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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第34章

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2402話 積み重ねし技

 激しく斬り結ぶ亮とマグヌスの姿をした亡者の剣戟が無数に交叉する。

 マグヌスの姿をした亡者の振るう太刀は轟然と空を裂き、亮を真っ二つに両断すべく強烈な斬撃を放っていた。

 対する亮は、マグヌスの姿をした亡者の猛撃を、淀みの無い動きで軍刀を振るって完全にいなし、余裕のある戦いを見せている。

 真っ向からの打ち合いを亮が避けているため、周囲に響く剣戟の音は軽く、刃の擦れる音が主だった。

 しかし、亮も防戦一方という訳では無く、猛撃の狭間を縫って鋭い反撃を加えており、それらの一撃は浅いものの確かにマグヌスの姿をした亡者に届いていた。


「フッ……良い腕だ。ならば、こちらも遠慮はしない」

「…………」


 数十合にも及んだ剣戟を打ち切り、亮は一歩後ろへと退きながら軍刀を払うと、皮肉気に微笑みを浮かべる。

 だが、マグヌスの姿をした亡者には明確な意思と呼べるものが存在しないのか、亮の言葉に反応を見せる事は無く、淡々とした動きで太刀を構え直す。

 その姿は在りし日のマグヌスの姿そのもので。

 かつて、マグヌスに剣技を教わった事もあるテミスとしては、胸の内に釈然としない思いを抱えずにはいられなかった。


「…………」

「っ……!」

「おい。目の前で戦っている私を無視して、戦えもしない女に浮気か? 武人の癖に随分とつれないじゃないか」


 瞬間。

 マグヌスの姿をした亡者は、太刀を構えたまま僅かに姿勢を変えると、光の無い虚ろな眼差しを音もなくテミスへと向ける。

 しかし、マグヌスの姿をした亡者の狙いを鋭敏に察知した亮は、己が身でテミスを隠すように立ち位置を変えると、軍刀の切っ先を向けて挑発した。

 無論。その皮肉の籠った言葉に反応こそ無いものの、テミスとの間に割って入った亮を明確な邪魔者であると認識したのか、マグヌスの姿をした亡者はテミスへと向けていた視線を亮へと戻していた。


「心配には及ばん。疾く片づける。これまでの剣戟は(ケン)に回っていただけの事だ」


 言うが早いか、亮は剣を大きく振りかぶると、鋭い踏み込みを経て真正面からマグヌスの姿をした亡者へと斬りかかった。

 放たれた一撃は、テミスですら防ぐので精一杯であろう程に迅く強烈な斬撃。

 だが、真正面から万全な構えを以て応じたマグヌスの姿をした亡者は、横薙ぎの斬り上げを以て亮の斬撃に応ずると、ガギィィンンッ!! とひと際激しい剣戟の音を奏でた。


「…………」

「クク……私の斬撃を止めるか。見事ではある……が、狙い通りだッ!!」


 ギシギシとこの戦いが始まって二度目の鍔迫り合いを演じながら、不敵な笑顔を浮かべた亮は剣を交差させたままジワリと僅かに柄を引く。

 この時、上段から斬り込んだ亮に対して、マグヌスの姿をした亡者は横薙ぎの斬撃で受け止めており、上段から斬り下ろした分、亮の一撃の方が威力は重く、二人の斬撃はちょうど中段あたり……胸の高さの辺りで十字を描く形で交叉していた。

 そこから僅かに剣を引いた瞬間。

 亮の軍刀の切っ先がゆっくりと角度を変え、マグヌスの姿をした亡者の眉間へと狙いを定める。

 直後。

 ギャリリリリィィィッッ!! と。

 刃が激しく擦れ合うけたたましい音を響かせると、亮の軍刀の切っ先がずぶりとマグヌスの姿をした亡者の頭部を穿ち抜いた。


「…………」

「おぉっ……!」


 敵の防御を無力化して必殺の一撃を叩き込む鮮やかな一撃。

 その美しさすら覚える亮の剣技に、テミスは己を襲う眠気を僅かに忘れて、感嘆の声を漏らす。

 刃の拮抗した零距離から放たれる刺突は、例え放たれる事がわかって居たとしても感嘆に避ける事ができるような代物ではない。


「……この刺突は、敵の膂力が己よりも強ければ強い程困難になる。何故なら、ただ刺突を放つのではなく、番えた相手の剣を抑え付けながら、狙った場所を正確に穿ち抜く必要があるのだ。ただ鋭く突き出す一方向の力だけではない、鍔迫り合いを制する斬撃方向への力も必要だ」


 鮮やかな手際に見とれるテミスの前で、亮は穿ち抜いたマグヌスの姿をした亡者から自らの軍刀を抜き取ると、自由になった刃で宙を薙ぎながら誰ともなしに語り始めた。

 その眼前では、急所を穿たれたマグヌスの姿をした亡者が、ボロボロと姿を崩して虚空へと消えて行く。


「さきほどの戦いを見ていて思ったが、お前の扱う剣技は何処か拙く、粗削りだ。この場で再び相まみえたのも何かの縁。回復次第、私の剣を覚えていけ」

「ふっ……うぅっ……!」

「私に運ばれるのが厭なら、あと少し我慢しろ」


 軍刀を腰へと納めながら、亮はテミスを振り返って不敵な笑顔を湛えたまま静かに告げる。

 だが、一瞬の興奮が過ぎ去ったテミスは、堪えていた時に倍する眠気に襲われていて。

 瞼は既に半分落ち、微睡みの中へと着実に堕ちかけていた。

 そんなテミスを見た亮は、唇を歪めてクスリと笑うと、意識の朦朧とし始めたテミスの手を引いて、詰め所の建物の中へと入っていったのだった。

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