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ある熟年夫婦の場合  作者: つよきち
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その優しさの意味

祥子はまだ何か隠しているようだった。

でもその秘密についてはどうしても話し難いようだった。

誠一は無理に話さなくていいと祥子に言った。


その優しさは祥子に向けたつもりだったが、もしかしたら他の誰かに向けられた優しさでもあったのかもしれない。

誠一はその秘密が何か分からなかったから、自分の優しさがどんな意味を持つのかさえ自信がなかった。


祥子はひどく後悔しているようだった。

でもその後悔が何に対してかは分からなかった。

それは今誠一に話すことになったことに対してかもしれないし、そもそも誠一と夫婦になったことに対してかもしれなかった。

ただ祥子は苦しそうだった。

誠一は自分がさっき話さなくていいといったことは間違いだったのではないかと思い直した。

祥子は自白したかったのではないか。

話しても話さなくても辛いが、それでも自白したかったのではないか。


誠一は祥子を眺めた。

祥子は怯えた目で誠一を見つめ返した。

怖がらせているのは誠一自身だった。

かつて誰よりも守りたい人だったのに、その本人を怖がらせているのが自分なのだ。

自分の何がそんなに祥子を怖がらせているか分からなかったが、誠一は祥子の恐怖心を少しでも和らげたかった。

それは怖がらせている本人が思うようなことではなかったかもしれない。

でも本当にそう思っていた。


誠一は誠一が知る祥子を思い出そうとしていた。

祥子は不器用な人だった。

でも大変な努力家で、自分のその不器用さを、努力で補っていた。

ただその努力が行き過ぎていて、見ているこっちが危なっかしかった。

でも祥子にとってはその努力は慣れたもので、努力を努力だと思っていないようだった。


学生の時は、バスケットボール部だったが、いつも補欠だったらしい。

祥子にバスケットボールは向いていなかった。

その華奢な身体からしてもそうだが、ボールを持つと頭が真っ白になってしまうという話を聞いても、それが悲惨だったことは簡単に想像できた。

指の骨を何度も骨折し、治らないうちから練習に参加し、誰よりも練習して、シュート率や足の速さは1番になった。

でも補欠で時々同情で試合に出られた始末にはみんなに迷惑を掛けないように自分の存在を消した。

そんな経験をなんてこともなかったかのように誠一に話す祥子は強がっているようにも見えた。


人には向き不向きがあるのに、それを本当の意味ではよく分かっていないようだった。

というよりも、自分に向いていることがあるということが信じられないようだった。



祥子の口癖は「仕方がないよ」だった。

祥子は努力が叶わなくても、普通だと思っていた。

それでいて、やっと認められたことでも、簡単に他人にその立場を譲るようなところがあった。

常に自分に自信がなくて、幸せになることに対して謙虚だった。

祥子の人の好さは長所でもあり、弱点でもあると誠一は思っていた。


誠一はそんな祥子のことを全部含めて愛していた。

そして自分だけは祥子にとって優しくありたいと思っていたのだ。

祥子の心を守れるのは自分だと思っていた。

というよりも、そうありたいと思っていたのだ。

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