第127話 魔石の研究2
アルセラから魔石に関する研究書を要求され、最近大きな変化がない分野だったこともあり、すぐに用意して送った。
一か月ほど音沙汰なく、やはりアルセラでも研究は進まないのかと思っていたのだが……
「魔力紋?」
「名前はアルセラ嬢が仮称としてつけているようですが、魔物の種族ごとに固有の魔力の流れがあるそうです」
時間がかかっていたのはどうやら新たな発見となる魔力紋のことを詳しく調べてまとめ上げていたかららしい。
「この魔力紋を収集したいから様々な種類の魔石が欲しいと要望がきています」
「すぐに準備して送ってやれ」
しかし、魔石から魔物の種類を判別できるようになると……
「レオナルト、これは民間で問題になっていた討伐証明に使えるのではないか?」
「そうですね。誰が討伐したかの証明は変わりませんが、討伐した魔物の種類を偽る者は減るでしょうね」
今までは魔石の色や大きさでだいたいの種類を判別していたが、大きさが同じような魔石は色が似ていることも多く、別の魔物を狩って依頼の魔物だと偽る者が一定数いた。
色からの種類の特定は、鑑定士の経験に頼る部分が大きい。嘘だと決めつけるわけにもいかず問題となっていたのだが、固有の魔力紋がわかるのであれば、この問題は解決する。
「鑑定する者が魔力紋を見て判別できるようにならなければいけません。まずは魔力紋を可視化するために何が必要か、ですね」
それくらいであれば研究室に投げればすぐに作り出すだろう。そしてその後にアルセラのように魔力紋を収集せねばならんのか……いっそ、魔力紋の一覧作成もアルセラに依頼して……いや、報酬が重なるだけだな。
作成したものを試験するついでに一覧を作らせればいいだろう。
「アルセラ嬢からは魔力紋を使った別の提案がきていますが……」
「アルセラからの提案?」
「魔石と同じ魔力紋をもつ魔物がどの方角にいるか探知する魔道具ができるのではないか、と」
「それは……探知できる距離にもよるが、特定の魔物狩りが楽になるな」
「はい。特に隠れる魔物を探すときには重宝するでしょうね」
発想はいいのだが、それが作れるのかはまた別だな。
「アルセラ嬢のもつ知識で作ると技術を開示することができないものになってしまうため、一般的な魔道具の作り方を教えていただけるのであれば作ってみる、と書かれています」
「……一般的な魔道具の作り方で作れるのであれば技術提供する、という解釈で間違いないな?」
「そうですね」
「魔道具の作り方はアルセラに教えられるのか?」
「おそらく教本のようなものはありません。技術者をアルセラ嬢の元に送るか、書き起こしてもらうしかないでしょう」
魔道具は作り方を読んで、理解して作れるものなのか?
「アルセラ嬢も、一般的な魔道具の作り方を見ても作れないかもしれないと懸念はしています。一般的な魔道具作成の技術で作れない場合は、自分の持つ知識で作った見本を送るとあります」
アルセラの知識から生み出された魔道具。
なぜだろうか。とんでもないものが届きそうな予感しかしない。
「最近、アルセラから報酬として準備してほしいと要望が来ているが……減っているのか?」
「わずかに増え続けています」
そうであろうな……
「今回も?」
「魔石をどれほど準備するかにもよりますが、技術提供であろうと、見本提供であろうと、確実に増えるかと」
なぜこうも予想をはるかに超えたものが返ってくるのか。
「城の魔道技師にアルセラの提案を話して作れるかどうか聞いてくれ。作れないのであれば、魔道具の作成に必要な基本を書き起こす方向で交渉を」
城の魔道技師が作れるのであれば問題はないが、作れないのであればアルセラに委ねるしかない。
アルセラの持つ知識は予想もつかない。そんな知識で作られたものを入手するより、基本だけで作られたものの方が、こちらの持つ知識や技術に近いものになるだろう。
それでも、規格外であることは間違いないな……
◇◇◇
アルセラは王都から「とりあえず城にあるものを」と送られてきた魔石から魔力紋を採取していた。
「やっぱり魔力で焼いた方がきれいな魔力紋になるわね」
研究中は魔力の流れを見て手で描いていたのだが、どうにも線がゆがむし、細部は異なってくる。そこで、魔石に魔力を流すと、その魔石の魔力紋をそのまま紙に焼き付けられるよう、簡単な魔道具にしてみた。おかげで届いた魔石分はあっという間に採取が完了した。
「こうしてみると、魔石が保有している魔力の量で魔力紋の大きさも変わるわね」
手で描いている時には気づかなかった点だ。後に影響があるかはともかくメモはしておこう。
魔石につけてくれていた魔物の名前を見ながら魔力紋を見ていくと、おそらく姿かたちの似ているであろう魔物は魔力紋も似ている。
「地球の生物みたいに分類表が作れそうね」
蛙や蛇、狼で名前が違うものは魔力紋もわずかに異なってくる。
おもしろいのはスライムだ。中央は同じなのに、その周りを囲む紋がそれぞれ違う。
「この違う部分が属性を示しているのかしら?」
この属性を分析したら魔法陣にも転用できないかしら?
あー、でも魔法陣の属性とはまた模様が違うわね。
「魔力紋の違う部分が属性を示しているのなら、クローンで魔石を作る時に、その部分を書き換えれば、属性変更はできるかも?」
まずは魔石をクローンで作れないといけないけど。まだそこは要研究の段階なのよね。
今まで考えていたエネルギーを圧縮する方法だと、魔力は貯められても魔力紋などの情報がない魔石になるはずなのよね。きっと水晶のように色のない魔石になるのでしょうね。
「問題はクローンで魔力もコピーできるのか、よね」
もしかして、クローンの生体に魂が宿らないのって、クローンで作成した体に魔力がないから?
そうよね。前世の知識には魔力の概念がない。それはあり得るかも。
「この世界では魔力が枯渇すると倒れて動けなくなる。生体にも魔力を満たさないといけないのだわ」
まだ仮説だけど、やってみる価値はあるわね。
……で、魔力ってどうやって満たしたらいいの? そのまま押し込むだけじゃダメよね?




