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ある熟年夫婦の場合  作者: つよきち
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近いのに遠い場所

祥子は誠一に手を伸ばしてきた。

誠一は、突然すぎて、不意にその手を避けてしまった。

次の瞬間、誠一は祥子が誠一の髪についたゴミを取ろうとしてくれたようだと気づいた。

でもその時にはもう遅かった。

祥子が誠一を見る目がさっきと違った。



「どうして?」



その祥子の言葉に誠一は言い訳がましいことしか言えなかった。

元来、誠一は人に触れられるのが苦手なのだ。

それは生まれつきと言うか、自分でどうにか克服できるような感じではないようなものだと思っていた。

祥子は首を横に振った。

祥子は誠一のそういう言い訳が聞きたいわけではなかったらしい。



「どうして私に触れないの?」



それは誠一の想像を超えた言葉だった。

一気に祥子が考えていることが分からなくなった。

もしかしたら自分が今まで問題だと思っていたことは全くの見当違いだったのかもしれない。

その予感がよぎったのだった。


祥子は傷ついた顔をしていた。

祥子を傷つけたのは明らかに自分だということは分かっていた。

でもその祥子の期待に応えられるようなことに応じることがどうしても誠一は出来なかった。

ただ手を握ったり、抱きしめたりするさえも、誠一は生理的に拒否反応を示していた。


誠一は、そういうことをする自分を気持ちが悪いと思っていた。

誠一にとって性はどこか禁忌的響きを常に持っていたのだった。

自分の大事なものを自分の欲望によって汚すようなことはしたくない。

そんな考えが常に付きまとっていた。

それは若い時からそうだった。


誠一は別に奥手だったわけではない。

何も思わないものに対しては簡単に性欲を消化できていた。

でも祥子に対してはそれができなかった。

それは祥子が誰よりも特別だったからだった。

祥子を性のはけ口にはしたくなかったのだ。

そうはいっても若い時は祥子に求められればそれに応じることはできた。

でも今はそれもできない。

若い時より枯渇した性欲は、誠一の意識に逆らう程の勢いを失くしてしまっていた。


それは全て本当だった。

でもそれを話す自分は言い訳がましくなった。

誠一は祥子がこんなに近くにいるのに、どうしてこんなに遠く感じるのか分からなかった。







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