第22話 地下農業迷宮の不思議?
種まきが終わったから次は根菜階層の耕しか。こっちも種を仕込むまで二日あれば終わるだろう。
芽が出るまで一週間。そこから育つまでさらに一週間。この二週間は何をしてもらうか。いっそリーナみたいにゴーレムと遊んでもらって操作を覚えてもらうか?
次の作業を考えながら休憩所へ入るとハンスさんたちがもう来て食事をしていた。
「トーマスさん、おはよう」
「おはよう、早いですね」
「配給票のおかげでしっかりした朝ごはんが食べられるからな。時間を気にしてかきこむよりゆっくり食べたほうがいい」
「それもそうですね」
自分も食事をもらって談笑しながらゆっくり食べる。基本は家族と食べるのだが、たまにはこういうのもいいな。
朝ごはんを食べて外に出るとハンスさんが畑を眺めていた。
「トーマスさん、いいところに。聞きたいことがあるんだが……」
聞きたいこと?
「植物の芽っていうものは翌日には出てくるものなのか?」
ん? 一週間はかかりますね。だからその期間をどうしようか悩んでいたわけで……
そう思いながら畑を見ると、畝の表面がうっすらと緑になっている。
んんん? あれは種を蒔いた野菜の芽、だよな? 草じゃないよな?
「芽が出るのが早いな」
アルセラ様! こういうのは先に情報が欲しいですよ! ミアさん、手が空いてからでいいので念のため確認お願いします!
「はい、今大丈夫なので行ってきます」
ミアさんが確認に走って行く姿を見送る。
……えーっと、とりあえず今日の予定はさっき考えた通り根菜階層の耕しで大丈夫だな。この調子だと明日は間引きしないとダメだな。
「トーマスさん」
ミアさんが戻ってきて少し離れた場所から呼ばれる。あまり他の作業員には聞かせない方がいい内容なのか?
「そのままの言葉を伝えると、『国家の食糧改革なら成長が早くないと賄えないから、五倍くらいの早さで育つようにしてある』、だそうです」
……相変わらずとんでもないことをさらっと言ってくれる。それはそうなんだが、普通はそうならないんだよ。
「ある程度は調整可能なようですが調整を依頼しますか?」
「いえ、次の作業に悩んでいたくらいなので今のままで大丈夫です。育ち具合に影響があるようなら相談します」
それがいいですね、といってミアさんは休憩所の方へ戻っていく。
理由もわかったし、想定した成長具合のようで問題がないことはわかった。さて、こちらはどう説明したものかね。
夕方となり村人たちが銀鶴亭に集まってくる。以前は鉱山帰りの男たちが集まるこの時間からが店商売時だったのだろうが、今は鉱山が止まっているから昼間の方が忙しいくらいだ。
おかげで村人が集まる夜に、のんびりと会話に耳を傾けることができる。
「オスカー、ゲルド、おつかれさん。畑に行ってるんだよな? どうだ?」
「お、俺も気になる。ちゃんと畑になってんのか?」
おや、いい話題ですね。他は日常の話ばかりだし、このグループの話を注意して聞きますか。
「畑にはなってるよ」
「あれ、農業って言っていいのか?」
「普通の農業を知らないからなんとも言えねぇなあ」
普通の農業ではない?
「なんだよ。なんか変わったことでもあるのか?」
オスカーとゲルドが顔を見合わせる。
「あの中さ、ゴーレムが作業してるんだよ」
「ゴーレム?」
「背丈同じくらいの土人形」
「土人形って動くのか?」
「「動く」」
なんとも滑稽な話ですね。でも面白そうだな。ぜひ直接見てみたいものですが、無理でしょうね。
「はーん? そんなのがいるなら俺たちの仕事ないんじゃね?」
「いや、命令は出さないといけないからな」
「鉱山みたいに全部人力じゃない分、作業は楽だな」
命令を出せばある程度は自分で動くってことですかね?
ゴーレム、土人形。
拾った情報を頭の中で整理していく。なかなかおもしろいことになっているようだ。
「あとは芽が出るのが早いらしい」
「へえ? 畑に行き始めて三日だよな?」
「今日を含めると四日だな」
「種を蒔いたのは昨日なんだけどよ。今日行ったら芽が出てて、夕方にはだいぶ伸びてたな」
ほぅ、育つのが早い畑ですか。それは依頼人がとても好みそうな話ですね。近いうちに報告にいきますかね。
そこまで聞けたところで話題が別のものへと変わっていた。ここ最近では十分な収穫だろう。
「最近、情報が少ないってせっつかれてましたからねえ。早いうちに落としておきましょうか」
幸いここは国境が近い。少し行ってきますかね。
数日後、ルカスはドゥルガルド王国とドラグナール帝国の国境にある緩衝地帯にきていた。
いつもの宿をとり、日が暮れる頃に宿の裏手に入る。そこには旅装に身を包んだ依頼人が佇んでいる。挨拶は交わさず、隣に並んで立った。
「枯れた鉱山の話だ」
「枯山になど情報があるのか?」
少し苛立った様子を見せる。そう焦りなさんなって。
「鉱山が畑になった」
思い切り眉が寄っている。
そんなに感情を顔に出すのは素人っぽくてよろしくないが、突然こんな話を聞かされれば何を寝ぼけているんだって思うよなあ。
こちらは草、諜報員らしくあまり感情を出さないように淡々と情報を流していく。
短期間で入口が立派な建造物になったこと。
入口は騎士が常駐していて中を覗き見るのは難しいこと。
畑は地下にあり、ゴーレムという土人形が作業していること。
作物が育つのが早いこと。
持っている情報を出しきり黙る。
「育ちが早いとはどれくらいだ?」
「種を蒔いて翌日に芽が出ていたらしい」
依頼人は考え込んでいる。
「他には?」
「今のところはこれだけだ」
畑になって四日目の情報だ。これでも多いほうだと思うが、依頼人には知ったことではないな。だが反応はいい。
「枯れた鉱山が畑になった時点でうまくいきすぎな気はしているがね」
「……引き続き情報は集めろ」
肩をすくめて返事をする。依頼人はそれを見てそのまま表の雑踏へと紛れていった。
「これ以上話を集めたところでそこまで重要なものは出てこないと思いますがね。自分もこの話は気になるから情報は集めますが」
作物の育ちが早くて、安定して収穫ができるのであれば儲け話にはなり得る。どう奪うのかは知らないが。
自分は求められる情報を集めるだけだ。次に欲しいのは収穫量だろう。
どう情報を集めるか思案しながら宿へと戻っていった。




