大人の作業者目線から見ても便利そうね。ちょっと考えてみようかな。
カールが考えているような形になるかはともかく、ゴーレムに階段状の段差をつけて、止まった時に三角形になるように腕を地面につけさせたら足場が安定するわよね。そうなると腕はちょっと長めに作る必要があるわね。
他の動作をするようにすると段差が邪魔になりそうだから、はしご専用ゴーレムにするのもありかも。作ってみるわね~!




