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神様の独演会と、その後の等電位

今回は電気の説明回です。飛ばしてもらってもいいです。

一番最後のとこだけ読んでいただければ。


(いやー、刺激的な欠片だったなあー。「電気」だけに、なんて)

 モルテは光の消えた木々を見上げていた。蛍光色に光る木々も、地面を這う稲妻も、空を幻想的に覆うカーテンも、全て消えている。

「モルテ」

 彼女の背後から、控えめな声が掛けられる。ゲルミナスが痛みを堪えるような顔で立っていた。

「……痛かったでしょう? すみません。いつも……」

 モルテは手を後ろに組んで、にかりと笑った。何とか、「言葉」を伝えたかった。

『へ、い、き!』

 ザアアアッと風が二人の間を通り抜けていく。ゲルミナスが驚いたように目を見開いて、彼はしばらく立ち尽くしていた。



(……そういえば、「説明は後!」って言われちゃったんだっけ。しゃべりたいかなあ?)

 てくてくと近づくと、モルテはゲルミナスの服を引っ張った。布だからか、「反発」は起きなかった。

「モモモルテ!? なんです!?」

 濡れた上着を絞っていた彼はなぜか飛び上がる。モルテは不思議そうに首を傾げた。

(何驚いてんの? ほらほら、あのカーテンとかさあ……ジェスチャー難しいなあ!)

 モルテは木を指差し、手を握って開いて「光った」、空を指差して、手を逆さまにだらりと下げ指をバラバラに動かして「カーテン」を表現してみた。彼は、今回はすんなりと「ああ」と納得した。

「光る木と、空に現れた光のカーテンのことですね」

 ふふふ……と肩を震わせている。

(あっ)

 先ほどまでの死と隣り合わせの経験を思い出して震えているわけではない。決して。これは歓喜だ。彼は、ゲルミナスは、説明できる喜びで肩を震わせているのだ。

(……めんどくさっ!)

 聞かなきゃよかった。モルテは後悔した。

(まあ、服が乾くまでなら付き合ってやってもいいかな)



 ゲルミナスは片眼鏡を光らせながら、どこかウキウキした様子で座る。

 きちんと火を起こして濡れた服を乾かしてからの説明だ。モルテも諦めたように彼の向かいに座った。

「まずは、今回の欠片で引き起こされた空間は、『強電界』でした。これは、平たく言えば『電気の引き合う、または弾き合う力が、ある空間で異常に高まっている状態」のことを言います」

(ふーん)

 モルテは燃える火を見つめた。

「通常は、自然界に存在する物質のプラスとマイナスの電気はバランスを取っていますが、摩擦や衝突によってプラスとマイナスが強く偏ることがあります。プラスとマイナスが離れると、その間に電気的な力が働き、この力が及ぶ空間を「電界」と呼びます。偏りが大きければ大きいほど、空間に蓄えられるエネルギー密度が高まり、『強電界』となります」

(……色々なものに「世界」があるもんだね)

 長さ。時間。質量。電気は今までと異なる、別世界のような気がした。

「空間に蓄えられたエネルギーが限界を迎えると、普通は電気を通さないはずの空気などが耐えられなくなり、一気に放出します。分かりやすい例が雷です。あれは、空と地面との間が『強電界』となるのです」

(電気も高いところから低いところに移動するの? この場合は空にプラスが溜まるの?)

「いい質問ですね! この強電界については、電気の流れはまだ考えなくて良いのです。プラスやマイナスと言う言葉が出てきてややこしいと思うかもしれませんが、強電界は『エネルギーをパンパンに蓄えた状態』であって、まだ流れてはいないのですよ。そのエネルギーを放出する時、流れが発生するのです。ちなみに、『空と地面の間』を強電界と言いましたが、実際電気の偏りが起こっているのは雲の中です。雲の底はマイナス、上側はプラスに分かれ、地面に近いマイナスの電気が、地面のプラスの電気とを引き寄せ合い、落雷が起こります」

(ほー、そうなんだ)

 饒舌だなあ。


「木々が光っていたのは、『コロナ放電』と呼ばれる現象です。先ほど話した電界が、エネルギーの蓄えに耐えきれず、じわじわと放電している状態をいいます。電界は、尖ったものの先端に集中する性質があるので、そこの空気が電気的に破壊されて放電します。落雷前の、危ない状態を示すので、船乗り達には『セントエルモの火』なんて呼ばれたりもしていたんですよ」

(ほうほう。ん? 落雷みたいなドカン! ってのと、コロナ放電のじわじわ。放電も種類があるんだ)

「単に、電気の通り道が『完全に壊れた』か、『一部壊れた』かの違いです。コロナ放電は、完全に壊れる前の現象でもあるんですよ。そうそう、落雷は、コロナ放電によって電気の通り道を作ってもらってると言っても過言ではないのです。電界が限界に達した時、雲から微弱なコロナ放電が飛び出し、何度も曲がりながら地上へと降りてきます。近くなってくると、今度は地上の尖ったものから上空へ向かってコロナ放電が伸びます。上と下のコロナ放電がつながった時、地面のプラスの電荷が雲へ向かって猛烈な勢いで駆け上がる。これが落雷の仕組みです」

(へ!? 雷が落ちた、じゃないんだ……!)

「面白いでしょう? この、地面からの逆流というのは、光速の三分の一というとてつもない速さであるということと、上からの道が繋がった直後に起こることなので、『落ちる』と錯覚してしまうのです」


(ねえねえ、カーテンは? あの光の)

「おっと……! つい電界だけで熱くなりすぎましたね。モルテ、あれはオーロラと言います。普通は空気の薄い、高緯度でしか見ることができません。プラズマ粒子が、この星の酸素や窒素などの空気と衝突して光る放電現象です。宇宙から飛んできたエネルギーによって引き起こされる現象でもあります。なかなかロマンを感じませんか?」

(いや、別に……)

「何でですか! 感じてください! ……太陽からプラズマが超高速でこの星に押し寄せ、磁力で極地に引き寄せられます。粒子と空気とがぶつかり、そのエネルギーが光として放出される。それがオーロラです。色はぶつかる空気の種類と空気の薄さで変わります。空気が非常に薄く、酸素とゆっくりぶつかれば赤、空気が少し濃くて酸素と激しくぶつかれば緑、さらに空気が濃く、窒素とぶつかれば桃色となります」

(あれは桃色から緑だったねえ。なんであんな揺らめくような形なの?)

「あれは、星の磁気という目に見えない檻が、光る大気によって可視化されたものです。非常に薄くて長い光の板が宙に浮かんでいるため、下から見るとあのような形に見えるのです。『ひだ』のようにみえるのは、磁力線の束が歪んだり、粒子の折り込み方が場所によって強まったりしているからです」

(へえー……そろそろ乾いたかな?)


 モルテは立ち上がって干していたゲルミナスの服に手を当てる。うん、パリッとを通り越してバリっとしてる。乾いた乾いた。

「モルテ! まだ説明足りません! 延長を、延長を求めます!」

(もういいじゃんー。寝なよー)

 残念なひとを見る目でモルテはゲルミナスを見下ろす。彼はとても悔しそうな顔をしていた。

(まだまだ「半分」しか神様じゃないんだからさ、無理はダメだよ)

 そう思いながらモルテは寝るジェスチャーをする。

「……そう言えば、モルテ。ずっと気になっていたんですが、貴女、いつからその力……。枯らさなくなりましたよね?」

 ぱちり。モルテは瞬いた。

(どれ、ちょうどいい薪でも探してこようかな)

 くるりと踵を返す。

「モルテ! 質問に答えてください!」

 彼女は少しだけ振り向いた。そして、人差し指を一本立て、唇に当てて微笑む。

(……ひみつ!)

「……っ!?」


 一人残されたゲルミナスは、片手で真っ赤な顔を覆った。

「……不意打ち、すぎる」


落雷の仕組みと、オーロラについて、でした!


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